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16話.犯人探し

 策を練った私は略奪女の元へ赴き協力を申し出るも、当然良い反応はされなかった。


「お前さんみたいな女を信用出来ると思うかい? ユアナは何も話しちゃくれなかったけどね、顔を見りゃわかるんだよ。お前さんからろくなこと言われなかったってね」

「オレも同意見だな。裏があるようにしか思えない」


 部外者のいない放課後の教室の中、友人女と殿下が略奪女を守るように私の前に立ちはだかっている。

 二人も騎士様を侍らせていいご身分だこと。


「私だって変な噂を流されて迷惑しているって言っているじゃない」

「噂じゃなくて真実なんじゃないのかい? どうせ自分の名誉回復の為に取り巻きを尻尾切りでもするつもりなんだろ」


 友人女は私が犯人だと決めてかかってくる。野生の勘とやらも当てにならないようね。


「勘違いしないでくれる? 私は婚約者様以外の人間と必要以上に慣れあう気は無いの。私の魅力に惹かれて言い寄ってくる者は男女問わず存在しても、取り巻きなんてものはいないわ」

『ジュノさん完全に素になってるじゃないですか……』


 もうこいつら相手には取り繕う必要も無さそうだからね。


「ねえ、アニマ君、トワルテちゃん。わたし、ジュノさんのこと信じてみたいなって思うんだけど……」

「何言ってんだいユアナ! こんな女に頼らなくてもアタシ達がなんとかしてやるよ!」


略奪女自身は私の協力を受ける気になったようだけど友人女から止められていた。


「未だに解決出来ていないクセによく言うわね。なんとかする気があるのなら呪いによるものだなんてはた迷惑な噂が出る前に片付けておきなさいよ」

「テメッ、自分でやっておきながら……!」

「よせよトワルテ。その点に関してはアイツの言っていることの方が正しいよ。すぐに気づかなかったオレ達だって悪い」

「違うよ! アニマ君達は悪くないよ。わたしがずっと隠してたからだもん。わたし一人がこのまま耐えていれば大丈夫って思っちゃったから……」


 私に食って掛かろうとした友人女を殿下が抑え、更にそこを略奪女が割って入る。

 見ていてうんざりする光景につい嫌味が出てしまう。


「それで誰にも相談せず、犯人を探そうともしなかった、と。それはそれは立派な自己犠牲精神ですこと。おかげで全く関係の無い私がこうして迷惑しているわけだけど」

「本当にごめんなさい!」

「別にユアナさんから謝られても嬉しくないわ。それよりどうやって犯人を見つけるかよ。噂ではあなたの私物がよく狙われているそうだけど、どんな物か見せてもらえるかしら?」

「うんっ。ちょっと待っててね、今持ってくるから」




 こうして私は刺々しい視線を浴びつつも略奪女の私物を確認した。


 羽根ペンにペン立て、インク瓶、学生証、鞄、手帳、光属性が自分で生み出した光を閉じ込める為に使うランプ、野外実習用の手袋や靴、ダンスや礼儀作法の授業用に購入したという安物のドレス……。


 それらを見て私は絶句する。


「……趣味が悪いわね」

「ユアナの趣味じゃねえよ」

「わかってるわよそのくらい」


 友人女に返事する間も、私の視線は被害に遭った私物の数々に釘付けだった。


 インク瓶の中は謎の赤黒い液体で満たされ、他の私物は全てインク瓶に入れられたものと同じだろう液体で穢されている。更に剣の破片のようなものや針、目玉、獣の爪、黒い羽根が突き刺さり埋め込まれ、不気味で禍々しい物に作り変えられていた。


『なんですかこれ……!? ゲームではここまで酷いことされていませんでしたよ!?』


 だとしたらこれは呪われているように見せかける為の小細工なのかもね。


 ……でもそれにしては中途半端というか、粗末なのよね。

 いっそ生き物の死骸でも入れておけばいいのに。

 目玉はどう見ても小さな水晶玉で作った偽物だし、爪や羽根は装身具か何かから調達したような質のいい品物、赤黒い液体だってどうせ本物の血液ではないでしょう。

 犯人は潔癖で小心者の令嬢かしら。


「こんな悪戯のせいで犯人扱いされたんじゃたまったものではないわね」

「いいや、これだけじゃないぜ。呪いによるものだと囁かれるもう一つの要因は、誰の手にも触れられることなく物がひとりでに消えてしまう……そうとしか言いようがない状況にもあるんだ。そうだよなユアナ?」

「う、うん。鍵がかかった更衣室の中でも無くなっちゃうし、肌身離さず持ち歩くようにしていてもいつの間にか消えちゃうんだよね……。監視水晶にも映ってなかったみたいだし。そしたらいろんな人達がきっと呪われているんだって言い出しちゃって」

「誰にも見られることなく犯行を行う方法なんていくらでもあるでしょう。ここの学生をなんだと思っているのよ」

『魔法の世界ですもんねえ』


 私は殿下と略奪女の話を一蹴する。強く頷く亡霊とは違い、殿下は納得のいかない顔をしていた。


「いや、いくらでもあったら困るんだけど……。完全犯罪が簡単に出来るような魔法がいくつもあって社会がそれらに対応出来ていないとなったら、この国の治安が最悪なことになるだろ」


 ああ、なるほど。


「つまり自分達の属性が社会を脅かす脅威だと思われたくないから、元々イメージが悪い呪いの属性に押し付けてしまおうとしている訳ね」


 呪いのせいということにしてしまった方が、私以外の全ての者にとって都合がいい。

 だからこんな信憑性の無い噂が学園内で広まっているのね。


「……そういう側面もあるかもしれないな」

「何納得してんだい。濡れ衣を着せられた被害者面なんて、真犯人にだって出来ることだよ」

『トワルテは頑固ですねえ……。まあ、トワルテはユアナちゃんへの過保護故に「アンタみたいな男にゃユアナは渡せないよ!」とか言って一部の攻略対象とのイベントを邪魔しちゃうこともあるようなモンペキャラだったから、しょうがないかなあ』


 ええ、なにそれ。そんな女、略奪女にとっても邪魔なんじゃないの……?

 私には関係の無いことだからいいけど。



 そんなことより犯人捜しよ。

 気を取り直した私は再び略奪女の私物に目を通す。

 ……うん。大きさ的にはどれも問題無いわね。


「ところでユアナさん。あなた、動物の扱いは得意?」

「えっ? う、うーん。得意、なのかな……? よく懐かれたり、仲良くなったりはするけど」


 亡霊曰く、略奪女は動物から異常な程愛される体質らしい。

 もっとも、本人はその自覚があまり無いそうだけど。


「それならこの獣も手懐けてみなさい! 狂暴な狼となれ! ビースト・カース!」


 私は近くにあった椅子に呪いをかけ、丁度座る面から狼の鼻口部を生やす。

 今一番生やしたかった部位が偶然出てきてくれたことに少し安堵した。


 まあ、周囲の反応は安堵からは程遠いものだったけど。


「ちょっと、なんのつもりだい!」

「ユアナ、下がってろ!」

『ジュノさんいきなりすぎますよ!』

「略奪女以外は手を出さないで!」


 臨戦態勢を取る二人に対して私は制止の声を掛ける。

 狼の鼻口部が生えた椅子はうなり声を上げながら木の脚で飛び掛かり、一番近くにいた私の腕に噛み付いた。


「……ッ!!」


 こんな連中の前で情けない悲鳴など出すものか。


「ジュノさん……!? い、今助けるから!」

「違うッ!! 私に構わないで、この椅子を懐かせることだけ考えなさいッ!」


 激痛に堪えながら声を振り絞って出す。

 すると略奪女はやっとこちらの意を汲んでくれたのか、真剣な眼差しで近寄って来た。


「イスさん、おいで。わたしと遊ぼう?」


 慈愛に満ちた声、とでも言うのかしら。

 略奪女が声を掛けただけで私の腕に噛み付く力は弱まっていった。


「そんなに怯えなくていいんだよ。大丈夫、大丈夫だから、ね」


 声に導かれるように椅子は私から離れ、略奪女に顔を向けていく。


「うんうん、いい子。いい子だね」


 あっという間に椅子が甘い鳴き声を出して略奪女に懐いてしまった。

 ……いやいや、体質なんてものじゃないでしょうこれは。聖女属性とやらの魔法なんじゃないの?


「すげーなユアナは」

「さっすがアタシの見込んだ女!」

『この懐かれっぷり! やっぱり本物のユアナちゃんだ!』


 内心困惑する私とは違って他の連中は素直に感心していた。


「……まあ、これなら問題無いわね。【牙持たぬ椅子に戻れ】!」


 私は解呪条件として決めていた言葉を唱えて椅子を元に戻す。


「ではユアナさん、そろそろ私が考えた作戦を説明させてもらうわね。まずあなたの私物全てに今の呪いと同じ魔法をかける。今見てもらった通りの狂暴な獣と化すけど、あなたが手懐ければあなたに対しては無害化するでしょう。それを利用して――」

「そんなことよりジュノさん、ひどい怪我してるよ! 早く見せて!」


 説明の途中だったというのに略奪女から腕を掴まれてしまった。

 血で汚れるのも構わず傷口に手を当てたかと思えば、詠唱一つ無いままに略奪女の手と私の腕が温かな光に包まれた。

 あっという間に傷口は塞がり、痛みも引いていく。


 ……その魔法の温もりに心地よさを感じてしまうことに腹が立つ。


「医務室で治療してもらうからわざわざこんなことしなくても良かったのに」

「回復してもらっておいてなんだいその態度は!」

『そうですよジュノさん! こういう時はお礼を言うもんですよ!』


 ああうるさい。悪態でもつかないとやってられないのよこっちは。




 その後私は作戦内容を最後まで伝え、了承まで漕ぎ付けることが出来た。

 殿下と友人女は案の定「流石に危険だ」と反対してきたし、略奪女にいたっては「痛いことするのは良くないよ」なんてほざいてきたけど。


「これはあなただけの問題じゃないの」


 そう言ってやると略奪女はハッと息を呑んで、真剣な顔をして悩んだ後に結論を出した。


「わかった。ジュノさんの言った通りにするよ。誰かが傷つくのはいやだけど……ジュノさんが困ったままなのもいやだもん。一緒に解決しようね、ジュノさん」


 そんな返事と共に、略奪女はあらゆる私物を私に貸し出した。


 そして今、私はそれらを寮の自室に持ち帰ってきている。


『とりあえずここまでは順調ですね。でもジュノさん、大丈夫ですか? まだ好きなパーツを自由に出せるようになった訳じゃないですよね』

「関係無いわ。望みのものが出るまで繰り返し呪うだけよ」

『うわあ……ガチャ廃人みたいだあ……』


 これらの私物は明日の朝には略奪女に返す必要がある。

 つまりこの一晩で全ての私物に望みの部位を付与しなければならないということ。

 ……マナ切れは確実に起こすでしょうね。


 上等だわ。少々の無茶は覚悟の上よ。

 私は一日分の用量を遥かに超えた本数の回復薬を並べ、呪いの詠唱を開始した。

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