第36話 エルフの女王様
「ここが謁見の間です。部屋には第一六代目テシア様がおられます。いいですか? 扉を開けますよ?」
ジェナがドアノッカーに手をかけようとしたその時、扉が勝手に開き部屋の中から女王らしき声が飛んできた。
「待っておったぞ! さぁ皆の者、遠慮なく中に入るが良い!」
へ? あの娘が女王様? 玉座に座る小さな女の子の姿に僕は自分の目を疑った。スラッと背の高い緑のロングヘヤーが似合うわがままな大人の女性を想像していたのだがその女の子は髪色こそ緑ではあるものの髪型はツインテールで背はもちろん低い。美少女という言葉がピタリとハマる整った顔立ち。エルフ族らしい見た目というべきかその吊り目からはわがままな性格が溢れ出ていた。
「それではアオイ様、計画通り盗賊の話から入りますのでよろしくお願いします」
ジェナが僕の側で囁くように言った。
「ジェナ。ロイ。二人ともずいぶんと帰りが遅かったではないか。心配しておったのだぞ。いったいどこで何をしておったのじゃ?」
ジェナが盗賊の一件を説明する。
「なるほどの。わらわの命により二人をそれほどまでに危険な目に合わせてしまうことになるとは。すまぬ」
「いえ女王様のせいではございません。たまたま運悪く盗賊に捕まってしまっただけの話しにございます」
「だとしてもじゃ。もう少しわらわが善処しておれば話は違ったかもしれぬからな。してジェナの話しにあったアオイ殿はどちらの殿方であるか?」
「こちらの方にございます」
「そなたがアオイ殿か。うむ。実に誠実で優しそうな顔をしておる。あらためてエルフ族の女王として礼を言わせてもらうぞ。ジェナとロイ、双方の命を救ってくれたこと誠に感謝いたす」
女王は僕に軽く一礼し僕も女王に一礼した。
「ところでアオイ殿。二人を救ってくれた恩義に対する褒美を取らせたいと思うのじゃが何が良い? 望むものをあげよ」
「うーん。そうですねぇ……」
僕はジェナの計画通りすぐにシークルと答えるのではなく腕を組み悩むフリをした。するとジェナが次の段階へと駒を進める。
「テシア様、アオイ様もすぐにはお決めになれないご様子。ここは少し考える時間を頂きたく存じます。アオイ様のお考えがまとまるまでの間テシア様にはこれを」
そう言ってジェナはリルエマのプチ・エントランスロックパンケーキをテシアに献上した。
「こ、これは⁉︎ なんという斬新なスイーツ! このようなスイーツは今まで見たことがないぞ!」
「こちらはベレンの職人、リルエマ様による新作スイーツ、プチ・エントランスロックパンケーキにございます」
「ほほう。プチ・エントランスロックパンケーキ。ずいぶんと長い名前じゃの」
「新作ゆえネーミングもこれまでに無いものとなっております」
「たしかにそうじゃな。それもまた斬新であるな。してこれはどの様に食したら良いのじゃ?」
「こちらのナイフとフォークをお使い頂きひと口大に切り分けたパンケーキに中央の白いクリームをたっぷりとつけてお召し上がり下さい」
「こうか?」
テシアはジェナに言われた通りにパンケーキにたっぷりとクリームを絡めそのまま口に運んだ。
「美味‼︎ 何という美味さじゃ‼︎ んんん。至福じゃのう……」
ひと口パンケーキを食べる毎にテンションが上がるテシア。ジェナが言っていた通りだ。そして最後のひと口を口に入れた瞬間テシアのテンションはMAXに到達した。
「はあ〜このうえなく幸せじゃ〜」
「アオイ様! 今です! 褒美をおねだり下さい!」
「あ! はい! テ、テシア様」
「ん〜なんじゃアオイ殿〜」
「テシア様。褒美が決まりました」
「お〜申してみよ」
「シークルを。シークルを分けて頂きたいです!」
「何⁉︎ シークルじゃと⁉︎ アオイ殿、あれがエルフ族にとってどれだけ大事なものであるかそなたは知っての願いか?」
えぇ⁉︎ なんかテシア様の様子が計画と違う気がするんだけど。ここまで順調すぎるほど順調に計画が進んでいただけに動揺が隠しきれない。ジェナさんの計画ならここで快諾のはずなのに結構厳しそうな事言い始めたよテシア様。どうすればいいの?
僕は視線をジェナに向けた。すると彼女は両手をグッと腰のあたりまで引き力強くうなづいた。
「は、はい。わかっています。でも僕たちにはどうしてもシークルが必要なんです。ですからお願いします! シークルを僕たちに分けて下さい!」
「いいじゃろう。アオイ殿にシークルを分けてしんぜよう」
それは意外なほどあっさりとした返答だった。
「本当ですか!」
「わらわに二言はない」
「ありがとうございます!」
「やったね。アオイ!」
「やりましたね。アオイ様!」
「さすがです! アオイさん」
「やっぱやるときゃやる男だなアオイは」
僕はメンバー全員に祝福の言葉をもらった。向こうの世界でこんなに褒めてもらったことはあっただろうか。いやなかったと思う。そんな思いと重なった僕は嬉しさのあまり涙を流し喜んだ。




