14 幸せの形
帰り道にあるコンビニにて。
小腹が空いた茜の要望に応えて店内をぶらついていた。
「コンビニ来るの結構久しぶりだなぁ」
「そうなのか?」
「うん。コンビニに用事なかったし、欲しいものがあっても大体マネージャーが用意してくれるんだよね」
「樋ノ口さん万能すぎるだろ……」
「あとオンラインが多かったし」
やはり大人気モデルなので仕事が忙しかったのだろう。
俺たちにとってはなんてことないコンビニでさえ、茜の世界は輝くのだ。
茜が軽い足取りで俺の前を行く。
俺は保護者系彼氏視点で茜のことを見守っていた。
「やっぱり寒いし、アイスかなぁ」
「……独特な感性の持ち主だなお前」
「どうもどうも」
別に褒めてないけど、嬉しそうだからいいや。
俺も適当に目に入ったアイスでも買うかな、と思っていると、茜が勢いよく一つのアイスを取り出した。
それを天才的発明品かのように、俺の目の前に出す。
「ぺピコ! 一緒に半分コしよ?」
「……CMか」
今のシーンを切り取ってCMにしても全く違和感なかったと思う。
まさかそのセリフを言われる日が来るとは……ぺピコに感謝である。
「それにしても、懐かしいなそれ」
「でしょ? 昔アイス買うってなったら絶対これ食べてたよね」
「そうだな。茜の食い意地すごかったから、俺だけが買うときもこれだったな」
思えば、昔から俺は茜の尻に敷かれていたのかもしれない。
別にそれでいいんだけど。
「でもなんだかんだ『俺一個でいいから、もう一個はお前にやるよ』とか言ってたよね。歩夢可愛すぎ」
「そうだろうそうだろう? 俺実は可愛いんだぜ?」
「……可愛くない」
「冷めるの早すぎだろ!」
そうツッコむと、茜は子供みたいに笑った。
また人を笑顔にしてしまった、とドヤ顔をしておく。
「でも昔からほんと、歩夢は歩夢だよねぇ」
「当たり前だ。俺は二十年後もこのままの自信がある」
「それは楽しい結婚生活になりそうだ」
「そうだな」
茜のその言葉にも当然頷ける。
前までは現実味を帯びてなかった茜との結婚が、今は確信できるから。
「じゃ、ペヒコ買ってきてやるよ」
「えっ? 私が食べたいから私が買うのに」
「いいんだよ。こういう所でしかカッコつけられん」
実際茜にとってペヒコ程度はどうってことないかもしれないけど、こういうのは気持ちの問題だ。
それと、ただただ彼氏ヅラしたいという俺のエゴだ。
「……歩夢やっぱり好き!」
「ちょっとおま……今店の中!」
「へへー知らないよーだ」
「ったく……」
どんだけ可愛いんだよ……。
俺は呆れた風を装いながら、レジに向かった。
「はい」
「さんきゅ」
俺からペヒコを受け取った茜は、ぱくりとペヒコを口に加えた。
この写真をグ○コに送ったら絶対CMの依頼くるよなぁなんて思いながら、俺もペヒコを食べた。
「うんまぁ~」
「懐かしい味だな」
「んふふ。だね」
昔の記憶が蘇る。
幼い頃もちょうどこのコンビニでペヒコを買って、帰り道を歩きながら二人で食べてたっけ。
このままタイムスリップして、あの日々に戻るんじゃないかと思った。
でも、俺は――
「ずっとこんな毎日が続けばいいのになぁ」
「やめろそれ。そういうのはフラグになっちゃうからな?」
「大丈夫だって。正直、こんな毎日が続かないってわかってるもん。だから――」
茜は俺よりも一歩前に出て、長い髪をたなびかせて俺の方に振り向いた。
そして十八番である満面の笑みを浮かべて言うのだった。
「これからもっと、幸せな毎日にしてこ?」
その言葉に俺がなんて答えたのか、言うまでもない。
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