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第39話 虫使いの宣教師

 僕が閃いた作戦。それはスマホのライトを使ってデスモスを驚かせ出口まで誘導してやろうというものだった。


 これはデスモスがスマホのライトに反応することが大前提でもし何の反応も示さなければ話はふりだしに戻ってしまう。そこで僕は反応を確かめるためスマホをデスモスの顔に向けてかざすとライトを点灯させた。


 ギュギュイ! デスモスは眩しそうに顔を背けるとライトから逃げるように体をよじらせた。


「よしよし。ちゃんとライトに反応してる」


 こうなればこっちのものだ。後は上手いこと誘導し洞窟の外に出してしまえば良い。


「凄い! それって光魔法よね⁉︎」


 別の意味で反応を示すルヴィス。ライトをつけただけなのに光魔法だなんてちょっと大袈裟な気はしたが彼女からすれば指を触れただけで明かりがつくのだから魔法に見えて当然だ。


「うん。辺りを照らすくらいのものだけどね。でもこれだけ洞窟の中が暗ければイイ目眩しになるんじゃないかと思うんだ」

「そうね。現にあのイモ虫眩しそうに目を背けてたわ」


 僕は再びデスモスの顔に近づくとライトを点灯した。


 ギギギュイイ! デスモスは光りを嫌がり暗がりへ逃げ込もうとする。


「そっちじゃない! こっちこっち!」


 僕は暗がりに回り込みライトを点灯させた。するとデスモスは方向を変え入口の方へ向かってゆっくりと進みはじめた。


「いいぞ! その調子その調子」


 デスモスが方向を変えようとする度に僕はライトを点灯させ前へ前へ進むよう促した。そしてついに入口から差しこむ日の光りが見えた僕は最後の仕上げにカメラを起動させフラッシュをたいた。


 ギュギィイィイイ‼︎


 突然強烈な閃光を浴びせられたデスモスはひどく驚きそれまでのゆっくりな動作からは想像できない速さで洞窟から這い出ていった。


「やった! 成功だ!」


 洞窟から出るとそこには丸くなり小刻みに震えるデスモスの姿があった。


「おし! ここなら周りを気にせず全力をぶつけられんぞ」

「そうね。私もちょっと強めの魔法、いっちゃおっかな」


 アルスが剣を振り上げルヴィスが魔法書を開いたその時、デスモスの後ろから牧師のような格好をした一人の青年が現れた。爽やかな笑顔に黒髪の短髪と対照的な白い歯。高身長で細マッチョな体。まさにイケメンという文字がピタリとハマる彼は左手でデスモスの体に触れると優しく撫でた。


「可哀想に。ひどく怯えているではありませんか」


 ギギギィ。デスモスも青年に答えるかのように小さく鳴き顔を擦り寄せた。


「うん。良い子だ」

「誰だてめぇ」


 アルスは振り上げた剣を下ろし前方に構え直した。


「これは失礼いたしました。私はムダブ教宣教師のネールと申します。以後お見知りおきを」


 ネールと名乗った青年が口にしたムダブ教というワードに僕以外の全員が不快な表情を見せた。


「ムダブ教って?」


 僕はいつも通り何の気無しにルヴィスに聞いた。


「嘘でしょ? ムダブ教よ? 本当に知らないの?」


 ルヴィスはいつもになく強い口調で言った。


「ごめん。本当に知らないんだ」

「はぁ……いいわ。口にするのもはばかれるけど簡単に教えてあげる」

「ルヴィスちゃん。ここは俺が教える」

「わかった。それじゃアルスにお願いするわ」

「アオイ、ダガーを抜いておけ。じゃなきゃ、死ぬぞ。それがムダブ教ってやつだ」


 アルスの説明は説明と呼べるものではなかったがムダブ教というものが死を覚悟するほど危険な存在である事は伝わってきた。


「死ぬだなんてそんな。教団を殺人集団かのように言われては困りますね」

「他宗教の弾圧。老若男女問わず入信を拒む者をその場で殺害。お前らは世界中でどれだけの命を奪ってると思ってんだ!」

「それは私たちの理想とする世界を創り上げる為には仕方のないこと。最低限の必要悪であり尊い犠牲なのです」

「なんだと? 人を殺すことが必要悪? 尊い犠牲? やっぱお前ら狂ってるぜ」


 怒りと呆れが入り混混じった複雑な感情をぶつけるアルス。しかしネールはそれを笑顔で返した。


「狂っているのは私たちではなく今のこの世界の方ですよ。人々はほんの些細なことですぐに歪み合い争いを始める。それは種族の違いであったり国の違いであったり言葉の違いであったり肌色の違いであったり髪色の違いであったり性別の違いであったりとその理由は千差万別。けれどもどれも争う理由になど本来なり得ない。なってはならないのです」

「何が言いてぇんだてめぇは」

「そうですね。回りくどい話はやめましょう。つまりは私たちの理想とする世界に私たちの思想から逸脱する者や歪み合い争う者は必要ないという事です」

「だから……殺すというのか?」

「ええ。粛清ですから」


 ネールはなおも笑顔で答えた。


 相当ヤバい話しをあんな笑顔で淡々と語れるなんてこれはかなりの狂者だ。そう思った僕はアルスに言われた通り疾風のダガーに手をかけた。

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