第57話 打開策
「なんか。静かだね」
港に着くとそこは人の姿がほとんどなく閑散としていた。
「おかしいな。前に来た時は船も人もいっぱいでよ。すげー賑やかだったんだぜ」
「たしかに変ですね。以前フォルマン様と買い付けに来た時とはずいぶん雰囲気が変わってしまっています」
アルスとクラニ、2人の話しからするとどうやらこの状況はおかしな事であるようだ。
「私あの人に話し聞いてくる」
「僕も一緒に行くよ」
僕とルヴィスが向かった桟橋には1人の男性が立っていた。
「すみません。船がぜんぜんいないんですけど何かあったんですか?」
「ん? お嬢ちゃん知らないのかい? 沖にクラーゲンジェリーフィッシュが現れちまったんだよ」
「えぇ⁉︎ どうりで船がいないワケね」
「ルヴィス、クラー」
「アオイ、わかってる。知らないのよね。説明してあげる」
クラーゲンジェリーフィッシュとは3大魔女が1人、青の魔女サファリアによって生み出された海魔獣で1000年魔大戦時代軍艦、客船、敵味方問わず船という船を海の藻屑に変えた悪魔のような海魔獣である。
1000年魔大戦終結後主であった青の魔女が姿を消した事でクラーゲンジェリーフィッシュは鎖から解き放たれたかのように世界中の海を彷徨いはじめたといいその被害は現在でも続いているという。
「だからクラゲがいるうちは」
「クラゲ?」
「クラーゲンジェリーフィッシュだと長くて言いづらいからクラゲって略すことにしたの」
「あーなるほど。ごめん話しの腰を折ってしまった」
「だからね。クラゲがいるうちは船が出せないのよ。もし海上でクラゲに遭遇してしまったらまず間違いなく沈没よ」
「そのクラゲって僕たちで倒せないのかな?」
バドン盗賊団やデスモスの討伐に成功したことをいい事に軽いノリでつい言ってしまったが僕のその言葉にルヴィスとおじさんの表情は凍りついていた。
「兄ちゃん、知らないにも程がある。アレを倒そうだなんて自ら死にに行くようなもんだ」
「そうよアオイ。クラゲはただの海魔獣じゃないのよ? あの青の魔女サファリアが創り出したとんでもなくヤバイ代物なんだからね?」
「そ、そんなに?」
「ええ。世界3大魔女である赤の魔女フェルネ。緑の魔女エメラ。そして青の魔女サファリア。この3人の中で最も冷酷で残忍な魔女。冷血の魔女の異名をもつ魔女。それがサファリアなの。そんな魔女が創り出した海魔獣がヤバくないわけないでしょ? これまでどれだけの人が犠牲になってきたか……」
僕はルヴィスのその話しに背筋がゾッと凍りつくようだった。
ルヴィスの話しにはまだ続きある。
自ら移動する力をほとんど持たないクラーゲンジェリーフィッシュは普段海風に身を任せユラユラとそのクラゲに似た巨大なカサと無数の長い触手をなびかせ海上に浮遊しているという。
しかしその触手に少しでも触れようものならその姿は巨大なイカへと変貌し強大な力を持つ触腕であっという間に船はバラバラに壊され海の底へ沈められてしまうという。逆をいえばこちらからその触手に触れるようなことをしなければ襲われることはないのだ。
またこの時期のパムラム周辺の海域はとても天候が変わりやすいため風向きを予測することが難しく風の影響を受けるクラゲの動きを予測することもまた難しいのだという。
「うーん。何か良い方法はないかな」
「ちょっとアオイ。本気でクラゲを何とかしようと思ってるの?」
「うん。だってクラゲを何とかしないと大陸には渡れないだろ?」
「それはそうだけど。アレは放っておけばそのうち風に流されてどこかへ行ってしまうわ。そしたら船が出るから大陸にも渡れるわよ」
「それはいつ?」
「それは……わからない」
「だよね。ちなみに船はどれくらい出ていないのですか?」
僕はおじさんに問いかけた。その答えによればここ1ヶ月の間はまったく船は出ていないといい今後もその見通しはまったく立っていないという。
「ほらね」
「でもそれって仕方なくない?」
「僕も半分はそう思う。けどもう半分は何か打開策があるんじゃないかと思うんだ」
「打開策……アオイがそう言うんだから私もあると信じたい。けどさすがにアレに対抗する術は……」
僕に気を遣って言葉を濁らせたルヴィスはそれ以上何も言わなかった。
「兄ちゃん、嬢ちゃん。何ならホテルにいる船乗りの兄ちゃんに話しを聞いてみたらどうだ?」
「船乗りの兄ちゃんですか?」
「ああ。クラーゲンジェリーフィッシュにやられた船に乗ってた唯一の生存者だ。海沿いのホテルで療養している。ホテルまでは私が案内してあげよう。ついておいで」
「おじさんありがとう!」
「ホッホッ。そうだ私の名前はウォッカだ。よろしくね」
「僕はアオイです。彼女はルヴィス。よろしくお願いします」
「ルヴィスです。ウォッカさんよろしくお願いします」
「ホッホッ。あっちの兄ちゃんと嬢ちゃんたちもキミたちの仲間だろ?」
「はい」
「それじゃ皆んなで行こうか」
僕たちはウォッカに連れられ港にほど近いホテルに案内された。
「ここだよ」
そこはパムラムハーバーホテルといってここパムラムでは1番の高級リゾートホテルだった。
「お帰りなさいませ。オーナー」
「え⁉︎ ウォッカさんってここのオーナーなんですか?」
「そうだよ。あれ、さっき言わなかったっけ?」
「言ってませんよ」
「ホッホッ。そうだったかな? まぁそういうことだからここは私のホテルだ」
オーナー⁉︎ あのおじさんが⁉︎ 桟橋に立っていた普通のおじさんがこんな高級リゾートホテルのオーナーだったなんて。人は見かけによらないとはこういうことを言うのだと実感し人を見かけで判断した自分の浅はかさを反省した。
「この方たちは私の客人だ。あの船乗りに会わせてやってほしい」
「良いのですか? あの船乗りは少々心を病んでおられますが」
「ホッホッ。大丈夫だろ。案内してあげなさい」
「かしこまりました」
「それでは皆さんまた後でね」
僕たちはボーイに案内され船乗りがいるという一室に向かった。




