第23話 減らず口
順調と言うべきか。それとも嵐の前の静けさと言うべきか。廃坑に突入してからというものひとりとして盗賊の姿を見ることなく僕たちは奥へ進んでいた。
「アルス、この状況はさすがにおかしくないか? 罠かもしれないよ?」
「確かにな。けどこれがたとえ罠だとしてもそれが今の俺たちの足を止める理由にはならねぇ。それよか先手必勝。奴らに気づかれる前に終わらせちまえば何も問題ねぇ。だろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
先手必勝か。たしかにそれは一理ある。しかし罠かもしれない状況で突き進むというのは無謀といえる。それでもこのまま盗賊に気づかれることなく事なきを得ればアルスの言う通り何の問題もない。でももし罠だったとしたら……。そんな堂々巡りを止めたのはロックの声だった。
「皆私の後ろへ!」
僕たちの前で盾を構え防御態勢をとったロックが睨む先には一人の男が立っていた。
小柄で横に長い耳。目の前に現れたその男はベレンに向かう途中森で僕たちの馬車を襲った連中の中にいたあのエルフに違いなかった。
「うっわ〜最悪。一、二、三……全部で六人って。はぁこれ絶対俺に勝ち目ないやつじゃん」
エルフは僕たちをひとりひとり指差し確認すると不機嫌そうに首を横に振った。そして半ば諦めた様子で両手をあげながら僕たちの方へ歩いてきた。
するとアルスが剣を、ロックは盾を素早く構え後ろではバンとメルトが短剣を握りしめた。
「ルヴィスちゃんとクラニは俺たちの後ろに隠れて魔法の準備をしてくれ。アオイお前は早くそのダガーを抜け」
「ご、ごめん」
僕は慌てて疾風のダガーを抜き構えた。
「降参、降参〜。みんなそんなに怖い顔しないでよ。その物騒なモノはしまってくれないかな。ほら見ての通り俺は丸腰だよ。キミたちと戦う気はサラサラないから安心して」
「何言ってやがる。そんなもん信じられるか!」
「ん〜騎士のお兄さんって……バカなの?」
「んだと‼︎ てめぇ今すぐその首はねてやる!」
瞬間湯沸かし器のように一瞬で怒りをあらわにしたアルスが剣を振りかぶろうとしたその時、
「ええ。アルス様はバカですよ」
「バカで変態ね」
メルトとルヴィスが冷めた口調でアルスをののしった。
「はぅっ! 二人ともそりゃちょっと言い過ぎだぜぃ」
口ではそう言っても嬉しそうに体をくねらすアルスの姿はSな女王様にムチで叩かれ喜ぶM男のようだった。
「バカで変態な騎士のお兄さんでもわかるでしょ? 六対一だよ? しかも俺は丸腰。そんなのどうやったらお兄さんたちに太刀打ちできるっていうのさ」
「まあそりゃそうだな。つーかてめぇバカで変態な騎士とはなんだ! そういう言葉はな、美人の口から発せられるから男心に刺さるんだよ! お前みてぇなこましゃくれたガキに言われたって何も刺さらねぇし嬉しくもねぇ。むしろ不快だ」
「不快ね。俺はお兄さんを不快にするつもりはなかったけど気分を害したというなら一応謝っておくよ。ごめんね〜」
「てんめぇ。どこまでもこけにしやがって」
「フン。ところでさ誰か俺の話し聞いてくれない?」
「は? 何言ってんだお前。お前の話しなんざ誰も聞かねぇよ」
「言い忘れてたけど騎士のお兄さん以外で」
「もう許せねぇ!」
アルスの怒りが頂点に達しいよいよ爆発かと思われたその時、アルスとエルフの間にクラニが割って入ってきた。
「その話、私がお聞きしましょう」
「待て、待てクラニ。こんなやつの話し聞く必要なんてねぇぞ」
「アルス様、考えがございます。ここは私にお任せ願えませんか?」
「考え?」
「はい。とても良い考えにございます」
そう言うとクラニはフフッと微笑みエルフに向かって右手の人差し指を横にスライドさせた。




