なんか懐かしいですねこの感じ
「これはまた、随分と立派な馬車だね」
ガラガラとグリーシャさんの手によって私達の目の前にやってきた馬車は犬堂さんの言う通り、確かにとても大きくて立派だった。
これなら荷物も沢山積めるし、寝泊まりだって出来ちゃいそう。
だけど、馬車の天井部分を覆う天幕は所々破れて、車輪も軋むような音を出している。
骨組みはしっかりしているんだろうけど、嵐に遭った後のようなぼろぼろ具合だ。
「くま自慢の幌馬車です!まぁ、盗賊の襲撃で、ちょっと壊れちゃってますけど……」
もしも今グリーシャさんが熊の姿をしていれば、そのふわふわもこもこの耳がしゅんと力なく垂れていたに違いない。
うわ~~ん、可愛い!想像しただけで絶対可愛い。
……ごほん。
それにしても、馬車がこんなにボロボロになるぐらいなんだから、盗賊の襲撃もきっと激しいものだったんだろう。
グリーシャさんに怪我がなくて、本当に良かったよ。
「徒歩でウォールに行こうとすると一週間ちょっと掛かる所を馬車なら3日で到着しますし、くまの鼻が確かなら数日後に激しい雨が降る予感がするので、雨除けにもなります!だからくまを!どうかくまを!助けて!ヘルプミーーーー!」
「だぁああ!うるさい!耳元で叫ぶな!」
お願い!と両手をあげて何度も頭を下げるグリーシャさんは、何故かウィルを落としに掛かろうとしているようで、必要以上にウィルに絡んでいる。
ウィルがグリーシャさんから離れようとしても、グリーシャさんも素早くついていく。
「お前俺に絡んでくるなよ!」
「お願いしますぅ~~」
本人は凄く迷惑そうではあるんだけど、なんだか子供っぽいウィルが見れて私はちょっと嬉しかったりする。
グリーシャさんって見た目通りのおっとり感が場を和ませてくれるんだよね。
「ウィル。馬車に乗せていってくれるって言ってるんだし、盗賊討伐を受けてもいいんじゃないか?」
2人(1人と1匹……?)のやりとりを何処か微笑ましく見ていたリークさんが助け船を出すと、ウィルが眉間にしわを寄せながらこっちを向いた。
め、目が据わっておられる……。
「正気か……?」
「まぁ依頼金は出すって言ってるし、盗賊討伐は冒険者連盟から報償金も出るからな。何より、ウォールまでの足が出来るのがいい。修理は必要だろうが、旅は移動が一番重要だ。そうだろ」
「……」
ウィルが考えるように押し黙った。
今だ!今なら、ウィルを押せる気がする……!
「はいはい!私、グリーシャさんが困ってるなら助けてあげたいです!」
ピンッと真っ直ぐ手を伸ばして挙手をする私の姿を見て、グリーシャさんが感動で身体を震わせている。
こんな状況のグリーシャさんを放っておけないいし、何より……。
「それに盗賊を倒したら、私のレベルも上がりそうですし!」
旅の最重要目的はエオンに向かうことだけれど、それと同じぐらい重要な私のレベル上げ。モンスターとの対決で順調にレベルが上がっているんだから、早くウィルの割引を外せるようになりたい。
「あのな……盗賊だぞ?お前人質に取られるだろ」
「取られません!」
「じゃあオレはシーナを守るのを優先するから、ウィル、お前盗賊な」
「黙れリーク。なんで俺が」
「じゃあくまがお姉さんを守ります!くまは緑の髪のお兄さんに一緒に守ってもらうので!」
「お前も黙ってろ。何を言われようが俺にはメリットがない」
ウィルは拗ねたように言い放ち、そっぽを向いてしまった。
うう、せっかくいい方向に進んでいたと思ったのに!
「まぁ、相手が盗賊なら、ウィルが椎名君を心配するのもわかるよ」
「心配ですか?」
犬堂さんがウィルを見ながら優しく微笑む。
ウィルが私を心配している……?
困惑していると、リークさんが諭すように口を開いた。
「シーナ、相手は盗賊だ。人を傷つける人間だ。そういったやつらが牙を向けた時、どんな卑怯な手も使うだろう。必ず無事であるとは限らない事はモンスターと一緒だが、人間相手は勝手がちがう」
私の脳裏にトータの街で起こった事が蘇る。
キャロラインさんに騙されて、追い詰められて、とても怖い思いをした。
「ウィルは多分そういった事を心配してるんだぜ」
「ウィル……」
確かにあの時、怖くて怖くて泣いてしまった。
異世界に一人放り出されて、誰もいなくて、どうしようもなくて。
でも。
「ウィル!!!」
私は思わずウィルの傍まで行きその手を、ぎゅっと両手で掴んだ。
「大丈夫、私、トータの事覚えてるよ。キャロラインさんに騙されたり、怖い人に襲われた事だってちゃんと反省してる。だからちゃんと危なくなったら、バックヤードに入るし、指示にも従う。あのっ、心配してくれてありがとう」
ウィルにもう言いたいことは我慢しないようにしたから。
ちゃんと、ありがとうは伝えなきゃ。
「それにあの時、守るって決めてるってウィルが言ってくれた事、今でも信じてるし!」
「なっ……!」
ウィルが固まる。
あれ、私なんかおかしい事言った?
「ふぅん、トータの街でそんな事があったんだ。僕と会う前の事?」
「シーナ、ウィルが居たのに怖い事があったのか?」
「はい、色々騙されちゃって、その時もが!ももががが!!」
ウィルが咄嗟に掴んだ手を振りほどき、そのまま私の口を塞ぐ。
そして伝わってくるブルブルと震えたウィルの威圧。
あっ、なんか懐かしいですねこの感じ。
「……その話は今はやめろ」
「はひ」
こくこくと頷くと、ウィルは手を放して少し離れてしまった。
また黙り込んでしまったけど、さっきより機嫌は悪くないような……?
そわそわしながら遠巻きに見ていると、リークさんがずんずんと近付いて行き、ポン、とウィルの肩に手を置く。
「諦めろ、ウィル。お前の負けだ。それに……」
リークさんが一瞬こっちを向いて、人差し指を唇に当てるポーズをする。
何々??内緒話?秘密って事かな?
「オレが奪っちまうぜ?」
「……!」
頑張って耳を澄ましていたけど全然聞こえなかった。
思わずリークさんの方を見るとニッと笑ってくれたから、悪い事ではないと思うんだけど……。
ウィルはしばらく黙っていたが、ため息を吐くと、胸の前で腕を組んだ。
「おい熊。盗賊に奪われた金が返ってくれば、諸々の支払いが出来るんだろうな」
「勿論!獣族の誇りにかけて!」
グリーシャさんが必死に頷いて、ウィルへ誠意を見せようとする。
目隠しであのつぶらな瞳は隠れてしまっているけれど、きっと真っ直ぐウィルを見つめているんだろう。
そこまでくると、ウィルも観念したのか、ようやく彼は浅く頷いた。
「……仕方ないな」
「「やったーー!!」」
私とグリーシャさんの声が綺麗に重なって、思わず笑っちゃった。




