46話.看板娘
「あっ、ジュノさんごめんね。邪魔したら悪いなって思って待ってたんだけど……結局邪魔になっちゃったかな?」
「……もしかして私を待っていたの?」
「うん。ハーヴィー先生からジュノさんのお話聞いて……学園祭で料理出すんだよね? 力になりたいなって思って、お話しにきたんだ」
『おおお! 主人公と悪役令嬢の協力イベント再びですか!?』
なんだ、見ていたのは私の方か。
私の機嫌が悪くなったことに気づいたのか申し訳なさそうに説明してくるユアナを見て、少しだけ肩の力が抜けた。
別の歴史のことがあるせいか、ついクオレスの方を見ていたとばかり思ってしまったわ。
「言っておくけどユアナさんが作った料理なんて置かないわよ」
「そんなこと言わないよ! ほら、前にジュノさんがわたしにお友達を作ってくれたことがあったよね? 今はみんなスチューリアちゃんのところでお手伝いしているんだけど、みんなを学園祭に連れてきてジュノさんのお手伝いをしてもらったらいい宣伝になるんじゃないかなって思って」
友達ってビースト・カースをかけて作った鋭い歯の生えた鞄や蛇の尾が出てくるインク瓶達のこと?
全然見かけなくなったから処分したのかと思っていたけど、スチューリアのところにいたのね。
『あー、たしかにアレもジュノさんの作品ではありますよね!』
「あんな不気味なの連れてきたら逆効果になりそうだけど」
「えーっ、かわいいよお! 街でも働き者のいい子って評判になってるんだよ!」
「平民の感性ってよくわからないわね……。それよりは普通に人手の方が欲しいわ」
「あっ、それならわたしがお手伝いするよ! お料理は出来ないけど、お店のお手伝いならやったことあるから!」
「ユアナさんが……?」
『ジュノさんとユアナちゃんでダブル看板娘ってことですか!? いいじゃないですかそれ!』
学園外でも噂の的になっている聖女属性のユアナが模擬店の前で堂々と手伝いをしていれば、それは相当な宣伝となるでしょう。
それどころか聖女が勧めるものということで呪いへの忌避感も軽減されて、料理に手を伸ばしやすくなるんじゃ……?
そうなるとこちらにとってはこの上無く利が大きい話ではある。けど……。
「そんなの悪いわ。ユアナさんだって自分の出し物があるでしょう」
私の感情面としてはこの女に協力を願うというのは、どうしても気が引ける。
『全然気にしなくていいですよ。ゲームでも一年のユアナちゃんは攻略対象の誰かと学園祭見て回るだけだったんで』
「今年は見て回るだけにしようと思ってたから、出し物の予定は元々無いよ。だから大丈夫!」
「……私なんかに協力したって、あなたにはなんの利も無いでしょう」
「そんなことないよ。ジュノさんと一緒にいられるだけで楽しいもん。それに恩返しだよ! ジュノさんはわたしのこと助けてくれたから、今度はわたしの番!」
「スチューリア様の件はあなたの為にやったわけじゃないって言ったでしょ。それに、あなたになら私より一緒にいて楽しい人なんていくらでもいるでしょうに……。同情でもしているの?」
『んもー! なんでジュノさんすぐ感じ悪くなっちゃうんですか!』
私がかたくなに素気無い態度を取っていると、流石に気分を悪くしたのかユアナは俯いてしまった。
そしてすぐ顔を上げたかと思うと私に強い眼差しを向けて、
「ジュノさんのわからず屋! ジュノさんは可愛くてキラキラしてて品があって優しくていろんなこと出来て皆の……わたしの憧れの女の子なんだよ!?」
罵倒したかと思いきや唐突に褒めだした。
「えっ、ちょっ……な、なんなのいきなり」
「だって! ジュノさん自分がとってもすてきな女の子だって全然わかってないんだもん!」
遠巻きから賞賛を浴びたり陰口を叩かれることには慣れていても、真正面から大声で褒められるなんて経験は流石に無くて困惑してしまう。
「何言ってるのよ……憧れの的になっているのはあなたの方でしょう」
「わたしは珍しい魔法が使えるだけだよ! まだ貴族の人達の作法だってうまく出来てないし! ジュノさんのほうがもっともっとすごいもん!」
視線を感じた私はふと周囲を見渡してみると、まだ残っている学生達がこちらの様子を伺っていることに気づいてしまった。
やだ、変に注目浴びちゃっているじゃない!
「ジュノさんがわかってくれるまでジュノさんのいいところ言い続けるから! ジュノさんはね、ツンとしているときも可愛いし、婚約者さんと一緒にいる時も恋してるーって感じですっごく可愛いんだよ!」
「わかった! もうわかったからそれ以上言わないで!!」
『ユアナちゃんがジュノさんを攻略しにかかってる……』
「わかってくれたの? それならお手伝い行ってもいいよねっ? わたし本当にジュノさんと一緒にお店屋さんやってみたいんだっ!」
「もう……手伝いにでもなんにでも来てくれていいわよ……」
『ジュノさん照れてるーかわいいー』
ニタニタ笑う亡霊がいつにも増して鬱陶しい。
衆人の前ということもあってこれ以上突っぱねることもできなくなった私は根負けする形でユアナの協力を受け入れることとなった。
「それじゃあわたし頑張るねっ! 注文聞いたり、お料理渡してお金受け取ったり!」
「本物の店じゃあるまいし、金銭なんて受け取らないわよ」
『えっ! ここの学園祭の出店ってお店じゃなかったんですか!?』
「ええっ!? 売り上げがないってこと!? 材料費とかいっぱいかかるのに!?」
「それくらい学園が負担するわよ……学園祭は元々国中の貴族という貴族が出資しているのだから学生が更に金を巻き上げるなんてことしないわ。ああ、でもその代わりに星を受け取るみたいだけど」
「星って?」
「学園が来園者に配布する記章よ。来園者が出し物に満足したらそこの学生に星を渡すらしいの」
『それ、ふぁぼじゃん。いいねじゃん』
「なるほどお。それじゃあ、たくさんの星を貰えるように一緒に頑張ろうねっジュノさん!」
元気に張り切るユアナを見ながら私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
当日は呼び込みや接客等、表に出る仕事をやってもらうことにして、準備期間中は試作した料理の味見を主にしてもらうことにした。
「大量に味見させて男から見向きもされない体型にしてやろうかしら」
『ちょ!! 手伝ってくれるユアナちゃんになんてよからぬこと企んでんですか!』
「冗談よ。そんな体型になったら宣伝効果が落ちてしまうじゃない」
『ええ……。実行しない理由そんなんかい……』
ユアナと別れて自分の教室に戻って来た私はソファに座り込みながら学園祭のことを思案する。
「そういえば……あまり参考にはならないと思うけど、他の歴史の私ってどんな出し物をしていたの?」
『ゲームのジュノですか? そういえば一年の学園祭イベントでは一切登場しませんでしたねー。で、二年になる頃にはとっくに退場しちゃってるんで学園祭以前の問題ですね』
「えっ……退場って」
『退学処分になって平民落ちして死んだか行方不明かですよ。ほら、あたし最初の頃にこのままだと破滅するって言ったじゃないですか』
その状態を退場って表現するのはどうなのよ。舞台の役者じゃあるまいし。
それに、破滅するという話は聞いていたけどその時がいつなのかまではよく知らなかった。想定していたよりも早い時期に少しだけ心臓が跳ねる。
「私、二年に進級出来なかったの?」
『そうですよ。ゲームのジュノは一年の時の終業パーティーでユアナちゃんを陥れようとして盛大にやらかして、その場で今までの悪行も含めて断罪されちゃうんですよ』
「とんでもないパーティーね……」
『ちなみにゲーム期間は二年間なんで、その丁度中間で倒されるジュノはまさに中ボスって感じでしたね!』
相変わらずよくわからない表現だけど、馬鹿にされているような気がする……。
……私は進級出来るわよね?
何もしでかさなければ大丈夫だと自分に言い聞かせるも、別の歴史の自分の死期が近いと思うとやはり不安にもなってしまう。
そんな気持ちを胸の奥へ押しやっている内に、亡霊の話は学園祭のものへと戻っていた。
『プレイヤー目線だと学園祭デートにお邪魔キャラが出てこなくて良かったーって感じでしたけど……どのキャラのルートでも見かけなかったってことは、ジュノは出し物やっていなかったのかもしれませんね』
他の歴史の話とはいえお邪魔扱いされてしまったのが癇に障るけど、ここは聞き流しておきましょう。
「出し物は任意参加だからね……。やっぱり他の歴史の私は属性を隠していたのかしら」
『でも今頃になってゲームのジュノの出し物が気になるなんてどうしたんです? やることはもう決めたじゃないですか』
「料理以外にも目を引くものが欲しいと思ってね。……やっぱり私の魔法の宣伝をあの女一人に任せるなんて癪じゃない」
『だったらやっぱりユアナちゃんのカバン達の出番じゃないですか?』
「だからあんな見た目じゃ逆効果でしょ……大体、私が呪ったものとはいえ結局あの女の私物だし。あれを使うくらいなら新しく作ってみたほう、が……」
そこまで言いかけたところでこれこそ妙案ではないかと私は気づく。
「そうよ。最初から宣伝用に美しい見た目のものを作ろうと思えばあんな気味の悪いものにはならないはずよ! 魔力が上がって出来ることも増えたし……今ならきっといいものが出来るわ!」
『……もう噛まれまくったりしないでくださいよ?』
「そこは……運しだいね」
魔力が上がったことで前よりも狙った部位が出てくるようになっていれば良いのだけど。




