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第42話 黒歴史

――時はクラニたちがバルコニーに出たあたりに戻る――


「テシア様、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」

「なんじゃ? アオイ殿」


 ジェナが涙を流し愚痴をこぼしたベレンでの一件がずっと心の片隅に引っかかっていた僕はその胸の内をテシアに打ち明けることにした。


「エルフ族はなぜ外界との接触を拒んでいるのですか? ジェナさんのように外界との交流を望む者もいるというのに。テシア様も本当のところその一人ですよね? でなければわざわざ使いを出してまで外の街のスイーツを頼んだりしませんよね?」

「いかにも。アオイ殿の言うとおりじゃ。わらわとて真意はジェナと同じ。しかしわらわは第一六代目テシア。エルフ族の女王として代々守り抜いてきた掟を破るわけにはいかぬのだ」

「アオイ。エルフ族にはね。こうしなければならなかった歴史があるのよ」

「歴史?」

「そう。我らエルフ族と人間族との歴史じゃ」


 ルヴィスに促されたテシアが語りはじめた。


 それは世界がまだ種族間での争いに身を投じていた時代の話。特に人間族と魔族との争いは激化の一途をたどり人間族は切り札として異世界から勇者と呼ぶ人智を超えた能力者を召喚し魔族の王である魔王と戦った。魔族もまた切り札を持ち合わせ魔神と呼ぶ召喚獣で応戦した。まさに血で血を洗う争いは一〇〇〇年続き後の世に一〇〇〇年魔大戦として語り継がれているという。


 エルフ族はその魔大戦で魔族側につき人間族と戦った。力弱きエルフ族は日に日にその数を減らしていったという。


 そんな最中エルフ族のもとへ一人の美しい魔女が現れ迷いの森と神秘の森を作り上げると人間族が入れぬよう結界魔法を施したという。


「その魔女の名はフェネル。世界三大魔女が一人。赤の魔女の異名を持つフェネル様じゃった。絶滅寸前だった我らエルフ族はフェネル様によってその命を救われ初代テシアと共に作り上げたこの里で外界との接触を避けることで生き長らえてきたのじゃ。ちなみに気づいたであろうが里の名はこのお二人の名を並べたものじゃ」


 エルフ族と人間族の争いの歴史はほぼ一方的にエルフ族が虐げられる結果だっただけに少しずつ外界との交流を増やしている現テシアの采配は目を見張るものがある。


 しかし全面的に開放というわけにいかないのもよくわかった。いくらその時代に比べ平和になったとはいえ外界との交流が増えればその分トラブルも増えるというもの。万が一にでもエルフ族存亡の危機になどなってみろ。ここまで築き上げてきた全てが水の泡となってしまう。では間をとって何かうまくやれる方法はないだろうか。僕は悩んだ。悩んだ末に結局答えは見つからなかった。


「アオイ殿、そういうわけじゃからの。少しずつじゃ」

「そうですね」

「ん? 匂いがしてきたの。そろそろ宴の料理ができ上がる頃かの」


 部屋に香るハーブ系の香りに誘われたのかアルスが謁見の間に戻ってきた。


「なんかすげーいい匂いがしたもんだからよ。思わず来ちまったぜ」


 続けてバルコニーからクラニとジェナが部屋に戻ってきた。


「いい香りですね」

「これはアランリリスの葉の香り。ということは今宵の宴のメインディッシュはクムフォム鳥のグリルハーブソテー! 私ちょっと厨房へ行ってまいります」


 そう言うとジェナは部屋を出ていった。


「皆揃っておるようじゃからまだ少し早いが食堂へ移るとしよう」


 僕たちは謁見の間を出ると食堂へと移動した。


 食堂の入り口には二人のメイド服を着たエルフが待っており僕たちが近づくと両開きのドアをそれぞれ引き開けてくれた。


「うっわー。見て見てアオイ。すっごく豪勢な料理!」


 長いテーブルに所狭しと並ぶ料理の数々。それは映画やアニメで見る王族や貴族のおもてなし料理に例えるのが一番わかりやすいだろう。


「さあ皆席に着いてくれ」


 僕たちが席につきしばらくするとロイが部屋に入ってきた。


「ただいまです! テシア様、聖樹の綿毛はちゃんと工房に預けてきましたよ」

「うむ。ご苦労であった」

「あれ? 姉さんは?」

「ジェナさんは先程厨房に行くと言っていましたよ」

「そっか。ならすぐに戻ってくるな」


 噂をすればジェナが厨房から戻ってきた。


「お待たせいたしました。メインディッシュのクムフォム鳥のグリルハーブソテーにございます!」


 ジェナがパンパンと手を叩くとクロッシュで蓋をされたひときわ大きな皿が運ばれ長テーブル横にある四角いテーブルの上に置かれた。


「では。オープン!」


 ジェナがクロッシュを上げると湯気とともにハーブのいい香りが食堂に広がった。

 その後のことはメイドに任せジェナも席につき僕たちと一緒に食事を始めた。

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