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第19話 リルエマの茶会

 窓の外の雲一つない青空を見上げなんとか保っていた平常心だったが隣の部屋から漏れる三人の悩ましい声にそれは脆くも崩れ去った。


「ルヴィスちゃんのぉ……凄ぉい」

「ちょ、ちょっとリルエマさん。どこ触ってるんですか」

「ウフフ〜。クラニちゃんそこにぃ手ぇ回してぇ」

「こうですか? ルヴィスさん少し我慢してくださいね」

「あん。クラニ、そこはくすぐったいってば。あ、あぁ。ダメだってば」


 気がつけば僕は壁に耳を寄せていた。


「ルヴィスちゃんたらぁ。そんな声出したらぁアオイに聞こえちゃうよぉ」

「それは恥ずかしいです」

「案外ぃ〜そこの壁に張り付いてぇ私たちのぉ話しぃ聞いてたりしてぇ」


 ギクッ! (薄々感じてはいたけどリルエマさんって感がめちゃくちゃ鋭いよな)


「アオイさんはそんなことする人じゃありません! きっと」


(クラニさん……心が痛い。もうやめようこんな事)


 クラニの言葉で我を戒めた僕は大人しく椅子に座り直し再び空を見上げた。


「ほんと僕って馬鹿だな」


 それから一時間程が経っただろうか。採寸作業を終えた三人が戻ってきた。


「アオイぃ〜お待たせぇ。終わったよぉ。あれぇアオイそこにいたのぉ?」

「は、はい。ここで外の景色を眺めてました」

「なんだぁそっかぁ」


 リルエマの顔は少しがっかりしているように見えた。が次の瞬間その表情は一変しぽんっと手のひらを合わせると嬉しそうに言う。


「そうだぁアオイぃいい事教えてあげるぅ。ルヴィスちゃんのぉスリーサイズはぁ」

「わーー! ちょっとリルエマさん! それはナイショーー!」

「そうなのぉ? ならぁナイショ〜。アオイぃごめんねぇ」


 リルエマはつまらなそうな顔で僕に謝った。


「いや謝らなくてぜんぜんいいです。むしろ謝られた方がなんか変な感じになりますし」


 心なしかルヴィスとクラニの視線が冷たい気がしたのは僕だけだろうか。


「そうだぁ夜まではぁまだ時間あるしぃみんなでぇお茶会しなぁい?」

「お茶会した〜い!」

「私もしたいです!」

「アオイはぁ?」

「はい。ご一緒したいです」

「決まりねぇ。そしたらぁ今からぁ用意するからぁちょっとぉ待っててねぇ」


 リルエマはキッチンに立つと手早く道具と材料を揃え何かを作り始めた。カチャカチャカチャ……ジュ〜……しばらくすると香ばしく甘い香りが僕たち三人の鼻をくすぐった。


「良い香り〜♪」

「ですね♪ ですね♪」

「ほんといい匂いだね♪」


 そんなことを言っているうちにキッチンから大きな皿を両手に抱えたリルエマが戻ってきた。


「お待たせぇ。出来たよぉ。よいしょぉ〜」


 ドンッと重量感のある音をたてテーブルの上に置かれた皿には丸い大きなドーナツのような形をしたお菓子らしきものがのっていた。


「私のぉオリジナルぅスイーツぅ。その名もぉエントランスぅロックパンケーキぃ」

「わぁ大っきなパンケーキ! これってもしかして街の入口のアレ?」

「たしかにこの形はあの岩に似てますね」

「二人ともぉ正解ぃ〜。エントランスぅロックパンケーキぃは名前の通りぃ街のぉ入口の岩をぉイメージしたぁパンケーキよぉ。ちょっと待っててぇ仕上げがあるのぉ」


 リルエマはキッチンからパンパンに膨らんだ白い袋を両手に抱え戻ってくるとそれをギュギュギュっと絞った。すると真っ白なクリームが勢いよく飛び出しパンケーキの真ん中に空いた穴に注がれた。


「このぉ真ん中の穴にぃたぁっぷり詰めたぁクリームをぉパンケーキにぃつけてぇ食べるのぉ。それじゃぁいただきまぁす♪」


 リルエマはパンケーキを一口大に切りクリームをつけると大きく口を開けパクリ。


「んふぅ。我ながらぁ良い出来ぃ。みんなもぉ食べてぇ」

「頂きま〜す。ん〜おいひぃ♪」

「頂きます。はぁ幸せれふぅ〜♪」


(嬉しそうな顔……にしても三人ともほんとかわいいよな。しかもそのうちの一人が僕の妻(まだ仮だけど)だなんて未だに信じられないよ)


「あれぇ? アオイぃどうしたのぉ? パンケーキぃ食べないのぉ? 顔もぉ赤いしぃ具合でもぉ悪いのぉ?」

「え!? いやそんなことないです」


 まさか三人の笑顔に見惚れていたなんて恥ずかしくて言えない。


「ならぁ〜あ〜ん♪」

「え!?」


 半ば強引にリルエマがパンケーキを僕の口に押し込む。

 んグッ! モグモグ……ゴクン。


「美味しぃ?」

「お、美味しいです」

「ほんとぉ〜? よかったぁ」


 と僕は鋭い視線を感じた。視線の先には頬を膨らませこちらを睨むルヴィスの姿。


「アオイ、あ〜ん」


 リルエマ同様、いやそれ以上に強引にルヴィスがパンケーキを僕の口に押し込む。


 んグ! んググ!! ゴックン。

 喉に詰まるか詰まらないかのギリギリでなんとか飲み込めたが一歩間違えば窒息。


「美味しい?」


 目の奥がまったく笑っていないルヴィスに返す答えは一つ。


「美味しいです!」


 僕の返答に二本の八重歯を覗かせるルヴィス。


「アオイぃ〜」


 リルエマに呼ばれ振り向くとすかさず口に押し込まれるパンケーキ。


 んグ! モグモグ……ゴクン。


「アオイ!」


 ルヴィスの声に振り向くとまた口に押し込まれるパンケーキ。


 んグ! モグモグ……ゴクン。


「アオイぃ〜」

「アオイ!」

「アオイぃ〜」

「アオイ!」


 リルエマとルヴィスから交互に押し込まれるパンケーキ。そのペースは加速の一途をたどり限界に達した僕は見事にパンケーキを喉につまらせた。顔が青ざめていく僕の背中を慌てて叩いたのはクラニだった。


「アオイさん! しっかり!」

「ゲホッ! ゴホッゲホッ!」

「これを!」


 僕はクラニから手渡されたティーカップのお茶を飲み干ほすとイスに背中をべったりとつけ天井を見上げた。

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