第22話 バダオ作戦
「アルス様、本題を」
「お、おう。この一ヶ月の間俺たちは盗賊の足取りを追った。その結果やつらがここベレンの西の廃坑を根城にしてるってことがわかった。これを見てくれ」
アルスはテーブルに一枚の地図を広げた。
「ここがルッカ。ここがベレンな。んでここが西の廃坑だ」
アルスが指でなぞった地図の上にはたくさんの印がつけられていた。
「こいつはバンが偵察した内容を記したもんだ。見ての通りやつらは西の廃坑を頻繁に出入りしている。んでもってバンはその目で盗品や拐った女子どもを中に運び込む姿を見ている。だよな? バン」
「はいっす。この目で間違いなく見たっす」
「つまりここがやつらの根城ってわけだ。だからよ俺たちはこの根城をぶっ潰しに行く! ってわけよ。今夜な」
「今夜!? そんな急に⁉︎」
「急? あーたしかにお前らにとっちゃ急な話しだな。けどこっちは何日もかけて色々動いてきた話しだ。心配すんなアオイ。やつらとやり合うのは俺らだけだ。お前らはついてくるだけでいい。目当てのエルフは見つけ次第とっ捕まえてやっからよ」
「そ、そう? なら大丈夫か」
「何言ってるのよアオイ。私達だって戦うわよ」
「えぇ!?」
「ルヴィスちゃん。気持ちは嬉しいけどよ。俺はキミたちのような美人を危険なめに合わせるようなマネはできねぇ」
「大丈夫よ。私、魔法使えるもの」
「言われてみりゃそうだ。ルヴィスちゃんは魔法が使えるんだったな」
「あの、私も回復と支援の魔法が少し使えます。一線に立つことは出来ませんが多少のサポートはできるかと」
「マジか! クラニが魔法使えたなんて知らなかったぜ。攻撃魔法に回復魔法と支援魔法。そんだけ揃ってりゃ戦況は随分と有利になるな。となると前衛は俺とロックに加えアオイ。後衛はメルトとバンのままでいいな。んでルヴィスちゃんとクラニはその間だな」
「え!? 僕も前衛なの!?」
「あったりめぇだろ」
「そんな。戦う自信なんてないよ。実戦経験だってないし」
「そんなことはないと思います。アオイさんなら大丈夫です! 私の目にはしっかりと焼きついていますよ。その疾風のダガーを手にされた時のあの華麗な剣さばきを」
「ちょっとクラニさん!……いや待てよ」
クラニに言われ思い出したがたしかにあの時の動きは自分とは思えないものだった。だとすると僕でも戦える可能性があるのかもしれないってことか。それなら、
「じ、自信はないけど頑張ってみるよ」
「おし! 決まりだな。そんじゃ作戦を伝える。一回しか言わねぇからよ〜く聞いとけよ。作戦はこうだ! 正面からバァーって突入してダァーって奥に進んでやつらを見つけたらオリャーってとっ捕まえる! 名付けてバダオ作戦だ!」
「……」
「皆さんの言いたい事はよくわかります。勢い任せで作戦と呼べるほどの内容でないことに加えダサイ名付け」
言葉を失い目が点になっていた僕たちに話しを切り出しのはメルトだった。
「メルト〜いくらなんでもそりゃ言い過ぎってもんだろ」
「皆様の手前、これでも控えたつもりですが」
「くぅ〜相変わらず辛口だねぇ。ま、そこがグッとくるとこなんだけどな」
不敵な笑みを浮かべるアルスを無視してメルトが話しを続ける。
「とはいえアルス様の作戦がまったくダメなものとは言い切れません。何故ならこれでもほぼ毎回うまく乗り切れてしまうからです。不思議ですよね? けれどそういうものなんです。ですから今回もきっと大丈夫」
「さすがメルト! わかってるねぇ。というわけだからよ。作戦通りやりゃ何も問題ねぇ。そんじゃ一丁奴らをとっ捕まえに行こうぜ!」
アルスが右手を天井に向かって力強く突き上げるとそれが出発の合図となり僕たちは盗賊の根城に向けて宿屋を後にした。人目につかないようあえて獣道のような山道を進み西の廃坑が見下ろせる岩場まで来るとひとまずその場に身を潜めた。
「アオイ、見えるか?」
アルスの指差す岩の隙間からは山肌に人工的に掘られた比較的大きな横穴とその穴の入口に二人の人影が見えた。
「あれってもしかして盗賊?」
「ああ。見張りの連中だ。今から俺たちはあそこを正面突破するわけだが作戦を開始する前に奴らに見つかっちまったら意味がねぇ。だからまずはアイツらをなんとかする」
「なんとかって。実際どうするのさ?」
「こうするんだ」
ニヤリと笑ったアルスは足元に転がっていたテニスボールほどの大きさの石を手に取ると廃坑の入口に向かって勢いよく投げた。石は入口から少し離れたところで地面にぶつかり音を立て数回跳び跳ねた後入口の手前で止まった。するとその物音につられた二人の見張りが表に姿を現した。
「おっしゃ! 出てきやがったな。お先!」
そう言うとアルスは岩場を飛び出していった。すぐ様ロック、バン、メルトも後に続き僕たちも慌てて四人を追いかけた。僕たちがアルスたちと合流するのにそう時間はかからなかったがその場に到着した時には既に二人の見張りはアルスたちの手によって縄で縛りあげられていた。
「なんて早技!」
「ったりめぇよ。こんぐらい朝飯前だぜ」
「ふふ。いつもこんな感じなんです。だから大丈夫、でしょ?」
僕たち三人はメルトの言葉に妙に納得しうなづいた。
「こっからはスピード勝負だ。皆作戦通り頼んだぜ。そんじゃバダオ作戦開始」
声量を抑えたアルスの号令で僕たちは廃坑へ突入した。




