第21話 矢印の示す先へ
「ねぇアオイ、まさかとは思うけどここを下りる、なんてことはないわよね?」
オルンジの矢印が指し示す方へまっすぐに歩いてきた僕たちは垂直に切り立った崖を見下ろしていた。
「いや〜流石にここを下りるのは無理だよ」
「そうよね。でも矢印はこの下を示してるんでしょう?」
「うん。そうなんだよ。でもこれはたぶん目的地までを直線で案内してると思うんだ。矢印はこの下の街の方を指してるからひとまず道を下って街の中に入ろう」
山道を下り街までくると矢印は地面とほぼ平行になっていた。
「ほら見て。矢印が横を向いてる」
「ならこの辺のどこかにアルスがいる宿屋があるってことね」
「そういうことになるね」
矢印は時折道の無い方や崖、建物や壁の方を示したりしたがその都度回り道をしたり階段を登り降りしたり橋を渡ったりしながら僕たちは目的地に向かって進んだ。すると一軒の建物の前でオルンジの矢印が突然上を向きぴょんぴょんと跳ねるような上下運動をはじめた。
「わっ。矢印が変な動きに変わった」
「本当ですね。方向を示さなくなりましたね」
「方向を示さなくなった、ということは目的地に着いたってことかな?」
「たぶんそうだと思います。あ! アオイさんあれ!」
クラニの指差す先にはベッドが画かれた看板が見えた。
「あれって宿屋の看板だよね?」
「はい」
「ならやっぱりここがアルスたちのいる宿屋ってことか」
「とりあえず中に入ってみましょう。違ったらまた探し直せばいいんだし」
そう言ってルヴィスは宿屋のドアを開けた。
「いらっしゃいませ。お客様申し訳ございません。本日はあいにく満室となっておりまして」
出迎えてくれた女将が申し訳なさそうに言った。
「あ、いや僕たちはその、泊まりに来たわけではなくて」
「んん? お客様そのオルンジもしかして……」
女将は眼鏡をかけると僕の手に乗ったオルンジを覗き込んだ。
「……間違いありませんね。どうぞこちらへ」
何かを確認した女将は僕たちをフロント横の二階へ続く階段下にある小さな倉庫へ通した。
「こちらの壁にそのオルンジをかざしてみて下さい」
女将に言われた通りにオルンジをかざすと壁の一部がゆっくりと奥に開いた。
「アルス様をはじめ討伐隊の方々は既にこの先のお部屋にお集まりになっております。どうぞお進み下さい」
「あの、聞いてもいいですか?」
「はい。何でしょう?」
「さっきこれを見て何かを確認されていたようですがあれはいったい」
「あれはそのオルンジに印がないか、確認していたんです」
「印?」
「はい。本当にアルス様に呼ばれた方であるかを見分けるための印です。これを通してココを見てみて下さい」
女将はかけていた眼鏡を僕に渡すとオルンジの皮の一部分を指差した。僕は眼鏡をかけオルンジを覗き込んだ。するとそこには星印がくっきりと浮かび上がっていた。
「本当だ! 星、星印が見えます!」
「はい。それがアルス様が施された印、アルス様に呼ばれた方である証です。他に何かございますか?」
「他には……ありません。ありがとうございます」
「では奥へお進み下さい」
壁の先へ進むと人一人がやっと通れる程の狭い階段が現れその階段の下にはうっすらと明かりの漏れる扉が見えた。僕たちは恐る恐る階段を下りその扉を叩いた。
「開いてるぜ。入ってくれ」
それはアルスの声だった。扉を開けるとそこにはアルスと三人の見知らぬ男女が一つのテーブルを囲む姿が目に写った。僕たちから見てテーブルを挟んだ正面にアルス。左側にがたいの良い中年男性。中年男性の向かい側に青年。その青年の隣りに女性が座っている。
「適当に空いてっとこに座ってくれ」
僕は中年男性の隣りに座りクラニは女性の隣りに。ルヴィスはアルスと向かい合う席についた。
「おし。まずは簡単にメンバーを紹介する。こっちのガチむちなおっさんがロック。こいつがバン。その隣りの姉ちゃんがメルト。三人ともルッカ自衛団のもんだ。ちなみにロックは自衛団の副団長だ。続けてこっちの面子も俺がちゃちゃっと紹介しちまうな。まずそこの兄ちゃんがアオイ。その隣りの赤髪の美人がルヴィスちゃんでこっちのメイド服の美人がクラニだ」
「はぁ。アルス様ったら相変わらず雑で下手な紹介ですね。それと何で私には美人ってつけてくれなかったんですか? いつもなら私にだってうるさいくらい美人美人って言ってくるくせに」
「悪ぃ悪ぃ。そんなに怒るなって。美人のメルトちゃん」
「もう! だいたいアルス様は」
「メルト。それ以上はよせ」
「はい。失礼しました」
ロックに制止されたメルトが軽く頭をさげた。




