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しあわせなピアノ  作者: レビンとシッポのママ
5/10

中古の仲間たち

 ピアノは誰かの声で目を覚ましました。

「おい!新入り!うるさいぞ!」

 気がつくとピアノは、覆われていた布も取られていて広い倉庫の中にいました。

見回してみると自分と同じピアノの仲間が沢山並んで置かれていました。ピアノ自身は入り口の側にいたのですが、奥には一段高くなった場所に大きなグランドピアノが並んでいるのが見えました。

 ピアノは夢真ちゃんの家のピアノになる前に、グランドピアノを見たことがありました。とても大きな体で側板や大屋根には素敵な曲線がありました。時々開く大屋根を見て、その壮麗さにため息が出たのもでした。

「おい!聞いているのか!」

 ピアノは隣に並んでいるピアノに声を掛けられて、はっとしました。

「あ・・ボクですか?」

「さっきから寝言がうるさいんだよ。もう少し静かにしてくれよ。」

「ご、ごめんなさい。・・・でも言葉が通じるんですね。よかった!・・・えっと、ここはどこですか?」

ピアノは初めて自分がどこにいるのか分からないことに気づきました。

「ここはいらなくなったピアノが売られてくる所だよ。」

隣のピアノはあくびをしながら答えました。

「え、じゃあみんな売られてきたの?これからボクはどうなるの?」 

ピアノは続けて聞きました。

「そうだな・・運のいいやつは、新しいオーナーに買われていくよ。でも、買い手がつかないやつはいずれ解体されて、燃やされるのさ。」

 ピアノはびっくりしました。『解体されて燃やされる!?嘘だろ・・・。』

「安心しろよ、今すぐに燃やされるってわけじゃないんだから。古くて使いもんにならないやつが先だからな。」


「おい、新入り。おまえの胸についているそれは何だ?」

今度は向かい側に並んでいるピアノが二人に割って話しかけてきました。

「え?ああ、これ?これはボクの自慢のエンブレムだよ。夢真ちゃんっていうボクを弾いてくれていた女の子の名前なんだ。夢真ちゃんのお父さんが夢真ちゃんの誕生を祝ってボクを買ってくれた時に、記念に造ったものなんだ。」

ピアノが自慢して答えました。すると隣のピアノと向かいのピアノが呆れたように言いました。

「名前のエンブレムだって!?」

「お前な、そんな前の持ち主の名前なんかがついているピアノを誰が買ってくれるんだよ。」

ピアノは反撃します。

「これは夢真ちゃんのお父さんが愛情を込めてつけてくれたものなんだぞ!ボクの自慢のエンブレムなんだ。」

「愛情だって?ははは・・。じゃあなんでお前は売られたんだよ。」

向かいのピアノが笑いながら言いました。

「愛情があったんだったら、お前が売られるはずがないだろう!」

隣のピアノが言いました。

「・・・夢真ちゃんは死んじゃったんだ。」

ピアノは下を向いて静かに言いました。

「結局はその子が死んだから、お前が用なしになったってことだろう。」

向かいのピアノが追い打ちをかけるように言いました。ピアノは何も言えなくなりました。自分がここにいるということは言われる通り、夢真ちゃんの両親が自分を売ったからなのです。


「もうよさないか!」

奥から大きな声がしました。

「なんだ、長老か。オレらは本当のことを新入りに教えてやっただけさ。」

「やめておけ。新しく来たばかりの者にいきなり色々言っても混乱するだけじゃろ。」

長老と呼ばれるそのピアノは、もうかなり古くピアノの光沢もなく、所々色が剥げて老朽化が見て取れました。

「新入りよすまんな。悪く思わんでくれ、ここには新品の者は誰もおらん。わしらはみんな《中古》と呼ばれている。一度でも人間の社会に入ってピアノとして生きてきた者同士じゃ。新入りのお前も同じじゃな。みんなだいたい同じ事情でここにおる。誰もが再生を望んでいるが、全員が全て再生を果たせるとは限らん。毎日不安でここにおるのじゃ。」

ピアノは回りのピアノ達を見回しました。隣と向かいのピアノ以外は、みんな黙って目を閉じたままでした。ここにいるピアノ達は自分と同じ境遇でここにいるんだということを知りました。

「わしはもう随分長い間ここにおった。再生を夢にみたが今では体も朽ち始めてきてしまった。もうじきここから出て、さっきあいつが言っていたように解体されて燃やされるじゃろ。しかしお前達はまだ希望がある。大丈夫じゃ。」

長老は笑いながら言いました。

「解体されて燃やされる?それが怖くないんですか?なぜそんなに笑っていられるんです?」

ピアノは穏やかに答える長老の心境が分からずに聞きました。長老が落ち着いたまま答えました。

「それはな、解体されて燃やされたとしても、わし自身が無くなることはないと気づいたからじゃ。わしもまだ若い頃は不安で怖くて仕方がなかった。しかし気づく時は必ず来るんじゃ。だから希望を捨ててはだめじゃぞ。」

 ピアノも他のピアノ達も長老の話を黙って聞いていました。ピアノにはまだよく分かりませんでした。『解体されて燃やされるのに、無くなることがないって?どういうことなんだ?』

 長老はニコニコ笑ってピアノを見ていました。さっきまでピアノをからかっていた隣のピアノと向かいのピアノは黙って寝てしまいました。

 

もう外はすっかり夜が更けていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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