56話.無力な力
休暇明けに開かれた、学園祭で数多くの星を集めた者達を表彰する式典。
そこで私は飲食部門賞に選ばれた。それは言うまでもなく飲食を提供した者の中で最も多くの星を得た者に贈られる賞。
晴れの舞台にふさわしい煌びやかなドレスを身にまとい、表彰楯を受け取り称賛の声を浴びる。
私の美しさを讃える声、学園祭で食べた料理の味を思い返す声、呪いの料理が最も食されていた事に驚嘆する声……。
それらの声に向けて私はたおやかな笑みを浮かべる。
大賞が獲れなかったことは少し残念なのだけどね。
今年この学園の中で何処よりも多くの星を得たのは、地属性と鉱物属性の合作による大型ダンジョンだった。
学園祭で人気の催しといえば創作ダンジョンが定番らしく、内部には学生が作った魔法生物や罠や宝物などが設置されているのだとか。
来客者達はその殆どが学園卒業済み、つまり在学生以上に年季の入った魔法の使い手なのでもちろん自身の魔法で攻略する。在学生と卒業生による腕比べの場でもあった。
そして数ある創作ダンジョンの中でも地属性と鉱物属性の合作ダンジョンが今年の人気を博したのは、ダンジョン内の壁は魔道具のツルハシによって簡単に採掘が出来るように構成されていて、マナで作られた宝石が取り放題だったかららしい。
普段では決して体験することのない採掘作業を遊び感覚で出来るのはなかなか新鮮だったようで、参加者は皆夢中になってダンジョンを掘っていたという。
正直言うと悔しいけど……こればかりはしょうがないかしら。
私にはダンジョン作成なんて大掛かりな魔法は使えないもの。仮に膨大な魔力があったとしても、呪いの属性ではやっぱり厳しかったと思う。
『あたしは菌属性のキノコ劇場が良かったなあー。役者も建物も地形もアイテムも全部キノコで表現されていたんですよ! シュールなんだかファンシーなんだかわからない世界観にちょっとはまっちゃいましたね!』
亡霊は表彰されなかった属性の催しに想いを馳せる。
私から離れている間にそんなものを鑑賞していたのね。どうりで帰りが遅かったわけだわ。
私は式典が終わった後も様々な人物から祝いの言葉を受け取った。
ユアナや殿下、衛兵、ハーヴィー先生やレイファードに、意外にもロウエンやトワルテまで。
そしてクオレスからも。
「おめでとう。ジュノ。……これで君の力が認められるようになったのだな」
そう口にする彼の表情は珍しく薄い笑みを浮かべていて、それなのにちっとも嬉しそうじゃなかった。
もっとも、彼の嬉しそうな表情なんてこの現実では見たことが無いのだけど……それでもその物悲しそうな顔を見ると、まだクオレス自身はこの力を認めてくれていないような気がしてしまう。
きっとそれは気のせいじゃないのでしょう。
「ありがとうクオレス。これもあなたが助けてくれたおかげよ」
それでも私は暗くなりそうな気持ちを押し殺して、この晴れの日にふさわしい笑顔で返すしかなかった。
部屋に戻ると今度はクッション生物達が私を祝福してくれるかのように飛び跳ねながら出迎えてきた。
……いや、違うわね。みんな巻かれたリードを手にしているもの。学園祭が終わってから一度も外に連れ出してないから、散歩に行きたいだけみたい。
「散歩はだめよ。今からだともう遅いでしょう?」
一体一体をなだめながら、そういえば……と、これらのクッション達を作った理由を思い出す。
「もう学園祭も終わったことだし、そろそろこのクッション達を解呪しないといけないわね」
『……えっ!? な、何を言っているんですかジュノさん!? まま、まさかクッションちゃん達を殺すってことですか!?』
「殺すって……使い終わった道具をあるべき姿に戻すだけでしょう?」
『嘘でしょ!? あんたには情ってものが無いんですか!?』
亡霊はかつてない程の勢いで怒りだした。
どうしてそこまで怒るのよ。もともと模擬店の宣伝のために作り出した存在なのだから、その役目が終わったら片付けるのが普通でしょう?
光や火や水で作られた小人達は大抵すぐに消えてしまうし、ゴーレムだって役目が終わったら土や泥に戻る。それと同じようなものでしょうに。
それにゴーレム達と比べたら、この子達はしつけに時間がかかるし、宣伝役はこなせてもそれ以外の雑用には全然むいていないし、クッションの体だから弱いし、主人を守らせるどころかむしろこっちが守ってあげないといけないしで、道具としてはあまり使い物にならない。
大事に置いておく必要なんて……無いはずなのに。
いざ呪いを解こうと思うと、この子達の姿を見ると胸が苦しくなる。
いちいち道具に情を抱いてどうするのよ。
「……あなた達はどうしたい? まだ動き回っていたい?」
私の問いかけに対して全てのクッション達がコクコクと頷いてみせた。
「もう役目も無いのに片付けられたくないなんて……あなた達ってつくづく道具失格ね。道具として失格ならもう、同じ命あるものとして扱ってやるしかないじゃない」
『ジュノさん、それって……! よかったねえ、みんな!』
感極まった様子の亡霊はクッション達に抱きつこうとしたけど、当然のことながらその体はすり抜けたし亡霊が見えないクッション達からは何の反応もされていなかった。
その翌日、ハーヴィー先生の研究室にて。
ついに呪いの力が学園から認められるようになった私は、先生から更なる朗報を聞かされることとなった。
「あんたが頑張ったおかげで、ついに決まったよ。第三試験の内容」
「……ということは、第三試験には参加出来るのですね?」
第一試験に続き、冬の長期休暇明けにおこなわれた第二試験も私は受けることが出来なかった。
まさか試験を受けられるようになる事がこんなに喜ばしい事になるだなんて、入学前には思いもしなかったわ。
「以前、ボクの指示で改良させた薬草がいくつかあったでしょ? あれを職員会議で披露したら予想以上に食いつきが良くてね、試験内容はそれらの薬草を使ったものにしようって話になったんだ。それで決まったのが、これ。『重度の汚染区域である魔の森の環境改善』」
「汚染区域の改善、ですか……」
『なんだか難しそうじゃないですか……?』
試験内容について詳しく書かれた紙を受け取る。
口にはしないけれど亡霊と同じことを思った。
私がナイトメア・カースで呪った薬草の中には、汚染物質への耐性を得たものもたしかにある。だけど本当にそれで上手くいくかまではわからない。
正直言うとかなり不安だった。
「以前改良した薬草をそのまま使ってもいいし、あれを更に改良してもいい。薬草を使って薬にしたり道具にするのもアリだよ。あと植物の成長を促進させる類の道具の使用も可。……それから、魔の森は強力な魔物達が徘徊する場所でもある。でも呪いの属性のあんたには戦う力なんて無いよね?」
「……ええ。お恥ずかしい話ですが」
「いや、恥だなんて思わなくていいよ。戦いに不向きな属性くらいいくらでもあるし、戦いを生業にするような貴族だって極少数派なんだから。あんたは自分に出来ることをすればいいんだ」
『得意なことはみんな違いますもんね!』
先生の言うことはもっともなのだと思う。
それでも私は自身の無力を受け入れられなかった。
ただの嫌がらせで作られたドラゴンに対してさえ自力ではどうすることも出来ずに、クオレスの手を煩わせてしまう始末。
そんなの情けないし、悔しい。
「あんたには他の学生と一緒に試験を受けてもらう。だから戦闘は他にまかせておけばいい」
「……わかりました」
その学生達のお荷物になれということね……。
しぶしぶと了解しながら、横目でこの研究室に置かれている魔道具を見る。
ハーヴァー先生が以前賊のアジトで魔物に向かって使っていたと思しき戦闘用魔道具。
せめて私もあれが使えればいいのに。
だけど膨大なエネルギーを放射する戦闘用魔道具は使用するマナも膨大なものらしく、私にはとても扱える代物じゃない。
つくづく自分の無力さを痛感してしまう。
――君の力が必要なんだ。私と共に戦ってくれないか。
気が付くと私は、夢の中のクオレスがユアナに言っていた言葉を思い出してしまっていた。
私だってあんな風に求められたい。クオレスの隣に立って一緒に戦ってみたいのに。
ようやく皆からこの力を認められるようになってきたというのに、今はどうしようもなくむなしかった。




