表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/75

3話.作戦会議

 後日、まとまった時間が出来たので私達二人は最悪な未来を回避する為の作戦会議を始めることにした。

 その場所は勿論私の部屋で行われる。他の誰かに聞かれたら私が独り言の多い変人扱いされてしまうでしょうからね。今のところ人がいる場所での亡霊の発言に返事をするような失態は一度もないけれど、視線で追わないように気を張るのは疲れるわ……。


「ではまずクオレスを誑かすその女の息の根を止める方法から考えましょうか」

『いやいやいやいや、まずはその悪役ムーブをやめましょうよ! ジュノさんはそういう事ばっかり考えるから破滅しちゃうんですよ』

「観測された歴史の私が破滅したのはきっと攻めの手がぬるかったのよ。あんな女一人を野放しにしたことでそんな酷い事態になるなんて想定していなかったでしょうからね。最初から全力で仕留めにいきましょう」

『……あたしなんでこんなのに協力する事になっちゃったんだ』


 あからさまに脱力して壁にもたれかかる亡霊。会議は始まったばかりだっていうのに真剣味が足りないわ。それにしても、透け透けの体の癖になんで物質に寄りかかることが出来るのかしら。


「仕留めるには武器となる魔法が必要よね。ねえ、私が何の属性に目覚めるのか知ってる?」

『ん? ジュノさん、その辺のシーンは見てなかったんですか』

「私が魔法を使おうとしている様子はあったけど、何の魔法かまではよくわからなかったのよね」


 やっぱり亡霊の方が未来を詳しく知っているのね。


 魔力というものはこの国の王族、貴族の血筋であれば皆生まれ落ちた時点で持っている。だけど、その魔力を実際に扱えるようになる覚醒期は十七歳になってからとなる。これはこの国を建国した王が大精霊様から魔力を賜った時の年齢が十七だったことに起因しているのだとか。

 だからこの国では十七歳を迎えることはとても大事な意味を持っている。誕生日には盛大にお祝いをする家が殆どと聞くわ。私の場合、その十七歳の誕生日があんな事になってしまったけどね……。


 そして覚醒をしないと、自分が持つ属性が何なのかを知ることは出来ない。

 属性というものは一人一つしか持てないものだから、それが何かというのはとても重要な情報だった。


『ジュノさんの属性は【呪い】ですよ』

「呪いって……」


 さらりと言われた属性名に言葉が詰まる。

 もしも私が目覚めるのがあの属性だったら、この属性だったら、という想像をして夢を膨らませたことなら幼少の頃から数えきれない程あった。

 だけど現時点で九十九もあるとされている属性の中から、よりにもよって呪いだなんて。


「なんなのよそれ。まるで悪役じゃない!」

『まるでじゃなくて、悪役令嬢なんですよジュノさんは……』

「なにが悪役令嬢よ。婚約者を奪われるなんてむしろ悲劇の令嬢でしょう!」

『いやあ、悲劇のヒロインがジュノさんだったら誰も同情してくれないと思いますよ』


 さらっと酷いこと言うわねこの亡霊……。

 本当に誰も同情してくれないというのならそんな薄情な世界こそ滅びるべきじゃないかしら。


『呪い殺そうなんて考えない方がいいですよ。ジュノさんはそういう行動がバレたせいで婚約解消させられちゃうんですから、呪いの悪用自体を避けるようにしないと』

「そんなこと言われたって、呪いなんて悪用する以外の使い道無いんじゃないの?」

『ジュノさんが探さなかっただけでいい感じの呪いの使い道もありますよ! きっと』

「そこは断言しないのね……」

『だってジュノさん、悪用しかしていませんでしたもん』


 考えてみれば、亡霊が言うことも一理はあるのよね。いくら邪魔者が現れたところで私が問題を起こさなければ、私抜きでの両家合意の婚約解消なんて事態にはまずならないでしょうから。ディアモロ家勘当も、学園退学と魔力封印もされなくなるでしょうし、破滅を避けようとすれば誰も呪わないのが正解なのでしょう。

 ……でも、それでは一番の問題が解決出来ない。


「善良な呪いがあったところで、それで恋敵を排除出来るわけじゃないでしょう。消滅したくないあなたは保身に走ればいいだけでしょうけど、私はそういうわけにはいかないの。彼と結婚出来ても、その心が他の者のところにあっては意味が無いのよ……」



――君は無茶ばかりするな。君が努力家なことは知っているが、もう少し自分の身を大事にしてくれ。


――君を見ていると、胸の奥がどうしようもなくかき乱される。それなのに同時に安らぎも得られるんだ。不思議なものだな。


――君を、愛してしまった。君の傍にいたいと願ってしまった。こんな感情が私にもあっただなんて、知らなかった……。


――いや、こういう事は私から言わせてくれ。……これからも、私の傍にいてほしい。共に生きてくれないか。


 私はあんな穏やかな目をするクオレスを知らない。あんなにも自分の胸の内を明かすクオレスなんて知らない。

 こんな形で知りたくなかった。見たくなかった……。


 思い出してしまったせいで思わず出そうになる涙をどうにか堪える。亡霊とはいえ、人前で無様な姿を晒す訳にはいかない。


『……ジュノさんって、本当にクオレスの事が好きなんですね』

「は? 何よ今更」

『あたし、ジュノさんにとってのクオレスってただの執着対象というか……トロフィーみたいなもんだと思ってました』


 本当に何言ってるのこの亡霊。

 私の顔を見て失言と気づいたのか、続けざまに言葉を紡ぎだす。


『だ、だってゲームのジュノさん、言ってたんですよっ? 「もうそんな男いらない。元々大して好きじゃなかったの。ただ、平民のあなたに取られるのが癪だっただけ」って!』

「なによそれ!? 私がそんなこと言うわけ……あ」


――もうそんな玩具いらない。貰い物だったから仕方なく遊んであげていただけよ。そんなものを欲しがるなんてセンスがないわね。


「……昔、似たような台詞を言った事があるわ。とても大切にしていた人形だったのに、妹に取られたのが悔しくて……」

『それってただの負け惜しみじゃないですか……。というかジュノさん、妹いたんですね』

「……まあね」


 この亡霊、私の中にずっといたって主張する割には私の記憶を持っていないのよね。

 妹はお父様と共に本邸で暮らしているから、亡霊が出現してからはまだ一度も会っていない。私としてはこのまま一生会いたくない位だわ。


『ってことはクオレスについても……』

「……自分でこんなこと言うのもなんだけど、ただの強がりとしか考えられないわ」


 決して言いたくない台詞だったに違いない。

 その時の心境を思うと、観測された歴史の私もやはり私なんだと痛感してしまう。


 徐に、固く握りしめていた私の手に亡霊の手が包み込んできた。

 想像通り、その手からは重みも温度も何も感じられない。


『ねえ、ジュノさん。やっぱりいい感じの呪いの使い道、探しましょうよ』

「……だから、そんなの見つけたって何になるっていうのよ」


 再度のつまらない提案に少し苛立つ。けれど亡霊は自分が正しいと言わんばかりに真っ直ぐに私を見つめてきた。


『その呪いで良いこといーっぱいして、クオレスにジュノさんのことを見直してもらうんですよ! 呪いで外敵を排除するんじゃなくて、クオレスを惚れさせた方が手っ取り早いじゃないですか!』


「クオレスが、私を……?」


 何故かしら。ずっと望んで来たことの筈なのに、その理想に現実味を感じられないのは。

 彼が、今更私を好きになってくれるなんてこと……。

 ……そうか。私、ずっと彼に好かれるよう頑張ってきたつもりだったけど、いつの間にか心の何処かで諦めていたのね。


「出来る、かしら……」


 声が震える。魔法が使えるようになれば、今の関係を少しは変えられるのかしら。


『絶対出来ます!』

「どうして今度は断言出来るの? そんな未来なんて観測された中には無かったんでしょう?」

『そんなの関係ありません! どんなに困難だろうと、信じ続ければ道は拓かれるんです……ってなセリフ、一度は言ってみたかったんですよねぇ』

「……それなら最後まで照れずに言いなさいよ」


 照れ隠しでおどける亡霊につられて笑みを零す。


 あまり頼りにはならなそうな協力者だけど、いないよりはマシかもね。

 呪いの使い道、か……。選択肢が多いことに越したことはないし、探してやろうじゃない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ