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第25話 盗賊バドン

「準備はいいか?」


 アルスは根城の入り口近くまで来ると一旦その足を止め真剣な顔で言った。


 僕たちはそれぞれに武器を手に取りうなづいた。


「おし! そんじゃ行くぜ! 突入ーー‼︎」


 勢いよく先陣を切りいち早く根城に入ったアルスが叫ぶ。


「俺はエルトナイン王国騎士団副団長、アルス・ラーグ・エルトナインだ!」


 アルスの声に続々と盗賊たちが集まり五分も経たないうちにその数は二十人に達した。しかしアルスは怯むことなく盗賊たちの正面に立つと剣を振りかぶり頭の上から力強く振り下ろした。


「エルトスラッシュ!」


 アルスの剣から繰り出された衝撃波が集まった盗賊たちをなぎ倒す。


「おい! うるせぇぞ! お前らまた喧嘩してんのか⁉︎ ……あ? 誰だてめぇら?」


 野太い声とともに十人ほどの盗賊を引き連れた大男が根城の奥から現れた。


「俺はエルトナイン王国騎士団副団長、アルス・ラーグ・エルトナインだ! お前がバドンだな? 俺とサシで勝負しろ!」

「おい聞いたかお前ら。王国騎士団の副団長様が直々にお出ましだとよ。俺たちもずいぶんと格が上がったもんだな」

「やりましたね! お頭!」

「こりゃ宴もんじゃねぇっすか?」

「お前ら! 浮かれんのはまだ早ぇ! 宴はコイツらを全員のしてからだ」

「へい! すんませんお頭!」


 お頭と呼ばれた大男に一喝された盗賊たちが一斉に頭を下げた。


「おいバドン! 俺はサシで勝負しろと言ったんだ。答えろ! それともお前はバドンじゃねぇのか?」

「あ? 俺様以外にバドンと名乗れる男はいねぇ。それとサシなんざ誰がやるかよ。面倒臭ぇ」

「へ? やらないの?」


 バドンの思わぬ返しにアルスは目が点になりしばらくの間呆然と立ち尽くした。そんなアルスをよそにバドンが話を続ける。


「そうだイイ事を思いついたぞ。部下思いの俺様がお前たちにとびきりのプレゼントをやろう」

「お頭ら最高〜! でもタダじゃねぇっすよね?」

「当たりめぇだ! プレゼントはなコイツらの中の一人でものせたらくれてやる」

「おっしゃー! ぶっ倒してやんぜ!」

「で、お頭! そのプレゼントってのは何なんすか?」


 にんまりと両方の口角を上げたバドンが指差す先には根城から続く一本の細い坑道が見えた。


「お頭、牢屋がどうかしたんすか?」

「てめぇらは察しが悪ぃな。プレゼントはあのエルフの女だ」


 それを聞いた盗賊たちが歓喜の声上げる。


「まじっすかお頭! あのエルフの女を頂けるんすか⁉︎」

「俺、一度ヤッてみたかったんすよエルフの女と!」

「あんな美人が毎日側にいてくれたら俺の人生バラ色だ〜」


 などと自分本意な発言を口々にする盗賊たち。すると、


「ふざけるな! 姉さんは誰の物でもない! 姉さんは俺の姉さんだ!」


 根城に入ってからずっとロックの後ろに隠れていたロイが飛び出し叫んだ。


「ロイ、裏切ったのはやっぱりてめぇだったか。そうじゃねぇかと思って鎌かけたら案の定だったな。おい! あの女エルフを今すぐここへ連れて来い!」


 バドンに命令された二人の盗賊が猿ぐつわを噛ませられたロイの姉を連れ戻ってきた。


「姉さん‼︎」

「……イ」


 猿ぐつわ越しにロイの名を呼んだ姉の声はとても弱々しかった。


「俺様は気が変わった。今からこのエルフの女をぶっ殺す! 裏切り者の目の前でな!」

「え〜お頭〜そりゃないっすよ〜。殺しちまうならその前に遊ばせて下さいよ〜」


 それは一瞬の出来事だった。口を挟んだ盗賊はバドンに殴り飛ばされ地面に転がると口から大量の血を吐き動かなくなった。


「うるせぇんだよ。俺様が決めた事にケチつけんじゃねぇ」


 仲間が瞬殺された盗賊たちは黙り込みその場に硬直した。


「さぁてどんな風に殺してやろうか……決めたぜ。なぶり殺しだ。いったい何発目で死んじまうかなぁ。きっと一発目だろうな! ガハハハハ」

「バドンてめぇ」


 アルスが剣を構えるとバドンが言う。


「無駄だぜ副団長さんよ。あんたの剣技はすげぇと思うがこの距離じゃ俺様が放つ拳の速さには追いつかねぇぜ」


 バドンの言うことは脅しでもなんでもなかった。

 いったいどうすればいいのか。こちら側にアルス以上の強者はなくそのアルスの剣技が通用しないとなると他に手立ては……そうだ! 魔法だ! 剣技がダメなら魔法があるじゃないか! 魔法といえば僕らにはルヴィスがいる!


「ルヴィス、あの火の魔法いける?」

「フェノムならいつでもいけるよ。だけど魔法を使うところをバドンに見られたら魔法が発動する前にあの娘が殺されちゃうかもしれない」

「ならこうするのはどう?」


 僕はルヴィスが魔法を発動させるまでの数秒の間バドンからその動作が見えないよう彼女の前に立った。


「うん。これなら大丈夫。すぐに始めるね」


 ルヴィスは魔法書を僕の背中で隠すとフェノムを発動させた。


「いくよ! アオイ避けて!」


 僕はルヴィスの合図で横へ飛んだ。


「フェノム!」


 バドンに向け勢いよく火球が飛ぶ。それはルッカの裏路地でアルスを助けた時よりもひとまわり以上大きなものだった。フェノムはどんどん加速しバドンに命中するまで二秒とかからなかった。


「ぐはぁあぁああ‼︎ 熱ちぃいぃいい‼︎」


 火球の弾ける爆音とともにバドンの体が火に包まれる。しかしバドンは両手両足をバタつかせながら全身を地面に擦り付けなんとその火を消してしまった。


「このクソあまが! なめたマネしやがって! こうなったらなぶり殺しも止めだ! 今すぐこの女を殺してやる!」


 バドンは激昂し両腕にはめた鋼鉄の小手から鋭い爪を出した。それは通称死のベアクローと呼ばれバドンがその爪を向けた相手をどんな理由があろうと殺すという強い殺意を抱いた時に用いる武器である。


「頼む! 頼むから姉さんを殺さないでくれ!」

「ダメだ! 俺は誰も許さねぇ! この女もお前らも全員ぶっ殺す!」


 殺意剥き出しで理性の大半を失ったバドンはもはや殺人鬼と化していた。

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