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第5話 最高の2文字

 ルヴィスはコホンと小さく咳払いをすると再び魔法陣に左手をかざした。


「願い主たるカイドウ アオイがこれより示す代償をもって血の契約を締結せよ! さ、アオイここに左手を乗せて宣言して」


 宣言してと言われてもどうすれば良いのか分からない。けれどもやるしかない。となれば……しばらく考えた後頭に浮かんできたのはこれまで読んだファンタジー小説やゲームの中に出てくる言い回し。僕はそれらを参考にそれっぽくやってみることにした。


「願い主たる海堂葵がここに宣言する。ウェディングドレス……いや《《最高》》のウェディングドレスを今願いの代償とする‼」


 我ながら決まったと思った。すると魔法陣が赤い閃光を放ちゆっくりと一回りし刻印の状態へ戻った。ルヴィスいわくそれは宣言を受け入れた証なのだという。


「契約は無事締結したわ……けど」


 けど? 契約は無事結ばれたというのに何故かルヴィスの顔からは不満の色が見え隠れしている。


「ルヴィス、どうかした?」

「別に。何でもない」


 赤らめた頬を膨らませたその顔。何でもないわけがない。原因が何であるかわからないがきっと僕のせいだろう。しばらくむくれていたルヴィスだったが黙って見つめる僕に痺れをきらせたのかその口を開いた。


「だって。アオイが『最高』なんて付け加えるから」

「え? まずかった?」


 はぁっとルヴィスは深いため息をついた。


「まずいに決まってるでしょ。『最高』なんだから。例えばそのドレスは誰が作ると思う?」

「ん〜服屋かな? それとも服飾師なんて専門職があったりして」

「どっちも正解。世界には服を作る者は大勢いるわ。でも最高っていったらその大勢の中の頂点を見つけなくちゃいけない。他にもドレスの生地だったり飾りの宝石だったり色々」

「……あ」

「わかったでしょ」


 つまり最高のウエディングドレスを作るということはそれに携わる人や材料の全てにおいて最高を求める必要があるということだ。


 格好つけて安易に『最高』なんて言ってしまったことに今更ながら後悔する。


「まぁでもそれはそれで楽しいかもしれないわね」

「楽しい? どうして?」

「だってほら色々な最高を探すってことはこれからアオイと私で世界中を駆け巡るってことでしょ? それって冒険よね! そう考えたらなんだかワクワクして楽しくなってきたってわけ」


 ずいぶん遠回りなウェディングドレス作りになりそうだというのになんともポジティブだ。


「なるほど冒険か。それは確かにワクワクするね。そうとなればまずやるべきは……」

「職人探しね。最高の職人を見つけないことにはドレス作りは始まらないもの」


 確かにそうだ。しかしこの世界がどれだけ広いかわからないが最高の職人を見つけ出すのは容易なことではないはず。さてどうしたものか。


「最高の職人探しか。これは最初から難易度高いな」

「そうね……」


 いきなりの難題に僕とルヴィスは頭を抱えた。


「ベレンへ行ってみてはどうかの?」


 食後のお茶を運んで来た老婆が言った。


「すまないねぇ。面白そうな話しについつい聞き耳を立ててしまったわい」

「お婆ちゃんが謝ることなんてないわ。周りに聞こえるような声で話してたのは私たちですもの。ね、アオイ」

「そうですよ。気になさらないで下さい」

「そうかい。二人とも優しいねぇ。なら老人のお節介だと思ってもう少しだけ話しを聞いてくれんかの?」

「そんなお節介だなんて。ぜひ聞かせて下さい」

「私も聞きたいわ。お婆ちゃん」


 老婆は微笑みゆっくりと話はじめた。


「ここから西に行った山間の街ベレンには腕利きの服飾職人がおるという噂を聞いたことがあっての」


 僕たちは顔を見合わせるとにんまりと笑った。


「それだ!」

「それよ! お婆ちゃんありがとう!」


 老婆はフフっと小さく笑いカウンターへ戻って行った。


「その職人が最高かどうかはわからないけど何かしらの情報は得られるはず。となれば最初の行き先はベレンに決定だね」

「そうね」


 お茶を飲み終えた僕たちはカウンターの老婆の元へ向かった。

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