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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第四章 街道のくまさんと触れる想い
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森のくまさん



「あれ?作り置きをしたおにぎりがない……?」


私がテーブルを見ると、沢山作って置いておいたはずのおにぎりが無くなっていた。

それも、ひとつやふたつじゃなくて、お皿丸ごと。


「リークさん、置いてあったおにぎり、どこかへ移動しました?」


「いや、触ってないぞ」


「あれ、おかしいなぁ。どこ行ったんだろう」


流石のウィルでもあの量をひとりで食べきるのは無理だと思うし、犬堂さんはノアさんから受け取った荷物の中身をチェックしている。


「むむ?」


ガサッと草を踏むような音がしたのは、私が名探偵よろしく周囲を観察していた時だ。

何かが木の影で動いている。もぞもぞと、それも特別大きい何かが……まさか、おにぎり泥棒!?


どこの誰だー!私のおにぎりを勝手に盗んでいく奴は!

木の影に隠れる何者かは、相変わらずガサガサと動いている。

きっと、おにぎりを夢中で食べているに違いない。

えーい!ご用だご用だ!!


「この、おにぎり泥棒ー!!大人しくしなさい!」


ずんずんと大股で草むらをかき分け、私は姑息にも木の影に隠れる泥棒をのぞき込んだ。


「ぐもっ」


おにぎりを口一杯に頬張った毛むくじゃらの顔がこっちを向く。

そう、毛むくじゃら。


具体的には顔だけじゃなくて、全身も黒い毛に覆われているんだけど、胸もとだけ白くて……サイズは、そう、軽自動車ぐらいの……。


「く、くまーーーーーーーー!!!!!」


野生の熊が地面にお尻を付けて、おにぎりを食べていた。

そして、私の叫び声に反応して、熊の手からおにぎりが転がり落ちていく。

毛むくじゃらの顔に埋もれたまん丸の目が私を捉えた瞬間、ズザザッとその大きな巨体が起きあがった。


ずもーーーーん。


当然なんだけど、熊って二足歩行出来るんだね。

二本の脚で立ち上がった熊はまるで大きな壁のように窮屈な圧迫感があった。

パンチなんてされようなら、顔がそのままふっとびそうなぐらい大きな手に付いた爪がギラリと光る。


『恐怖!身の毛もよだつ獣害事件!』

そんなタイトルのドキュメンタリー番組が、私の脳裏に蘇った。

ひええ!熊に会った時は目線をそらさずに背中を向けず、後ずさりを……。


「ぐも……」


混乱している私の目の前で、熊の手が持ち上がる。


あっ、私死んだ。

しかも、よりにもよって私の握ったおにぎりの米を沢山付けて斬り殺されちゃうなんて、どんな死因だ!

神様の馬鹿~~~~!!こんな所で熊に食べられたくない~~!!

肝心な時にいつも助けてくれない神様のことを恨みながら、私は反射的に目を閉じる。

だけど、いつまでたっても痛みは襲ってこない。


「……ゆ、許して!ごめんなさい!」


「ん??」


何処からともなく男性の声がする。

そぉっと目を開いてみても、そこに人の姿はなかった。

あるのは、両手を万歳みたいに上げた熊だけだ。


「3日も食べてなかったんです。あまりにも美味しそうな匂いがするから我慢できなくて、ごめんなさい!お金は必ず払いますから!」


「んんん????」


熊が手を上げた状態で必死に頭を下げている。

それだけじゃない、何だか熊の口から言葉が発せられているような……。


「野生の熊か!シーナは離れてろ!」


思考が追いつかなくて呆気に取られていた私の横を、ウィルが駆け抜けていく。

その手には逆手に持たれたナイフが光っていて、挑発的な顔が獲物を捉えていた。


「ぐもーーーーー!!!」


「逃げるな!今晩のメシにしてやる!」


黒い毛を逆立ててウィルに追いかけ回される姿は、テレビのニュースで見るような凶悪な姿をしていない。

これはなんていうか……遊園地で子供達に追われる着ぐるみ的な哀愁が漂うというか……なんだろう、この野生じゃないコミカル感。


「シーナ、大丈夫か!街道に熊なんて珍しい……災難だったな。まぁちょっと待っててくれ。熊の肉ってちょっと癖があるが、美味しいんだぜ」


リークさんが自分の剣を鞘から引き抜きつつ、そんなことを言う。

ウィルに加勢しようとしているんだろうけど、その言葉にいち早く反応したのは私でもウィルでもなくて、


「やめて~~~!!!!くまは美味しくないです!くまは野生じゃないです~~~~!!!」


ウィルから逃げまどう熊だった。


今度こそ、聞き間違いじゃない。

確かにあの熊が人間の言葉を喋った!動物が喋ってるよ!!


「やっぱりあの熊、人の言葉を喋ってますよ!?モンスターですか!」


「おいおい、まじかよ……ウィル!そいつ、獣族だ!」


ずざざっと砂を削る音を立てて、私の目の前に熊は滑り込んできた。

ぜぇぜぇと鋭利な歯が生えた口で必死に呼吸を繰り返し、うるうると涙に濡れた目で私を見上げてくる。


気付けば、ウィルもすぐ傍に立っていた。

けれど、その顔はちょっと残念そうで、戦意は無くなってるっぽい。


「お前、本当に獣族か?」


ウィルがナイフの切っ先を向けながら尋ねる。


「本当です!くまは獣族!誇り高き神の獣ぉおおお~~!だから狩らないでーーー!」


「何が目的でシーナに近づいた」


「お腹が空いてたんです~~!!くまはあの食べ物の匂いにつられただけなんです~!!女の子は食べません、見つかっちゃったんですぅ」


「食い逃げじゃねえか」


「ごめんなさいぃぃ~お金は払います~!!」


ウィルに追求され、熊が大きな体を何度も跳ね上げさせる。

頭が地面につく勢いで何度も頷く姿は……確かに野生には程遠いかも。

それにしても、丸い耳がぴこぴこ動いて、ちょっとずんぐりしている感じが大きなぬいぐるみ、みたい……。

私の中で一度は覚悟した死があっさりと消えてしまった瞬間だった。




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