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第51話 テシアの遺物

 フォルマン武器防具店に入店するなり物凄い形相で僕たちに駆け寄るフォルマン。


「おおおおお‼︎」

「よお! フォルマン。また邪魔するぜ」

「おおおおお‼︎」

「おいフォルマン。いったいどうしちまったんだ? 聞いてんのか? おーい」


 フォルマンのその様子はまるでアルスの姿がその目に写っていないかのようだった。そしてそれはアルスに限った話しではなく僕たちに対しても同じだった。1人を除いて。


「おおおおお‼︎ クラニーーーー‼︎」


 そう。その1人とはクラニだ。


「フォ、フォルマン様⁉︎」

「元気だったか? 怪我はしてないか? 病気はしてないか? 困ったことはないか?」


 フォルマンのクラニに対するその姿はまるで愛娘を愛でる父親のようだった。


「ちょっとフォルマン様。どうなさったのですか? 私は怪我も病気もしておりませんし困ったことも特にございませんよ?」

「そうかそうか。それは何より……ハッ。コホン。これは私としたことが取り乱しました」


 ようやく僕たちの存在に気がついたフォルマンは恥ずかしさを隠すかのように髭を数回撫でると後ろを向いてしまった。


「皆様、フォルマン武器防具店へようこそいらっしゃいました」

「フォルマン、なんでこっち向かねぇんだ?」


 フォルマンがこちらを向けない理由。それはクラニが帰ってきた嬉しさからニヤける顔を隠しきれないからに他ならなかった。


「何でもございません。何でもございませんがもうしばらくこうさせてください」

「まぁそれは構わねぇけどよ。フォルマン、ちっと今回も頼みてぇことがあんだがいいか?」

「頼み、でございますか? それはいったいどのような?」

「このの装備を揃えてもらいてぇんだ」

「この娘?」

「ああ。この娘だ」


 フォルマンはルヴィスでもクラニでもない他の誰かがいるかの様なアルスの言い草にこちらを向いた。


「この貴女かたは?」

「彼女はエルフ族の女王、テシア様の側近だ」

「これは驚きました。まさかエルフ族の方にお会いできるとは思いもよりませんでしたぞ。しかも女王テシア様の側近であられるとは! お会いできたこと至極光栄にございます。私はこのフォルマン武器防具店のオーナー、エドワード・フォルマンにございます。以後お見知りおきを」

「私はジェナと申します。テシア様より里の外の世界を探訪するよう命られた者にございます」

「つうことだからよ。ジェナに合う武器防具を見繕ってほしいんだ」


 フォルマンは深く息を吸い込みゆっくりと吐き出すと机の引き出しから鍵の束を取り出した。


「ジェナ様へご用意させて頂く品は既に決まっております。どうぞこちらへ」


 初めて会ったはずなのに既に品が決まっている? 僕はフォルマンの言葉を不思議に思いながらも彼の後を黙ってついていった。


 まずは武器からと思いきや武器部屋には入らず防具部屋までいっきに螺旋階段を降りていくフォルマン。防具部屋に入るとまわりの品々には一切目もくれず1番奥にある1つのショーケースまで進みその足を止めた。そして先程の鍵の束を取り出すとショーケースの横にある鍵穴にそのうちの1本の鍵をさした。


 するとショーケースがズズズズッと横に動き隠し階段が現れた。


「こちらです」


 フォルマンに続きその隠し階段を降りた先には複雑な鍵がかけられた大きな扉があった。


「これより先は門外不出の品々を収めた封印の庫。庫内にて目にされる全てについて一切の口外を禁ず。よろしいですかな?」


 いつにも増して厳しい顔でそう語ったフォルマン。僕は思わず固唾を飲んだ。


 そうこうしているうちにフォルマンが1つまた1つと扉の鍵を外していく。そして最後の鍵が外されフォルマンによって引かれた扉がギギギギと鈍い音を立て開く。


 ひんやりとした空気が足元をつたい否が応でも緊張感が走る。最後まで扉が開かれるとそこには人魂のような青白い灯が1つ宙に浮いており扉をくぐると同時に僕たちに寄り添い足元を照らしはじめた。


 庫内は暗くそれに加え霧のようなものがかかっているため視界はせいぜい灯に照らされた数歩先くらいに限られた。


「皆様着きましたぞ。この部屋にございます」


 僕たちの辿りついた部屋には宙に浮きゆっくりと回転するエメラルド色に輝く水晶の様な鉱石が佇んでいた。


「あれは?」

「あれは封印の魔石にございます。中に封印されているものの属性によって魔石の輝く色が変わります。この魔石は緑色の光りを放っている。つまりこれはアオイ様の持つ疾風のダガーと同様、風の魔力を宿している証なのです」

「んで? この中には何が封印されてんだ?」

「アルス様、気が早うございます」

「んな事言われてもよ。俺は回りくどい事が苦手なんだよ。わかってんだろ? フォルマン」


 フォルマンは小さくため息をついた。


「わかりました。結論から申し上げます。この魔石にはイゼラトスの弓が封印されております」


 イゼラトスの弓。それは1000年魔大戦の時代初代テシアが手にしていたとされる伝説の弓。風の大精霊イゼラトスの名がつけられたその弓には強大な風の魔力が宿るとされたった1射で神秘の森へ攻め入ってきた人間族の軍勢を退けたという逸話がある。


「イゼラトスの弓⁉︎ それは本当なのですか⁉︎」


 イゼラトスの弓と聞いて真っ先に反応したのはジェナだった。それもそのはず。イゼラトスの弓は数年前何者かによって里から盗み出され、以来行方知れずになっていたからだ。


「本当にございます。私が見たところこれは1000年魔大戦時代のものに間違いございません」

「でもどうしてここに?」

「はい。それは2年前のこと。パムラム沖で座礁した商船から偶然発見され国王様の命により私が厳重に保管することになったからにございます」


 座礁した船の積荷の一部は闇商人が一枚噛んでいたものだといいイゼラトスの弓もその1つであったという。


「そうでしたか。しかしなぜその時に返還してくださらなかったのですか?」

「それは私どもがジェナ様方エルフ族と接触する機会がこれまでなかったからにございます」

「あ、なるほど」

「ですから今日この千載一遇の機会にお返しできればと」


 そう言うとフォルマンは右腕のスーツの袖をまくりその腕に刻まれた刻印を魔石に重ね封印解除の呪文を唱えた。すると魔石が眩い光りを放ち粉々に砕け散り中からイゼラトスの弓と思われる見た目シンプルな木製の弓が出てきた。


「これが……イゼラトスの弓」

「さあ、ジェナ様。お手にお取り下さい」

「はい」


 イゼラトスの弓を両手に取ったジェナは考え深そうにそれを見つめた。


「初代テシア様が手にされていたものをこうして手にすることができるだなんて。ありがとうございます。フォルマン様。これは時期をみて私からテシア様にお返しいたします」

「そうして頂けると助かります。それでは戻りましょう」

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