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48話.看板キャラ作り

「人々を魅了する猫となれ! ビースト・カース!」


 私は頭の中で完成形を思い浮かべながら、目の前にある物体に向かって呪いをかけた。


 呪いがかかった水晶玉からは、猫の耳と瞳と髭、鼻口部が生えてくる。

 魔力が少し上がったことによって複数の部位が生えるようになり、更に完成形をしっかりと思い浮かべることで狙った部位が出る確率も上がった。


 そのおかげで狙い通りの見た目になったはず……なんだけど……。


「なんというか……思っていたのと違う……」

『リアルすぎてシュール』


 水晶玉のツルツルとした光沢感と猫の毛の質感が壊滅的に合ってない。


 私は今、私の模擬店の看板にふさわしいような美しく可愛らしい生き物を作り出そうとしている。

 美しいのといえば光り物、そして可愛いものといえば丸いもの、そして猫……そう思って水晶玉と猫を組み合わせてみたのだけど、なんともバランスの悪い不気味な物体が出来上がってしまった。


「花に動物の顔を付けてみても不気味だったし……美って意外と難しいのね……」

『今のジュノさん、リアル雑コラ職人みたいになっちゃってますもんね』

「どんな職人よ……あっ、こらっ、そんな体で跳ねないの! 【もどれ】!」


 重い音をたてながらその場で跳ねていた水晶玉を元に戻す。

 呪いが解けた水晶玉は机の上を転がり、床へ落下する前に私の手の中におさまった。


「あ、危なかった……こんなものが飛び跳ねまわったら部屋の中が大惨事になるところだったわ」

『お客さんにぶつかったら炎上待った無しですね……』


 亡霊の話を想像して私は戦慄する。

 ぶつかった相手が火属性だとしても燃えはしないと思うけど、こんな物体がぶつかること自体あってはならない。

 私が扱う呪いの安全性を披露する場でもあるのに、来園者を怪我させたら何もかもが台無しになってしまうわ。


「事故を防ぐ為にもこういった重くて硬いものはナシね。となると……」

『軽くてやわらかいもの、ですかね?』


 それらしきものはないかと部屋の中を見回すと、ソファに置いてあったクッションが目に留まった。


「これならぶつかったとしても大丈夫そうね」


 クッションを手に取った私はその感触を確かめながら完成形を思い浮かべる。

 ……柔らかさは問題無いけど、この四角いシルエットじゃやっぱり不格好になりそうね。

 それなら、動物の形に合うようなクッションを探す……?

 いや、それよりも……。


「自分で作った方が早いかも……」

『えっ、ジュノさんクッション作れるんですか!?』

「作ったことは無いけど、針の扱いなら得意よ」

『ええっ!? それってもしかして、毒針で誰か刺したことあるとかそういうやつですか!?』

「ただの刺繍よ、失礼ね!」




 クッションを自作することに決めた私は材料を学園お抱えの商人から取り寄せ、裁縫の教本を図書館から借りた。

 教本は魔道具作りに関することが主ではあるけど、基本的なことも書いてあるから充分参考になる。


 いろいろ揃えた私は試行錯誤を重ねた。


 まずは胴体を模して作ったクッションから頭と四本の足を生やしてみたのだけど……どうにも動きがぎこちない。

 動けることは動けるのだけど元の動物らしい動きとは少し別物になっていて、それが妙な違和感を生んで見る者に不気味な印象を与えてしまう。

 動物らしさを追求するなら骨格等の体の造りまで再現しないといけないようね。

 とはいえそこまで勉強するとなると時間が足りないし、あまり元の動物に寄せ過ぎても意味が無いわ。独創性のある生き物にしないと。


 そこで今度は元の動物の足は付与せずに、手縫いの人形を参考に自分で手足のパーツを作って縫い合わせてから呪いをかけて頭部を生やしてみる。

 そうすると今度は体全体を使って飛び跳ねまわるだけの動きになって、ブラブラと揺れるだけの手や歩行には使われない足が奇妙に見える結果となってしまった。

 手足のパーツを作ったからといって、こちらが想定した通りの動きをしてくれるわけではないみたい……。


 最終的に手は気持ち程度の小さなパーツにして縫い付け、足は脚部分を作らず平たい足だけを作って底面の前側に縫い付けることで前から少しだけ飛び出して見えるようにした。

 これくらい存在感の無いものにしておけばあまり動かなくても違和感が無いでしょう。

 そしてこんな図体に本物の頭部というのもバランスが悪いから、クッションに刺繍して平たい顔を作った。目だけは本物にしておきましょうか。ここを本物にするだけでも生気が感じられるもの。


『ここまでくるとクッションっていうよりはぬいぐるみですねえ。あっ、目はわりと下のほうにつけておでこを広く見せるとかわいいらしいですよ』


 亡霊から言われた通りの位置に付けてみると、確かに可愛らしさが上がった。


「本当ね。あなた、もしかしてこういうのを作るのが得意なの?」

『いや全然全く! あたし不器用なんで完全に見る専ですよ! 薄い本も読み専です!』

「あなた口を開けばよくわからない単語ばかり出すわね」


 目だけでなく本物の尻尾と耳も付与すれば、本物同様に動く尻尾とぴょこぴょこと動く耳が更に可愛らしさを引き立たせる。

 毛皮を布地にして作ってあるので本物の毛との相性は抜群だった。

 ちなみに中に詰めているものは羊毛で、お尻の方には重りを入れて安定感を付けている。


 そうして出来上がったのが、頭と体が一体化したおうとつの少ない姿を持つ猫やうさぎやキツネのような生き物だった。

 移動方法はやっぱり飛び跳ねるだけ。だけど短い二本足によって跳ねているようにも見えてあまり違和感の無い仕上がりになっている。


 これだけだと気品が足りないから胸元にレースのリボンでも付けておきましょう。


『けっこうかわいく出来ましたねー! 子供向けに出てきそう!』

「……子供はあまり来ないらしいのだけどね」

『ありゃま。だったら大人向けに変えちゃいます? セクシーにぷりっぷりな感じで!』

「却下」


 方向性はこのままでいくことにし、あとは翼を付与した鳥型のものも作製した。くちばしは突かれても痛くないようクッション製で。

 これで空からの宣伝も出来るようになる。


 色も様々なものを用意してみた。猫なら黒の体に金の目を合わせたり、柄が入った肉食獣の毛皮を使ったり。

 鳥は亡霊の話を元にメジロ、シマエナガなどの名を持つ異世界の鳥をイメージしたものも作った。

 私はそれらを見たことが無いから色合いが合っているかわからないのだけど。亡霊が喜んだからよしとしましょう。




「凶器になるものを一切付与しなかったおかげで、どんなに攻撃されても平気ね」

『でもやっぱりみんな狂暴なんですね……』


 クッション生物達は命を吹き込まれてから休むことなく私に体当たりをし続けていて、それを見下ろす亡霊はげんなりと顔を歪めていた。

 痛くはないのだけど、可愛らしい生き物達が執拗に攻撃してくるというのは結構精神的にくるもので、それは見ているだけの亡霊にとってもそうだったらしい。


「なんでいつもこうなるのかしら」

『そりゃまあ、動物は人間の本性を見抜くって言いますからねえ』

「私どれだけ酷いのよ!? 学園から借りている魔法生物達は私に攻撃なんてしてこないわよ!」

『その子達はもともと飼いならされているからじゃないですか? ジュノさんが作った子達は生まれたてだから無垢なんですよきっと』

「そんな気がしてくるからやめて」


 試しに一匹を捕まえて抱きしめてあやしてみたけれど、ものすごい勢いで嫌がられてしまった。

 私がこの生き物達と心を通わせるにはかなりの時間がかかりそう……。


『もういっそユアナちゃんに預けちゃいます?』

「嫌よ! 今回こそは私の力でどうにかしてみせるわ!」

『やっぱりユアナちゃんに頼るのいやなんですねえ……』




 それから私は魔法生物の調教法を勉強をしながら日夜クッション生物達と格闘し続け、時にはほつれた箇所を治したり無理矢理一緒に寝たり自作のおもちゃで遊んであげたりすることで少しずつ友好を深めていった。

 その間にも料理の開発は続けていて、ユアナやハーヴィー先生にも何度か試食をさせて感想を貰っている。


「面白いことしてるとは思うんだけど……もっと遠目からでも目を引くようなのが欲しいかな」


 先生からはそのように言われてしまい、少々行きづまっていた。


「たしかにジュノさんの料理って細かいのが多くってそこが素敵なんだけど、パッと見じゃそのすごさがわかんないかもしれないね」

「細かいのは縮小化の呪いを活かすためだからね……」

『逆の呪いって今んとこ無いですもんねえ。あったとしても大味になってまずそう』


 ユアナと亡霊と話しても良いアイデアは思い浮かばないでいる。


 クオレスからも何度か料理は食べて貰っているけど、彼からの感想は聞いていない。

 いつも残さず食べてくれるけど、やっぱりそういう言葉を口にするのは苦手みたい。

 クオレスからは食べてもらえるだけで嬉しいからそれでいいのだけどね。




 私は新たな料理の手掛かりになるものを探すべく、飲食店が建ち並ぶ街へ出かけた。

 今回は衛兵の護衛は無しで、亡霊と二人だけで来ている。

 この辺りは貴族や富裕層の平民が行き交う上流階級向けの商業区で、学園の学生もよく利用しているらしい。

 だから知っている顔を見かける可能性も無いわけではなくて――。


『ああっ! レイファード様! ジュノさん、あそこにレイファード様がいますよレイファード様!』

「……誰だったかしら」

『ひ、ひどい! 忘れちゃったんですか!? あたしの最推し様ですよ! ほら、クオレスと試験で戦っていたじゃないですか!』

「ああ……クオレスに負けた派手目な蔓草ね」

『ジュノさんの認識ひどすぎません!?』


 興奮する亡霊が指し示す先にはたしかに見覚えのある男が、どこかのご令嬢をエスコートしながら歩いていた。

 ちなみに今私は扇で口元を隠しながら小声で亡霊に受け答えをしている。人目がつく場所だからね。


『ってなんですかあのモブ!! まさか彼女じゃないですよね!? いやいやそんなことないでしょレイファード様にはユアナちゃんしかいないんだから! でもこの時期でまだレイファード様がモブ女とデートしているだなんて、まさかユアナちゃん……レイファード様のこと全く攻略してない……!?』


 またよくわからないことを言ってる……。


『ああっ! 二人がどっかいっちゃいますよ! ジュノさん追いかけましょう!』

「ええ……。放っておきましょうよ」

『いやですよお気になるじゃないですかあ! 最推しなのにレイファード様見かけること自体滅多に無いですしい! 次いつ会えるかわからないじゃないですかお願いしますよジュノさんん!!』

「……もうっ」


 全然乗り気でない私は渋々と尾行することとなった。


 想い人に会えないことほど寂しいことは無いものね。

 ……想い人、よね?

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