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第43話 アルスの提案

「ん〜。アランリリスの香りが口いっぱいに広がる〜。お肉もとっても柔らかくってほっぺた落ちそ〜」


 クムフォム鳥のグリルハーブソテーを口に入れたルヴィスが頬に手を添え満面の笑みを浮かべた。


「ほらほらアオイも早く食べなよ。すっごく美味しいから」


 ルヴィスに急かされソテーを口に入れた瞬間ルヴィスが言っていたようにアランリリスと呼ばれるハーブの香りが口いっぱいに広がった。それは例えるならローズマリーとタイムを混ぜたような香りだった。


 肉を噛む度にカリカリに焼かれた表面の皮がパリッパリッと小気味良い音をたて様々なスパイスの香りと味が肉汁とともに口の中に溢れ出る。


「美味しい!」


 僕もまたルヴィスと同様に頬に手を添え満面の笑みを浮かべた。


「ところでテシア様。なんでエルフ族は外との接触をこんなにも避けるんだ?」


 な⁉︎ アルス! なんで急にそんな事聞くんだ? その話はさっき僕らがしたばかりだしある意味解決済みなのに! これじゃまた辛い過去を蒸し返してしまうじゃないか!


「外は色々と危ないからじゃ」


 へ? テシア様そんな簡単なことじゃなかったでしょ? さすがにアルスもそれだけでは納得しないと思うけど……。


「なるほど。たしかに」


 えぇ⁉︎ 納得したの? 今ので? それじゃ僕が聞いた歴史は何だったの? 僕は思わずイスの背にのけ反ってしまった。


「我らエルフ族は身を守る術をほとんど持たぬからの。争いともなればひとたまりもないのじゃ」

「でもよ。エルフ族といえば弓の名手だって聞いたことがあるぜ?」

「それは狩猟の話しじゃ。たしかに一〇〇〇年魔大戦の時代には弓矢で戦ったという歴史はあるが今は狩猟以外に用いることはない」

「そうか。ならこれからも外との交流は避け続けるってことか?」

「そうじゃな」

「んじゃよ。もしその危険を何とかできるとしたら、外ともっと交流しても良いとは思わねぇか?」

「無論。そのような事が本当にできるのであればな」


 テシアの返した言葉にアルスがニヤリと笑う。このしたり顔はきっと何か企んでいるに違いない。


「テシア様。ならこういうのはどうだい?」

「なんじゃ?」

「俺らエルトナイン王国と同盟を組む!」

「同盟じゃと?」

「そう。フェネルテシアとエルトナイン王国で同盟を結びその名の下に俺たちがここフェネルテシアの安全を保証する」

「ほう。アルス殿たちが我らを守るというならこちらは何をすればよいのじゃ?」

「別に特にはねぇがそうだな。ここはとにかく綺麗なところだし珍しいもんがたくさん取れて美味いもんも山ほどある。だから観光地として開放してもらうってのはどうだ?」

「観光地か。悪い話ではないの。じゃがあまり外からの流入が増えるというのも考えものじゃ」

「そのあたりは心配しないでくれ。エルフ族に迷惑をかけるような事はしねぇ。里に一度に入れる人数やら細けぇことはそっちで決めてくれてかまわねぇからよ」

「うむ。そこまで言うてくれるのならば前向きに検討しようではないか」

「だってよ。ジェナ。よかったな」

「え⁉︎ 私はそのようなお願いは」

「おう。してねぇよな。けどなんだ。あんな顔見たらよ。ちっとばかし放っておけなくなっちまってな。勝手な真似しちまったのはわかってるんだがまぁ許してくれや」


 後ろ頭をかきながらアルスはジェナに言った。するとジェナは目を潤ませながらアルスに頭を下げた。


「ありがとうございます! アルス様! アルス様の御恩一生忘れません!」


 アルスのやつなかなか男気があるじゃないか。普段はドMの変態っぷりを遺憾無く発揮しているだけに今回の件は僕も心打たれ目頭が熱くなった。


「テシア様。詳しいことはまた後日ってことでいいか?」

「いつでも良いぞ。わらわは暇を持て余しておるからの」


 それから僕たちはありとあらゆるご馳走を食しながらエルフ族の踊り子による美しい舞や歌などそれはそれは豪華で煌びやかな宴を堪能した。


「あ〜美味しかったし楽しかったね〜」

「ほんとですね。エルフ族の皆さんみんな歌も踊りもお上手でしたね。私感動してしまいました」

「ほんとみんな美人だったよなぁ。あのスラッとした足で踏まれたら……くぅ〜」


 テシアの配慮によりそれぞれに個室を用意された僕たちは久しぶりにひとりで一夜を過ごすことになった。


「静か……だな」


 僕はこの静かすぎる夜にひとり寝付けないでいた。それはこの世界に来てからというもの四六時中僕のそばには当たり前のようにルヴィスがいてお喋りをしたりご飯を食べたりひとつのベッドで並んで寝たり。ひとりでいる事など無いに等しい生活にいつの間にか慣れていたからに他ならなかった。


 それからどれくらいの時間が経っただろうか。一向に寝付けないでいた僕はぼんやりと天井をながめベタではあるが羊の数を数えていた。すると


「アオイ、起きてる?」


 部屋のドアがゆっくりと開きルヴィスが顔を覗かせた。


「ルヴィス。どうしたの?」

「何だかひとりだと落ち着かなくて全然眠れないの。だからごめんね。来ちゃった。中入ってもいい?」

「もちろんだよ。入って入って。僕もなんだ。ひとりだと全然寝付けなくてさ。ずっと天井眺めて羊数えてた」

「そうだったんだ。ならいつもみたいにアオイの隣りで寝ても良い?」

「うん。僕もルヴィスがいてくれたら速攻眠れると思う」

「ありがとうアオイ」


 ルヴィスは僕のベッドに潜り込むと僕の腕にしがみついた。


「ル、ルヴィス。ちょっと近すぎじゃない?」

「ダメ?」

「い、いやダメ、なんかじゃないけど」

「なら今夜はこうさせて。お願い」

「う、うん」

「おやすみ」

「お、おやすみ」


 いつもになくしおらしいルヴィスに僕はドキドキした。


 それからしばらくするとルヴィスの気持ち良さそうな寝息が聞こえ僕もその寝息に誘われ眠りに落ちた。

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