新感覚冒険譚 ー即席異世界物語ー
「ん? クォクォア?」
転生する男は、何もない真っ白な空間で目を覚ました。
最後の記憶は確か、おにぎりを食べたくて、黒塗りの高級車に追突したこと。
「目が覚めましたか?」
「ファッ!?」
突然の声に、転生する男は、驚きの声を出す。
あたりを見回すが、誰もいない。
「聞こえますか、人の子フィンよ」
「んにゃぴ、いちかにですね」
「ちょっと何を言ってるかわからないですね」
「なんでわかんねーんだよ」
「んー、おかしいなぁ、言語は一緒のはずなんだけどなぁ(獣の巨人並みの感想) まぁ、僕はこの世界の神様で、悪いんだけど、君を間違って殺しちゃったから、ぱぱぱっと転生させて終わり! 君の名前からしてそういう運命だったってあきらめて、ほな、出荷よー」
「らんらん」
そんなー。
転生する男が再び目を覚ましたのは、何もない草原である。
「こういう時はステータスオンって、はっきりわかんだね」
そんなものは、ないです。
「ガーンだな、出鼻をくじかれた」
出鼻をくじかれた転生する男だったが、腹は減ってはノーウォー、ラブアンドピース。
しばらく、歩き始めれば何か見えるだろうと思った。
えっちらおっちら歩き始めると、道のようなものが見えてきた。人が何人も往来しているからか、土が踏み固められて、草が生えていない。轍のようなものが見えることから、馬車のような車輪文化があるとわかった。
希望が見えると人は元気になる。
元気があれば何でもできる。
気合いだ!
気合いだ!!
気合いだ!!!
転生する男は、道にそって歩き始めた。
すると、道の向こうから農夫の集団がやってきた。農夫とわかったのは簡単、彼らの手には鍬と鎌と槌が握られていたのだ。
「ん? まぁた、転生者か」
「そうですね」
話が早い。
「まぁ、ともかく、一晩泊っていくといい。飯位保証してやる」
「ありがとなす!」
「なす?」
「与一だぞー。おにぎりはあるのか?」
「与一? おにぎり? なんのことか知りませんが名物でもてなさせていただきます」
農夫のいぶかしむような目線を気にせず、転生する男は、村へと通される。五十人ほどの小さな村だ。農業で成り立っている様子で、家が三つあり、その三つにそれぞれ分かれて住んでいるらしい。
飯として出されたのはグレープだった。
「これが幻のグレープ」
「村の特産品だからな」
「あなたもしかして、無類のワイン好きですか?」
「ワイン?」
「ワインを知らない、文明レベル5。ゴミだな」
転生する男は、突然、グレープを器の中で叩き潰した!
あっけにとられる村人!
しかし、すぐに出来上がったのは、なんとグレープジュース!
「発酵させてやるからなー、見とけよ見とけよー」
「なるほど、果汁を発酵させて酒とするのですな!」
「おっす、お願いしまーす」
一人の男が長いあごひげを撫でる。
「もしや、これでこの村は救われるかもしれん」
「そんなわけないだろーい」
「転生者が教えてくれたこのワインで一儲けじゃ!」
村人は一致団結、まいっちんぐ真知子ちゃん。
グレープを育てては果汁にし、それを発酵させる組が村に新たにできた。それを統括するのは転生する男である。転生する男のもたらした知識は、村を指数関数的に発展させた。
例えば製鉄技術であり、例えば核融合反応。
「アトムの弟の名前知ってる? コバルト」
「ウラニウムを集めてくるんですね!」
村一番の美女が転生する男の傍に着き、その発言の意図するところを村に広めてくれる。
核融合技術こそ大成はしなかったが、製鉄技術は村に繁栄をもたらした。
砂鉄を集め、溶かし作り上げた玉鋼。
それを伸ばし、鍛えて作られた刃で、村人は隣の村々を襲った。
いつしか農夫の血塗られた手には鉄の鎌と、鉄の鎚が握られていた。
「今日からお前は……富士山だ!」
フジサン。
そう名前をつけられたその女によって、さらに村は平穏、平らかに統治された。
が、平らかなのは村だけである。
ある日、村が所属している王国から、一人の役人がやってきた。
「実は王国で転生者が噂になっているのです」
「ちょwwwおま、マジで有名人じゃんwww」
「……あの、会話できてます?」
「ゆうた、学校こいよな!」
「気にせずにどうぞ」
フジサンに勧められ、役人は咳ばらいを一つ。
「実は王都では厄介なことが起きておりましてね」
役人が話したのは次のようなものであった。
王国では勢力が二分されている。現状の国王は病のため床に伏し、次期国王を選ぶ段階になっているのだ。本来であればその子が継ぐ王位だが、その子が女児であった。
これを格好の口実に、大臣派閥は分家の男児を国王へと擁立する。しかし、それを面白く思わない反対派は女児を擁護する。それにより、内乱に近い状態となっているのである。
「僕は、シーア派ですかね」
「シーア……?」
「気にせずに。それで、我々の村にどうしろと」
「ここに書状があります。この村を一領土とし、転生者をその領主とする。あとは、転生者様が、我々の派閥に組してくれば良いのです」
「なるほど。その見返りは?」
「ワインおよび酒類の専売」
「ビール! ビール! ばっちぇ冷えてますよー」
「転生者様は、お受けしますと」
役人は感激の声とともに頭を下げた。
一領主となった転生する男は、即日、フジサンを経由する形で大臣派閥への反対意見を表明した。これに呼応する形で、大臣派閥が武装蜂起するも、製鉄技術の提供を受けた反対勢力は、大臣派閥を殲滅。
旧国王の直属で活躍していた大臣は皆、辺境伯として投獄や蟄居させられたか、あるいは、大地にその薄汚れた血を飲ませることとなった。
そして、かつて大臣派閥が擁立していた男児が、転生する男と新国王、そして、新閣僚の前に引きずり出された。
「ケンジ、どうしたぁ!」
「ケンジ……?」
「あの、気になさらず」
男児の純粋な疑問に、フジサンは丁重に返事をする。
が、男児はすぐにきっと目に生気を取り戻し、新閣僚をにらみつける。
「お前、俺たちが着替えてるときちらちら見てたよな?」
「当然だ。お前たちがやったことを私は忘れないぞ」
「大臣派閥の男児よ。お前の処分を決めるのだ、口を慎め」
「誰が慎むものか。お前たちは何をやったか。自らの権力を確立させるために、今まで国に尽くしてきた者を滅したのだ。これがどれほど大きな損害か」
「無論、これから、より大きく平らかな国を作るのです」
新大臣は新国王となった女児の前に出る。
「国王陛下にお願いいたします。この者へは死罪を」
「やりますねぇ!」
「おぉ、転生者様が自ら手を下す必要はありませんよ」
「当たり前田のクラッカー」
「クラッカー? まぁいい。では、この薄汚れた血族を処分してくれ」
「穢れたマグルの血め!」
「マグル。それはいい。そう呼ぶことにしましょう」
こうして、かつて国王を支えた大臣派閥は族滅となった。生き残った家族もその後は悲惨の一言に尽きる。穢れた血、マグルと呼ばれ、男は単純労役の罪を生まれながらにして背負わされ、女は女としての機能を余すことなく消費させられた。
そうして、数年の月日が流れた。
転生者様によってもたらされた内燃機関、蒸気機関により、文明レベルはまさしく飛躍した。その圧倒的な文明力により、隣国を侵攻し、次々に属国化していく。
フジサンはその手腕を買われ、国家中枢にて活躍するようになった。もとより、賢い女であり、そこにある技術や人材を活かすことに長けていたのだろう。
しかし、転生する男は、満足することがなかった。
と、いうのも、おにぎりを食べれていなかったからだ。
え、まじ?
こんだけしといて、転生する男の目的、おにぎりを食べることだったの?
「お、おにぎりが食べたいんだな」
「転生者様。おにぎりとは一体」
「野に咲く花のように」
「植物か何かですかね。それがあれば、薄汚れた血族、マグルどもをさらにいたぶれるのですね?」
「馬鹿野郎勝つぞお前」
「おぉ! 転生者様はまだ戦えるとおっしゃっている!」
転生する男の言葉は民衆に力を与える。
マジかよ。
「ケンちゃん、まだ一回の表、野球は始まったばかりよ」
その言葉とともに、転生する男は屋敷を出た。
おにぎりを探して町の中央へと向かう。車が行きかう道を見ると、かつて自分が過ごしていた世界に思いをはせる……
「あ! ドーナツ、見っけ! いただきまぁす」
ということもなかった。
が、ドーナツを食べようとしたその時だった。
一台の黒塗りの高級車が目に入った。正確に言うと、その後部座席に座る人間の手にあるもの。それは、ちょうど属国化させたヒガノボル国の名産品、米を固めたものであった。
「お前のことが好きだったんだよ!」
転生する男は、黒塗りの高級車に走って向かい、追突した。
転生する男は、真っ白な空間で目を覚ました。