第12話 選定の女神 武器編(後編)
「フォルマン様、ただ今戻りました」
「うむ。ご苦労。その様子、無事に終えたようだな」
「はい」
フォルマンはクラニを労うとソファに寝転ぶアルスの肩を軽く叩いた。
「アルス様、アオイ様とルヴィス様がお戻りになられました」
「ふぁ〜。ん? お! おぉ〜! 二人ともすげー良いじゃんか!」
大きなあくびをしながらソファーから起き上がってきたアルスは僕たちの装備品を見るなり言った。
「でしょ〜。なにしろ選定の女神、クラニ様が選んでくれたからね♪」
「ル、ルヴィス様!」
「選定の女神クラニ様か。そりゃクラニちゃんにぴったりの呼び名だな」
「アルス様まで」
「だってそうだろ? クラニちゃんの選定は王国一って評判だし何より美人だからな」
「び、美人!? そそ、そんなことはございません!」
「私も美人さんだと思うよ。アオイもそう思うでしょ?」
「うん。クラニさんは美人ですよ」
「な。だからクラニちゃんは選定の女神ってわけよ」
コホン。
僕たちの側で静かに様子を見守っていたフォルマンが会話を遮るように小さく咳払いをした。
「クラニよ。皆様のおっしゃられている事、素直にお受けしても良いと私は思うのだがね」
「フォルマン様……皆様……こんな私めには勿体ないお言葉の数々。身に余る光栄にございます」
「フフ。クラニらしいわね。それはそうとフォルマンさんちょっといい?」
「はい。何でございましょう」
ルヴィスはフォルマンを部屋の隅に連れて行くと何やらヒソヒソ話しをはじめた。
「単刀直入に言うわ。クラニを私達に預けてほしいの」
「ほぉ。それは唐突なお願いですな。何故そう思われるのか理由をお聞かせ願いますか?」
「もちろんよ。私達はある服を作るためにその素材を探す旅に出るところなの。それも最高品質の素材をね。けどそういうモノを見極めるのって正直私達には難しいのよ」
「なるほど。そういうことですか」
「もちろん彼女がここを留守にすることがお店にとって相当な痛手だってことはわかってる。けどそれでも彼女の力を借りたいの」
「ふむ。それは困りましたね。と本来ならば言うべきでしょうがルヴィス様のそのご提案お受けいたしましょう」
「ずいぶんあっさりと了解してくれるのね。交渉はもっと難航すると思ってたからちょっと拍子抜けだわ」
「無論あの娘がここを出てしまうことは私達といたしましてもかなりの痛手であることは間違いありません。ですがここに留めておくことは世界の痛手となりうる。それはルヴィス様もお気づきになられたはず」
「世界の痛手というのは大げさだと思うけどまぁあながち間違いではないわね。彼女にはもっと広く世界を知ってもらいたい。そうすればきっと最高の鑑定士になれると思うわ」
「同感にございます。ですからお二人にクラニを託したいのでございます」
「お願いしておいて言うのも変だけど私達で本当にいいの?」
「お二人であるからこそ託せるのでございます。僭越ながら私の選神眼を通してお二人を見極めさせていただきました。その結果としてお二人ならあの娘を最高の鑑定士へと導いてくださる。そう判断させていただいた次第にございます」
「その眼力、只者じゃないと思ってたけどまさか選神眼の持ち主だったなんて驚きだわ。それって彼女は知ってるの?」
「いえ。ですからご内密に」
「わかったわ」
「ありがとうございます。では早速クラニに旅の用意をさせましょう」
二人は戻ってくるとフォルマンはクラニに。ルヴィスは僕に事の次第を説明した。
「ということなの。アオイに相談しないで決めてしまってごめんなさい」
「謝ることなんてないよ。僕はぜんぜんそれで構わないよ。だってクラニさんがいてくれたらどれだけ助かるか」
「よかった」
ルヴィスはにっこりと笑った。
「ということなのだ。やってくれるなクラニ」
「はい。フォルマン様。アオイ様とルヴィス様のために尽力させていただきます」
「うむ。では旅の支度をしてまいれ」
「はい。皆様一度失礼いたします」
僕たちに一礼するとクラニは部屋を出て行った。
「ありがとうフォルマンさん」
「お礼を申し上げるべきは私の方でございます。何卒クラニをお願い致します。それとクラニには素材の鑑定とお二人の身の回りのお世話をするようにとだけ話してあります。鑑定士の件はまだ早うございますので」
「そうね。それはその時が来たらにしましょう。さてとアオイ、クラニが来たら宝石屋に行くよ」
「うん」
「お待たせいたしました」
支度を終えたクラニが部屋へ戻ってきた。
「あれ? クラニさんその格好」
「あまり変わったように見えませんよね。ですがこれは外での活動がしやすいよう素材や細工など細かな点を変更したものにございます。こう見えて少々の戦闘にも耐えうる防御性能も備えているのですよ」
「へぇ〜それは凄いですね」
「それじゃクラニも準備できたみたいだし行きましょう。アルス、あれ? アルスは?」
「アルス様なら先程一人で部屋を出て行かれましたぞ」
「何も言わずに行ってしまうなんて。旅立つ前にもう一度しっかりお礼を言いたかったのに。まぁでもその自由さがアルスらしいわね」
「その通りでございますね。ではアオイ様、ルヴィス様、そしてクラニよ。お気をつけて行ってらっしゃいませ」