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第38話 魔虫

「皆さん気をつけて下さい。あの甲冑イモ虫、私が聞いていたよりもずいぶんと大きくなっているようです」


 そうジェナが言った矢先僕たちは驚くべき瞬間を目の当たりにした。


「おいおいアイツの体どんどんデカくなってんぞ」


 アルスの言う通り甲冑イモ虫の体は僕たちの目の前でつい先ほどまでの1・5倍くらいまで膨れあがった。


「あの虫、どうやら聖樹の魔力を餌にしてるみたいね」

「聖樹の魔力を餌に⁉︎ ルヴィス様、それは本当なのですか?」

「本当よ」

「ではやはりあれは変異種なのですね。本来甲冑イモ虫が聖樹の魔力を吸い上げて体を大きくすることなどできるはずもないですから」

「いいえあれは変異種なんかじゃないわ」

「え⁉︎ ではいったい」

「薄暗くて初めは確信が持てなかったけどわかったわ。あれはデスモスよ。甲冑イモ虫と同類だけどアレは魔虫まちゅう。それも誰かに操られてるみたいね。見て頭に小さな魔法陣が刻まれてるでしょ」


 魔虫。それは通常の虫とは異なりありとあらゆる生き物に見境なく襲いかかる魔力を宿した虫の総称である。また今回のように体のどこかに魔法陣が刻まれているものはインセクトテイマーと呼ばれる魔虫を自在に操ることのできる術者によって操られている個体である。


「てことはよ。どっかにコイツを操ってるヤロウがいるってわけだよな?」

「恐らくね。けどインセクトテイマーのことだからそう簡単には姿を現さないでしょうけど」

「だろうな。ま、そいつが出てこようと出てこまいとこのイモ虫をぶっ倒す事にかわりはねぇ」

「そうね。アルスの言う通りね。たまにはまともな事言うじゃない」

「くぅ〜ルヴィスちゃん。相変わらず言葉のムチが心地いいぜ」

「こんなんで心地いいとかそういうのやめてよね。気持ち悪い」


 ルヴィスに罵倒されてもなおアルスは嬉しそうな顔をしていた。相変わらずブレのないその変態ぶりに僕はある意味感心した。


「さてと、そんじゃさっさとぶった斬るぜ。覚悟はいいか? イモ虫ちゃん」


 アルスは剣を頭の上まで振り上げ一旦止めた後勢いよく振り下ろした。


「エルトスラッシュ!」


 アルスの放った衝撃波がデスモスを直撃する。


 しかし衝撃波はデスモスの表皮に弾かれ数本の聖樹をなぎ倒してしまった。


「マジかよ。エルトスラッシュが弾かれちまった。しかもそのせいで聖樹を巻き込んじまったぜ。コイツは思った以上にヤベぇな」


 その様子を見たルヴィスが言う。


「フェノムを使うのもちょっと危ないわね。下手したら聖樹を全部燃やしちゃうかもしれない。となればここはアオイの出番じゃない?」

「うん。やってみるよ」

「おし! 俺も近接戦に切り替えて参戦するぜ」


 僕は疾風のダガーを握りしめアルスと共にデスモスに斬りかかった。しかしいくらダガーや剣を当ててもその表皮には擦りキズひとつ付かなかった。


 いくら攻撃しても相手にダメージを与えられないこの状況どこかで。そうだ! バドンと戦ったときもこんなだった! あの時の事を思い出した僕はバドン戦と同じ戦法をとることにした。


「クラニさん! バドンの時のアレお願いできますか?」

「はい! ダウン・ディフェンドですね! 少しだけ時間を下さい」


 クラニが魔法の詠唱に入る。そして詠唱を終えたクラニが魔法を放った。


「ダウン・ディフェンド!」


 クラニの魔法によってデスモスの防御力が下がる。僕とアルスは再びデスモスに攻撃を仕掛けた。しかし何度攻撃を当ててもデスモスの表皮にはキズひとつ付かなかった。


「クッ。硬てぇな」

「おかしいな。ダウン・ディフェンドの効果は発動しているはずなのにどうしてダメージを与えられないんだ?」

「きっとデスモスの防御力が高すぎて魔法が効いてても私たちの攻撃力ではダメージを与えられてないんだわ」

「えぇ⁉︎ それならダウン・ディフェンドを何度か追加してもらえば」

「それはダメよ。ダウン・ディフェンドも含めて補助魔法は2回までしか重複効果を得られないの。だからそれ以上は何度重ねても効果は同じ」

「なら僕たちの攻撃力を上げる魔法は?」

「もちろんあるわよ。けど攻撃力を上げたところで結果は同じだと思う」

「ならどうすれば……」


 ギュイイイイイ! デスモスが僕に向けて尾を振った。


 悩むあまり隙を突かれてしまった僕はデスモスの尾に弾かれ地面に転がり倒れた。その衝撃でポケットからスマホが飛び出しルヴィスの足元に転がり落ちた。


「アオイ! あ! マジール!」


 ルヴィスは慌ててスマホを拾うと僕に駆け寄った。


「アオイ大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


 物理的に弾き飛ばされてしまってはいるがデスモスの尾が体に当たった衝撃のほとんどは軽剛鉱の防具が吸収してくれたおかげでダメージを受けることはほとんどなかった。


「はいこれ。ワッ眩しい」


 ルヴィスが僕にスマホを渡そうとしたその時、彼女の指が画面に触れロック画面が立ち上がった。薄暗い中での突然の明かりに彼女は軽い目眩しをくらってしまったのだ。


 これだ! ルヴィスのその様子に僕は閃いた。何もデスモスを無理に倒す必要は無い。このスマホを使ってここから追い出してしまえば良いと。


「ルヴィスありがとう!」

「え? うん。どういたしまして」

「よーし。やるぞ!」

「やるって何を?」


 ルヴィスが首を傾げるのも無理はない。当たり前のことだがたった今思いついたこの作戦を僕以外誰も知らないのだから。


「これだよ」

「マジール? そっかわかった! その中にデスモスをあっという間に倒せちゃう凄い魔法が入ってるってことね? もうそんなのがあるなら勿体ぶらないで最初から使ってくれたらよかったのに〜」

「いやそこまで凄い魔法ではないけど上手くいけばデスモスをここから追い出すことが出来るかもしれないんだ」

「デスモスを追い出す魔法? そんな魔法があるだなんてやっぱり凄いわ」


 凄いことはないと思う。だってそもそも魔法なんかじゃないから。だけどそれは魔法みたいなことを起こせるかもしれない。そんな風に思った僕は思わずフフっと笑ってしまった。

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