第47話 湯煙温泉の急務!
リルエマに連れられ到着した温泉街は山肌に沿うように登り階段が続きそこら中から立ち登る湯煙に街灯や建物の明かりが乱反射し幻想的な雰囲気を漂わせていた。
「温泉はぁこの上よぉ」
僕たちは階段の脇に立ち並ぶ土産屋や茶屋を横目に湯煙で霞む階段を登り温泉のある建物の前で一旦足を止めた。
「着いたよぉ。ここが温泉だよぅ」
岩間に木材を組んで作られた趣きある建物には木の枝を丸く編んだ明かりが吊るされ外とはまた違った雰囲気を醸し出していた。
「ようこそおいで下さいました。左が男湯。右が女湯でございます。ではごゆっくり」
建物に入るとすぐに番台らしき所からひょっこりと小柄な老婆が顔をのぞかせ僕たちにそう告げるとまた番台の中へと姿を消した。
「アオイとぉアルスはぁそっちだねぇ。それじぁまた後でねぇ」
「はい。ゆっくり入ってきて下さい」
リルエマたちと分かれ男湯に移動した僕とアルスは脱衣所で服を脱ぐと露天風呂へ向かった。
「驚いたな。ちゃんと露天風呂だ」
正直この世界観からしてこんなしっかりと和風な露天風呂があるとは思っていなかっただけに僕は呆気に取られた。
「あれ? そういえばロックさんは?」
温泉の入り口まで一緒にいたはずのロックの姿がないことにたった今気がついた僕はアルスに聞いた。
「ロックなら入り口で突っ立ってるぜ。お前も入れって言ったんだけどよ。『私はここで皆様が安心して入浴できるよう警護いたします!』とか言って頑なに入って来なかったんだわ」
「そうだったんですか」
「まあ無理に誘ってもなんだからよ。あいつの好きにさせてやったってわけよ。だからよ。俺たちは俺たちなりに温泉を楽しめばいいさ。そんじゃ中に入ろうぜ」
露天風呂は岩で囲まれたひとつの大きな湯舟を木の仕切りで中央から半分に区切り男湯と女湯に分けた構造をしており、それぞれの湯舟には滝のように源泉が湧き出る岩場があり空を見上げると湯煙の間から美しい星空を眺める事ができた。
「はぁ。気持ちいいなぁ。お湯の温度も丁度いいし空もきれいだなぁ」
「だなぁ」
手足をめいっぱい伸ばし頭を岩に乗せ夜空を眺める僕の側でアルスは大の字になりぷかぷかと湯舟に浮かんでいた。
「アオイ〜気持ちいいぞこれ。お前もやってみろよ」
僕は少し罪悪感を感じながらもアルスと同じように体の力を抜き大の字になり湯舟に浮いた。
「……気持ちいい」
「だろ?」
「うん」
僕とアルスはしばらくの言葉交わすこと無くただただ湯舟に浮き無心で夜空を見つめた。
「きれいな星空だね」
「そうだな。ここは王都やルッカに比べて明かりが少ねぇし空にも近けぇから星がよく見えるな」
「こんなきれいな星空見るの生まれて初めてだ」
それを聞いたアルスは湯舟に浮くのをやめ岩に背をつけ座った。
「アオイのとこも星空があんま見えねぇのか」
「うん。僕のいた国もルッカみたいに昼夜関係なく常に明かりがあるところだったからね」
「そっか。そういやアオイ、なんだかんだで聞けてなかったがお前、どこの国から来たんだ?」
今更? と一瞬思ったがたしかに聞くタイミングはなかったかもしれない。むしろアルスは聞かないでいてくれたように思う。いくらルッカでのことがあるとはいえ素性の知れない僕たちにここまで良くしてくれるそんなアルスに申し訳ない気持ちでいっぱいになった僕は正直に話すことを決めた。
「アルスには話しておかないとだね。僕がいた国、それはニホンっていうんだ」
「ニホン? 聞いた事ねぇ名前の国だな」
「やっぱりそうだよね」
「その国は大陸にあんのか?」
「いや大陸には無いよ」
「大陸にはねぇのか。んじゃどっかの島か?」
「それも違う」
「島でもねぇのか。ならいったいどこにあんだ? そのニホンとやらは」
「この世界とは別の世界だよ」
「……別の世界? そりゃいったいどういうことだ?」
「僕は異世界から来たんだ」
「イセカイ? うーん。それも聞いた事ねぇな。まぁよくわかんねぇけどそのイセカイのニホンって国からアオイは来たってことだよな?」
「うん」
「そっか。わかった。お前の事だ。ウソは言ってねぇだろ?」
「うん。絶対にウソなんかじゃないよ」
「ならそれでいい。アオイお前はイセカイのニホンから来た。それでいい」
「アルスはいいヤツだな」
「何だよ急に。面と向かってんな事言われっと恥ずかしいじゃねぇか。ん? アオイ、ちょっと静かにしろ」
急にアルスが姿勢を低くして口に右手の人差し指を当てるとしーのポーズをとった。
「うっわー広ーい! 何あれ⁉︎ みんな見て見て。凄いよ。お風呂に滝が流れてる」
それは女湯の方から聞こえてきたルヴィスの声だった。どうやら女性陣も露天風呂に出てきたようでルヴィスの後にはクラニやリルエマ、ジェナの声も聞こえてきた。
「アオイ、急務だ! 目標から必要な情報を傍受する! まずは潜水で目標に近づく。接近に成功したら後はとにかく息を潜めて耳を研ぎ澄ませるんだ」
「……アルス。何か大それたこと言ってるけどそれ、ただ聞き耳を立てるだけの話しだよね? 悪く言えば盗聴だろ?」
「そ、そんな事はないぞアオイ。お前も男ならこの重大任務に参加できることを誇りに思え! 事は急を要する! もう一刻の猶予も残されていない。俺は行くぞ!」
そう言うとアルスは湯舟に潜り仕切りの板壁に向かって泳いでいった。




