第59話 魔力不足
人目を避け人気のない海岸に立った僕たちはイゼラトスの弓の試し撃ちをはじめた。
「それではジェナさん、お願いします。沖に向かっておもいっきりイゼラトスの弓を射ってください!」
「はい! わかりました」
ジェナは矢を弦にかけると力一杯弓を引いた。キリキリときしむ音を立てる弓。ジェナの腕が小刻みに震える。
「アオイ様、いきます!」
「はい。お願いします!」
ヒュン! 指から解き放たれた弦が元の位置へと戻り弦に押された矢が鋭い音を立て沖に向かって勢いよく飛び出していった。
シャルルルル。矢は高速回転しながらほぼ直線、ほとんど弧を描く事なく真っ直ぐに飛んでいった。がそれ以上の事は何も起きなかった。
「皆様申し訳ございません! 私が未熟なばかりに!」
「そ、そんな事はないと思います。きっと他に何かその弓の力を解放する何かがあるはず」
予想が大きく外れた事に加え今にも泣き出しそうなジェナの顔に僕は焦りを隠す事が出来ずにいた。
「これはきっと魔力不足ですね」
クラニはイゼラトスの弓をマジマジと覗き込みコホンと小さく咳払いをすると説明を始めた。
「私が見たところイゼラトスの弓にはほとんど魔力を感じませんでした。それは視覚的に見てもわかります」
クラニが言うには風の魔力を帯びているものは僕の疾風のダガーがそうであるように緑色の光りを放つというがこのイゼラトスの弓には目に見えてわかるような光りは放たれていなかった。つまり魔力が枯渇しているということだ。
「それならどうしたら魔力を戻す事ができますか?」
「そうですね。例えば風魔法を行使できる魔法使いの方がその魔力を込める方法がひとつあります。しかしこれは魔力を魔力のまま放出する高等技術が必要になりますのでそれ相応のランクに位置する魔法使いでなければ難しいでしょう。ですので魔ダマリを探す方が現実的ですね」
「魔ダマリ?」
「はいは〜い。教えま〜す」
僕とクラニの間に割って入ってきたルヴィスは僕が色々と知らない事にもうすっかり慣れた様子ですぐに魔ダマリについて説明をはじめた。
自然界には『魔ダマリ』と呼ばれる魔力が自然と集まる場所が存在しそれは結晶であったり泉であったり様々な形で現れるという。いずれの形にせよそれに触れることでその魔力を得ることができるという点は共通している。
「説明は以上! 話しを続けて」
「ルヴィス教えてくれてありがとう」
説明を終えたルヴィスは僕たちの後ろへ下がっていった。
「だとするとその魔ダマリにイゼラトスの弓を触れさせれば魔力が回復するということですか?」
「おそらくは。必ずとは言えませんが見込みはあると思います」
「そんじゃさっそく行くか。魔ダマリによ。んでクラニ、それはどこにあんだ?」
「それが……」
クラニが顔を曇らせる。
「クラニ、お前もしかして知らねぇんじゃ」
「はい。申し訳ございません。ですがこの時期この辺りにはよく海から強い風が吹き付けます。ですからきっとどこかに風の魔力が吹き溜まる場所があるはず」
「そっか。なら海岸線沿いをあたってみるか」
「はい。そう致しましょう」
僕たちはまず灯台の立つ高台へと足を運んだ。
「クラニさんなぜここに? 海岸線はもっと向こうじゃ?」
「それはここからならどこに風が吹き付けているかわかると思いまして。ただ闇雲に探すよりもある程度見当をつけた方が良いかと」
「さすがクラニね」
ルヴィスが両手でクラニを指差し言った。
「あそこ! あの崖が角のように飛び出た岬の間はどうでしょうか?」
「ジェナさん凄いです! あそこなら風の魔力が吹き溜まっていてもおかしくないですね」
「そんじゃ行ってみようぜ!」




