第26話 無我夢中
アルスの剣技も通用しない。ルヴィスの魔法もバレてしまった。いったいどうしたらいいんだ。八方塞がりになった僕が途方に暮れたその時、バドンがついにその爪をロイの姉に向け振り下ろした。
「死ねぃーー‼︎」
誰もがロイの姉の死を覚悟し目をつむった次の瞬間目を開けた誰もがその光景に驚いた。中でも飛び抜けて驚いていたのはバドンだった。
「な、何が起きやがった⁉︎ なんで必殺のベアクローがあの女の心臓じゃなく地面に突き刺さってんだ⁉︎」
半ば混乱状態のバドンは地面からベアクローを抜くと目に写る二人に言う。
「てめぇ何しやがった? それも魔法か?」
バドンの目に写った二人。それはロイの姉とその姉をかばうように抱き抱えた僕だった。自分でも何をしたのか分からなかったがロイの姉にベアクローが向けられた瞬間彼女を助けなくてはという一心で走り出したことだけは何となく覚えている。
「わからない。けど魔法じゃない」
「はぁ? てめぇおちょくりやがって! お前からぶっ殺してやる!」
再び激昂したバドンが僕に飛びかかる。がベアクローはまたしても地面に突き刺さった。
「ガァァァア‼︎ 何なんだよ⁉︎ 何で俺様の必殺のベアクローが当たんねぇんだよ! クソ! クソクソ! クソー!」
ヤケになったバドンが闇雲にベアクローを振り回したがその爪が僕に当たることはなかった。
ヒューっと口笛を吹いたアルスが言う。
「アオイ、お前すげーな」
アルスに続けてルヴィスとクラニも手を取り合って黄色い声を上げる。
「凄いよアオイ! バドンの攻撃を全部かわしちゃうなんて!」
「流石です。アオイさん、かっこいいです!」
はしゃぐ二人の横でロックとメルトが呟く。
「能ある鷹は爪を隠す」
「人は見た目によらないわね」
最後にロイが半泣きで鼻を啜りながら言う。
「よがっだ。姉さんが死ななぐでよがっだ」
するとその様子を面白く思わないバドンが雄叫びを上げ暴れ出した。
「ウガァアァァ! 死ね! 死ね! 死ねーー!」
しかしどんなに暴れてもその爪が僕に当たることはなかった。何故なら僕にはバドンの動きがスローモーションのように見えているからだ。疾風のダガーの効果も相まって自分でも驚くほど俊敏な動きでバドンの攻撃をかわすことができている。しかしバドンは攻撃の手を緩めようとしない。このままでは埒があかない。そう思った僕は避けるだけではなくこちらからも攻撃の手を入れてみることにした。
ガッ。ガシッ。ガツッ。僕の攻撃はたしかにバドンの体や腕、足をとらえているはずなのにダメージを与えている実感が全く無い。
「アオイ! そんなんじゃいくら当てても無駄だ! ヤツの体は鋼ぐらい硬てぇ!」
「えぇ⁉︎ それじゃどうしたらいい?」
「わかんねぇ! けどこうなりゃ体力勝負だ! ヤツの体力が尽きるまで頑張れ!」
そんな事、できるわけないじゃないか。体力の差は歴然。明らかに僕が先に倒れる。アルスはどれだけ僕のことを買い被っているんだ。
「ダウン・ディフェンド! アオイさん! これで少しはダメージを与えられると思います! 後はアオイさんのその速さを活かして数で攻めて下さい!」
ダウン・ディフェンド。それはかけた相手の防御力を一時的に下げる補助魔法。クラニは僕がバドンの攻撃を避けている間に補助魔法の準備をしてくれていたのだ。
僕はクラニの言葉を信じバドンに数発くらわせた。すると先程まで痛くも痒くもない顔をしていたバドンの表情が歪む。凄い! 本当に効いてる! 僕はさらに手数を増やしバドンに攻撃を叩き込んだ。
「グッ。ウッ。ウググ」
次第に苦しそうな表情に変わっていくバドン。ついには動きが止まり右膝をつきしゃがみ込むと血へどを吐いた。
「よっしゃ! アオイ、トドメだ!」
「いやもうその必要はないと思うよ」
「おいおいそれじゃ格好つかねぇだろ。たしかにバドンはもう戦えねぇと思うぜ。けどよ最後はバシッと決めてくれねぇと」
格好よくバシッとなんて言われてもなぁ。相手はもう戦えないわけだし。トドメをさすってのもなんか気がひけるんだよな。
「アルス、アオイは良くも悪くもとても優しいのよ。だからトドメはささないわ。だから代わりに私がやってあげる」
ルヴィスはそう言うとバドンの頭にぽんっと一発手刀を入れた。すると膝立ちのまま既に気絶していたバドンがゆっくりと地面に倒れ込んだ。
「はい。盗賊団討伐完了〜」
結局のところ一番美味しいところを持っていったのはルヴィスだった。




