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第54話 港町パムラム

 ヒヒーン! ジュリードのいななきで一斉に目が覚めた僕たちがテントの外に出るとそこにはジュリードのたてがみをブラッシングするアルスの姿があった。


「おはようアルス。早いね」

「おう。おはよう。皆んなもおはよう! 準備は整ってるぜ。ジュリードの体調も万全だ。朝飯食ったらすぐに出発するぜ」

「では朝食は私がご用意いたしますね」


 そういうとクラニは手際良く辺りの草木を集め火を起こすと鞄から取り出した保存食用の硬いパンをその焚き火で炙りはじめた。パンが焼ける香ばしい香りが寝起きの鼻をくすぐり一気に目が覚めていく。そしてもう一品。クラニは鞄からチーズらしき丸い塊を取り出した。


「今からこちらのチズーを溶かしますのでパンにつけて召し上がって下さい」


 チズーって。ほんとこの世界の食べ物の名前はニアミスなんだよなぁ。とそんなことを思ったのは僕だけだろう。


 クラニはチズーを焚き火で炙り溶かすとパンにつけ各々に配っていった。


「はいアオイさん。冷めないうちにどうぞ」

「ありがとうございます。頂きます」


 僕はとろりと垂れるチズーを落とさないよう上を向きそのままパンにかぶりついた。うん。チーズだね。


 それにしてもこれ美味しいな。チズーの塩味に小麦と少々のコゲが香るシンプルながらも素材ひとつひとつの風味と味をしっかりと感じることのできるそんな逸品に僕は舌鼓を打った。


 ペロリとチズーパンをたいらげた僕たちはすぐさま馬車に乗り込みパムラムへと出発した。

 マダラ雲が出現する地帯を通り過ぎた馬車は海を横目に海岸線の道を進むとやがて岬に立つ灯台が見えた。


「おーし。ここまで来ればパムラムはもう少しだ」


 馬車はそのまま道なりに進み小高い丘を登り切ったところで一旦止まった。


「あれがパムラムの街だ。んでもってあの海から少し飛び出てんのが港だ」


 周りを小高い丘に囲まれたそこは白い壁とオレンジの屋根で統一された家が肩を寄せ合うように立ち並ぶまるで地中海のような街並みだった。1つ不思議だったのは港町という割には港に停泊する船がとても少ない事だった。


 パムラムの街に入った僕たちがまずやるべきこと。それはリルエマから頼まれた水着の試作品をマーメイルに届けることだ。


「えっとまずはマーメイルってお店を探さないとだね」

「そうね。なら私ちょっとあの女性ひとに聞いてくる!」


(すごいなルヴィスは。僕なら緊張してしまうこともあんなにサラッとやってのけちゃうんだもんな。いきなりは無理だけど僕も少しは見習わないとな)


 初対面の人に自分から話しかけることなどまずできない僕はルヴィスの物怖じしない性格に感心させられた。


「マーメイルって有名なのね。マーメイルってお店知ってますかって聞いたらすぐに教えてくれたわ」


 地元民と思われる女性に話しを聞いてきたルヴィスが左手の親指をグッと立て言った。


 マーメイルは今いる大通りを海に向かった先で合流する海岸通り沿いにあるといいマーメちゃんという人魚のようなマスコットが目印だという。


「見て! あのマスコット。あれがマーメちゃんじゃない?」


 そう言ってそのマスコットに駆け寄るルヴィス。


「やっぱりそうだよ! マーメちゃんよ! 可愛い〜。ということはここがマーメイルね。話しに聞いた通りすっごく可愛いお店だわ」


 店先のショーウィンドウにはリルエマが着ていたようなガーリーな服や水着を着たマネキンが立ちガラス越しに見える店内には服以外にもお洒落な照明や小物など可愛らしい雑貨が所狭しと並んでいた。


「いらっしゃいませ〜」


 店に入るとバスタブのようなところから身を乗り出しこちらに手を振る二十代前半くらいに見える女性が出迎えた。


「あ、あの、貴女あなたがこのお店の店長さんですか?」


 僕はさっきのルヴィスを見習い意を決してその女性に話しかけた。


「はい。そうです。店長のオリビアです」

「あの、これを」


 僕はリルエマから預かってきた試作品の水着が入った袋をオリビアに手渡した。


「これは?」

「リルエマさんから貴女にお渡しするよう頼まれました。試作品の水着が入ってます」

「えぇ⁉︎ リルエマさんから⁉︎」


 バシャン!


「うわっ! 冷たっ!」


 僕は突然頭から水をかぶった。


「ごめんなさい! つい驚いてしまって尾ビレをバタつかせてしまいました」


 謝罪を述べたオリビアがバスタブから尾ビレを出しヒラヒラと振った。


「その尾ビレ! もしかしてオリビアさんは人魚なんですか?」

「ええ。私は人魚、セイレーンですがそれがどうかしましたか?」

「え?」


 周りを見渡すと驚いているのは僕だけだった。


 後で聞いた話しだがここパムラムはセイレーンの街といっても過言ではないほど大勢のセイレーンが生活しているといいセイレーンがいることに驚くことなど無いという。


 ではなぜこの店に来るまで僕は気がつかなかったのか。それはセイレーンは陸上ではその尾ビレを足に変化できるからに他ならなかったからだ。


 つまり街ですれ違った地元民らしき人はそのほとんどがセイレーンだったのだ。ちなみにオリビアが尾ビレをそのままにしているのは観光向けのパフォーマンスだという。


「では気を取り直してリルエマさんの試作品、確認させて頂きますね」


 オリビアはゴクリと息を呑むと袋から試作品の水着を取り出した。

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