第28話 純情
「ねぇねぇ。後はぁあなただけだよぉ? 食べないのぉ?」
リルエマはいまだに部屋の片隅で立ち尽くすロックに声をかけた。
「わ、私はその、食べ、食べたくないわけではなくて」
「ん〜? わけじゃぁなくてぇ?」
「じ、女性の部屋に、上がるなんてこと、は、初めての事で、どど、どうしていいか」
「へぇ〜女の子のぉ部屋入るのぉ初めてなんだぁ。なら〜お茶するのもぉ初めてだったりぃするぅ?」
「はい! もちろんでございます!」
額から汗を流しど緊張するロックはリルエマといっさい目線を合わせることなく直立不動を保っている。するとそこへメルトが口を挟む。
「いつも冷静沈着なロック副隊長のあんな姿初めて見たんですけど。あの、副隊長殿、私も女の子なんですけど。一度もそんな風になったことないですよね?」
「メルト、お前のことは同志だと思っている。そこに性別の垣根はない! つまりはお前を女性として見たことは一度もない!」
「何それ〜ひどいなぁ副隊長。そんなハッキリと言わなくてもいいじゃないですか」
「すまん!」
「もういいです。こうなったら食ってやる!」
パンケーキをやけ食いするメルトの背中をクラニが優しくさすった。
「ねぇえ〜ロックさぁん。ここにぃ座ってぇ」
リルエマは自分が座っていた席にロックを座らせるとパンケーキをひと口大に切りロックの口に運んだ。
「はい。あ〜ん」
「あ⁉︎ ああ、あ〜ん」
パクッとパンケーキを頬張ったロックの顔が真っ赤に染まる。
「お味はどぉ?」
「とっても美味しいです! ですがその、これは、あ〜んは私には、し、刺激が強すぎます!」
「ロックさんのぉ反応ぅってぇ面白ぃ。面白いからぁやめな〜い。はい、あ〜ん」
パクッ。モグモグ。ゴクン。パクッ……食べ終えるとすぐに口に入れられるあのわんこ蕎麦状態のパンケーキをロックは余裕の表情で食べ続けた。そんなロックの姿にリルエマが興奮した様子で拍手を送る。
「ロックさんすごーい! でもぉこれでぇおしま〜い。後はぁロイくんのぉお姉さんにぃ食べてもらうからぁ。ロイく〜ん。これぇお姉さんにぃ食べさせてきてくれるぅ?」
「はいリルエマの姉様! 今すぐ食べさせてきます!」
リルエマにパンケーキを渡されたロイは姉の休む隣の部屋に入っていった。
「ご、ご馳走様でした」
パンケーキをたいらげたロックの表情は、実に幸せそうだった。
「ロックさんてぇ面白いだけじゃなくてぇすごくぅいいお顔でぇ食べてくれるからぁ嬉しくてぇつい食べさせ過ぎちゃったぁ〜。ごめんねぇ」
「いえ! 決して食べすぎだなんて思っておりません! 本当に美味しかったので止まりませんでした!」
「ウフフ。そう言ってぇもらえるとぉ嬉しいなぁ。ありがとう〜」
「こちらこそ! ありがとうございます!」
なんか、いいなこういうの。僕は無骨で真面目な人が見せる可愛らしい一面にホッと心が温まるのを感じた。それはルヴィスも同じだったようでそっと僕の手に手を重ね微笑んだ。
「ロックってさ。ものすごい堅物かと思ってだけど案外母性くすぐるタイプなのかもね」
「そうだね。ギャップ萌えってやつだね」
「ぎゃっぷもえ? 何それ」
「あ、ギャップ萌えってのはその人の持つ意外性に惹かれるって意味の言葉なんだ」
「なるほどね。たしかにギャップ萌えね。リルエマさんもそういうとこあるし何気にお似合いなんじゃない?」
リルエマのはギャップというよりも二重人格に近い気がする。そう思った僕だったがそこは黙っていることにした。
「みんな食べ終わったみたいっスからそろそろ酒場に行かないっスか?」
全員がパンケーキを食べ終わりひと息ついたタイミングでバンが言った。
「そ、そうだな。バンの言う通りだ。リルエマ殿、ご馳走様でございました」
どことなく名残惜しそうなロックだったがリルエマに礼の言葉を述べ一礼すると家の外へ出て行ってしまった。
「ちょ、ロック副団長、はやいッスよ。まったく。リルエマさん、すんませんス。パンケーキ、ごちそうさまッス。美味かったっス。それじゃ失礼するっス」
バンもリルエマに一礼すると家の外へ出て行ってしまった。
「もう。ロック副団長もバンもみんなをおいていくなんて! ごめんなさいね。うちの男どもあんなのばかりで。特にリルエマさん。ごめんなさい」
「いいのよぉ。私はぁそういうのぉ気にしないからぁ。それよりぃまたぁみんなでぇ遊びに来てねぇ」
「はい! ぜひ! それでは失礼します! みなさん行きましょう」
「待って。ロイは?」
「俺は姉さんの側にいるよ。気にしないで行ってきて」
ちょうど隣の部屋から空の皿を手に戻ってきたロイが僕の問いに答えた。
「そうね。ロイはお姉さんの側にいてあげた方がいいわね」
「ごめんロイ。ちょっと行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
僕たちはリルエマへ挨拶を済ませるとバンの案内のもと酒場へと向かった。




