第20話 オルンジ
「がはぁ死ぬかと思った」
「お二人とも何をやってるんですか!!」
両手を腰に当てリルエマとルヴィスを一喝するクラニ。
「危うくアオイさんが窒息するところでしたよ!」
「ごめんなさぃ〜」
「ごめんなさい」
肩をすぼめしゅんとするリルエマとルヴィス。
「お二人は何であんなことをしたのですか?」
「私は……なんていうかその……リルエマさんに負けられないっていうか……」
「私もぉなんかぁルヴィスちゃんにぃ負けちゃいけないって思っちゃってぇ」
「はぁ? 何ですかその不毛な争いは」
「はい。反省してます。アオイ、ごめんなさい」
「わたしもぉ反省してますぅ。ごめんねぇアオイぃ」
「いいよ。二人とも。もう大丈夫だから」
「もお。アオイさんは優しすぎます。ご自身が危険にさらされたっていうのにあっさりと許してしまうんですから。少しは怒ってもいいところですよ?」
「ま、まぁね」
「はぁ。アオイさんがいいと言ったのですからこれ以上お二人を責めたりはしませんがもうこういうことはダメ、ですよ?」
「はい!」
「はぁい」
プッククク。僕は二人の姿に思わず吹いてしまった。
「何笑ってるの?」
ルヴィスが不思議そうな顔で言う。
「いやだって二人とも母親に叱られた子供みたいに見えたからさ」
「たしかに」
「そうねぇ〜」
「言われてみれば。でも私がお母さん、なんですよね?……ハハ」
「ハハ」
苦笑いを浮かべ顔を見合わせる僕とクラニ。そんな僕たちを見てクスクスと笑うリルエマとルヴィス。その後はそれぞれの顔を見回しみんなで声を出して笑った。
「ウフフ。それじゃぁ残りぃみんなでぇ食べちゃおぅ」
「は〜い♪ 頂きま〜す」
「私もあらためて頂きます」
「僕も頂きます。今度は自分で」
「ねぇアオイぃ〜これもぉ食べていぃ?」
リルエマが指差すそれはさっきアルスから受け取りテーブルの上に置いたあのオレンジのような果実だった。
「あ〜これはたぶん食べられないと思いますよ」
「そうなのぉ? 美味しそうなオルンジに見えるけど違うのぉ?」
(オルンジ。これはオルンジっていうんだ。名前までオレンジに似てるとは笑える)
「なにぃニヤニヤしてるのぉ?」
「あ、いや何でもないです。それより日が暮れたらこれを使って俺たちの所に来いってアルスは言ってまして」
「なぁんだぁ。そうだったんだぁ。ならぁ食べられないねぇ」
「やっぱりそうなんですね。だとするとこれは魔法道具ですか?」
「そうだよぉ。オルンジにぃ似せたぁ魔法道具だよぉ」
「でもどうやって使えばいいんだろう? アルスは説明なしに行ってしまったしな」
「ん〜? アオイはぁそれのぉ使い方ぁ知らないのぉ?」
「はい。知らないです。リルエマさんは知っているんですか?」
「知ってるよぉ。だからぁ教えてあげるぅ」
そう言うとリルエマはオルンジのヘタに人差し指を乗せくるくるっと右に三周させた後トントンと二回ヘタを指の腹で叩いた。するとオルンジのヘタがニョキっと飛び出し小さな矢印へ姿を変えた。
「うわっ! 何か出てきた!」
「このぉ矢印がぁ指す方へぇ行けばぁ目的地にぃたどり着けるのよぉ」
「へぇ〜ナビみたいですね」
「なびぃ?」
「あ、えっとナビっていうのはこの中に入っているアプ、いや魔法の一つでこれと同じように目的地へ案内してくれるものです」
「すご〜い! 見てみたぁ〜い」
「ん〜多分ここでは使えないと思います」
「そうなのぉ? なんでぇ? 魔力が足りないのぉ?」
「そ、そうです。魔力が足りないんです。でももしかしたら画を見るだけならできるかもしれません」
僕は無理だろうなと思いながらも携帯を取り出しマップアプリをタッチしてみた。
「……ま、そうだよね」
画面には、矢印はおろか地図すら表示されることはなかった。
「やっぱり今はこの魔法は使えないみたいです」
「そうなんだぁ。残念〜」
「ねぇねぇアオイ。そろそろ行かないとじゃない? ほら」
僕たちのやり取りを横で見ていたルヴィスがしびれを切らせた様子で話しに割って入ると窓を指差した。
「うわっ! もう外真っ暗になってる!」
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので窓の外は日が沈みすっかり暗くなっていた。
「すみませんリルエマさん。僕たちそろそろ行きますね」
「こちらこそぉごめんねぇ。みんなぁ気をつけてねぇ。いってらっしゃぁ〜い」
「行ってきま〜す」
「はい。気をつけて行ってきます」
「行ってきます」
僕たちはリルエマの家を後にするとオルンジの矢印をたよりにアルスの待つ宿屋へ向かった。




