第41話 ゼロ先生
デスモスを討伐した僕たちは聖樹の綿毛を採取し里へ戻るとテシアのもとへ向かった。
「おお! よくぞ戻った。皆無事のようでなによりじゃ。しかし本当にあの甲冑イモ虫を退治してしまうとはの」
「テシア様、実はあの甲冑イモ虫は甲冑イモ虫ではなかったのです。そうですよね? ルヴィス様」
「ええ。ジェナが言うようにアレは甲冑イモ虫じゃなかったわ。アレは魔虫デスモスだったんです」
「何と! 魔虫であったのか。そういうことであれば全てに合点がいく。それにしても魔虫までも退治してしまうとは大したものじゃ」
「ロイ、テシア様にあれを」
「はい姉さん。テシア様こちらを」
「これはまさしく聖樹の綿毛。ではさっそくシークル作りに取り掛かからせるとしよう。ロイよ。この聖樹の綿毛を工房へ届けてきてくれ」
「かしこまりました」
ロイは聖樹の綿毛を街のシークル工房へ届けるため謁見の間を出ていった。
「さてアオイ殿。シークルが出来上がるまでには数日かかる。それまでは王宮内の部屋を自由に使うとよい」
「ありがとうございます。そうだテシア様。街のシークル工房を見に行くことは出来ますか?」
「もちろんじゃ。シークル工房を含め自由に街を出入りするとよい。じゃが今日は遅い。街へいくのは明日にいたせ」
「ありがとうございます!」
「今宵は宴を用意しておる。支度が整うまでは部屋で休むなり王宮内を散策するなり好きしてくれてよいぞ」
「どうする? アオイ」
「僕はちょっとテシア様に聞きたい事があるからもう少しここにいるよ。ルヴィスは?」
「アオイがいるなら私も一緒にいるわ。みんなは?」
「俺は部屋で、休ませてもらうぜ」
「私は……バルコニーで少し風にあたってきます」
「私も少し風にあたりますわ」
アルスは部屋へ向かいクラニとジェナはバルコニーへと出ていった。
「クラニ様。大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。ですがなぜその様なことをお聞きになるのですか?」
「少し元気がないご様子でしたので」
「ジェナさんには見られてしまいましたか。でももう大丈夫ですからご心配なさらないで下さい」
「アオイ様のことですよね?」
「え⁉︎ あ、あの、どど、どうして?」
ジェナの口から思いもよらない言葉が飛び出したことにクラニは動揺した。
「もうクラニ様ったら。本当に分かりやすいお方ですね」
ジェナに言わせるとクラニが僕を見つめる視線やルヴィスと一緒に楽しそうにしている時の少し哀しげな表情などそれはもう恋する乙女丸出しだという。
「そそ、そんな。恥ずかしい」
「何をおっしゃいますか。恥ずかしいことなど何もございませんよ。ご自身のお気持ちに素直で良いことではありませんか」
「で、でも」
「クラニ様がそうおっしゃるなら私はどうなってしまいますか? 恥ずかしいを通り越して恥の上塗りですよ?」
「それは……」
ルヴィスとの間に半ば強引に割って入りアピールしその度に玉砕する姿を何度も目の当たりにしているだけに否定は出来なかった。
「ですからクラニ様。私の様にとまでは申しませんがまだ諦めるのは早いと私は思いますよ?」
「ですが気持ちを伝えてこの今の良好な関係が崩れてしまったら……」
「何もクラニ様から告白しなくてもよいではありませんか?」
「え?」
またしてもジェナの口から思いもよらない言葉が飛び出しクラニは呆気にとられた。
「クラニ様からではなくアオイ様から告白されれば良いのです。そうすればルヴィス様だって文句は言えませんから。ですから私は日々猛烈にアピールしているのです。もう最終的には第二夫人でもかまわないと思ったりもしておりますよ」
「そ、そうなんですね。ですが私は……やはり片想いで良いです。あの優しい笑顔を側で見て時々話しかけて下さればそれだけで十分に幸せですから」
「もうクラニ様ったら!」
クラニの片想い宣言にどうにも納得のいかないジェナは両方の頬を膨らませふてくされた。
「お言葉ですがクラニ様、ご自身が傷つくことを恐れていてはうまくいくこともいかなくなりますよ?」
「私はそんなつもりでは」
「私にはそのようにしか聞こえません。クラニ様はご自分を卑下しすぎです。たしかにルヴィス様はとてもお美しい方にございます。ですがクラニ様もまたお美しくルヴィス様とは違った魅力をお持ちになられています。ですからもう少しその魅力をアオイ様にぶつけても良いと私は思うのです」
ジェナにそう言われたクラニは少し考えた後恥ずかしそうに言う。
「ちょっとだけ、頑張ってみよう、かな?」
「その意気です! 頑張りましょう!」
「はい。ジェナ先生」
「先生?」
突然先生と呼ばれたジェナが首をかしげた。
「はい。ジェナさんは私の恋愛の先生です」
「私が恋愛の先生だなんてそれは歯痒い話です」
「なぜですか? ジェナさんの恋愛アドバイスはすごくタメになりましたよ?」
するとジェナは申し訳なさそうに言った。
「散々偉そうなことを言っておいて何ですが私……恋愛経験ゼロなんです。ですから先生と呼ばれる資格は私にはございません」
「そんなことはありません。現に私は、こんな私でもちょっと頑張ってみても良いのかな? ってそう思えたんですよ? それはもう立派に先生じゃありませんか」
「クラニ様。わかりました! 先生とお呼びいただいた以上私も頑張ります!」
「はい。お互いそれぞれのやり方で素敵な恋愛にしましょう」
「はい。フフ最後はどちらが先生なのやら。でしたね」
「そうですね」
クラニとジェナは美しい街の風景を眺めながら宴の支度ができるまでの間笑顔溢れる楽しい時を過ごした。




