第44話 念願のシークル
「……オイ。アオイ。起きて」
「んん〜。もう、朝?」
「うん。朝だよ。だから起きて」
「おはようルヴィス」
「おはようアオイ」
「皆んなはもう食堂に集まってるって。クラニがさっき迎えに来てくれた時に言ってた。クラニには先に行ってもらったから私たちも早く行くわよ」
僕はすぐにベッドから起き上がるとルヴィスと一緒に食堂へ向かった。
「みんなおはよ〜。ごめんね。遅くなって」
「おはようございます。遅くなりました」
ルヴィスと僕はみんなに朝の挨拶を済ませると席に着いた。
「これでみな揃ったようじゃの。では朝の食事をはじめるとしよう。いただきます」
昨夜の宴とは打って変わり朝食はパンとサラダとオランジのジュースだけというシンプルなメニューだった。
「そうじゃアオイ殿。つい今しがた工房から連絡があっての。もうしばらくでシークルが出来上がるそうじゃ」
「本当ですか⁉︎ それは楽しみです!」
「うんうん。シークルは出来上がり次第わらわの元に届くでの。食事を終えたら謁見の間で待っていてくれ」
「はい!」
それから僕たちは朝食を済ませると謁見の間に移りシークルが届くのを待った。そして待つこと一時間。ついにその時がやって来た。
「失礼いたします! テシア様、工房より職人の皆さまがおいでです」
「おお! ついに来たか。早う皆をここへ」
門番はテシアに言われた通り三人の女性を謁見の間に通した。
「テシア様。仰せの通りシークルを仕立てて参りました。今回は特別な客人に渡す大切な一品とお聞きし職人一同いつも以上に気合を入れて作り上げました至極の逸品にございます。どうぞお納め下さい」
「うむ。ご苦労であった。ではその至極の逸品とやら拝見いたそう」
テシアは職人より手渡されたシークルを僕たちから見えないよう後ろを向きその仕上がり具合を確かめた。
「うむ。さすがは里が誇る職人たちじゃ。見事な仕事ぶり。これぞ至極の逸品と呼ぶに相応しい品である。まさにシークルの中のシークルじゃ!」
「有り難きお言葉。職人冥利につきます」
「うむ。ではさっそく。アオイ殿、ここへ」
僕はテシアの前にひざまずいた。
「アオイ殿、何もそこまでせいとは言っておらぬぞ。さ、立ってくれ」
テシアは少々困った顔で僕の手を引いた。
「コホン。ではあらためて。この度はジェナとロイを盗賊から救い出しその命を助け、さらにはこの里を魔虫の脅威から救い出してくれたこと、心から感謝いたす。よってここに感謝の意を示しその証として我がエルフ族の至宝、シークルを褒美といたす! 受け取ってくれ」
「ありがとうございます! ワッ! 何これ⁉︎」
シークルを手にした瞬間、僕はそのあまりにも心地よい肌触りに驚いた。
「どうしたのじゃ? 何か手落ちがあったか?」
「いえ。そのようなことはありません。こんな心地良い肌触りは生まれてはじめてだったものですからつい驚いてしまいました」
「おお。そういうことじゃったか。そうであろう。そうであろう。シークルの肌触りの良さは並外れておるからのう」
テシアは腕を組み得意気にうなづいた。
「……これがシークル」
いつも控えめで常に僕たちの一歩後ろにいるクラニが珍しく僕の横から割って入るようにシークルを覗き込んだ。
「純白。それ以外に当てはまる色が無いほどの白さ。聖樹の綿毛の品質の高さは申し分なし。そして何より凄いのはその品格を格段に上げる職人さんの技術力と技! どれをとってもこれ以上ウェディングドレスに最適な生地はない」
目を輝かせ食い入るようにシークルを隅々まで観察するクラニの姿は普段からは想像できないほど積極的なものだった。
「それじゃアオイ、せっかく念願のシークルが手に入ったんだからその喜びを全身で表現してくれない?」
「おお! いいなそれ。アオイはいつも最後のキメがねぇからな。一丁バシッとやってくれ」
「えぇ⁉︎ 何だよそれ」
僕はルヴィスたちの無茶振りに困惑したが悪い気はせず何かないかと考えを巡らせた。そしてそんな僕が捻り出した結果がこれだ。
「シークル! コンプリート‼︎」
僕はシークルを頭上に高々と掲げ叫んだ。
「こんぷりーと? それアオイの国の言葉よね? どういう意味?」
「えっと、なんていうか、完成とか完了みたいな? 僕のところでは何かを成し得たときに使う言葉なんだ」
「そっか。何か響きもいいし私たちも一緒にそれ言いましょう。せーの。こんぷりーと‼︎」
「こんぷりーと‼︎」
僕はシークルをもう一度頭上に掲げ、皆んなはそれぞれの腕を天に向かって突き上げた。
最後までお読み頂きいつもありがとうございます!
ついに念願のシークルを手に入れることができた葵たち一行。
ということでここで一区切り。第一章完了です。
第二章からはいよいよ本格的なウェディングドレス作りと素材集めの旅が始まります!(って展開遅くてごめんなさい)乞うご期待⁉︎
引き続きお付き合い頂けたら幸いです。




