ボクだけの為に作って
「これ、お米?貴重な食べ物をこんなに沢山」
「そ、それに関しては独自のルートがありまして……嫌いじゃなければ、是非!」
ウィルやリークさんも夢中で食べたんだから、この世界の人にもおにぎりの魅力はきっと伝わるはず。
勢いで誘ってみたけど、ノアさんは何処かぱちくりと大きな目を瞬かせていた。
もしかして、人が作った物は食べられないタイプの人だったりするかな……どきどき。
やがて、考えるように黙っていたノアさんが軽く小首を傾げながら口を開いた。
「ありがたい申し出ではあるんだけど。職業柄、人から貰った物は食べないようにしているんだ。毒を盛って荷物を奪おうとする人も少なくなくてね」
「なんだ、そうなんですね……」
うう、そうだよね。
運び屋さん、なんて危険なお仕事していると人から貰った物は簡単に口には出来ないよね。
「でも、お姫様にそんな悲しい顔はさせたくないな」
え……?
「だから、ボクの為に新しくひとつ作って貰ってもいい?制作過程を見させてもらうなら安心だし」
「それって……」
「お姫様が愛情を込めてボクだけの為に作ってくれた物を食べたいんだ。駄目、かな?」
直ぐに理解が出来なくて、ぽかんとしてしまう私を覚醒させる、ノアさんの華麗なウインク。
ただそれだけで嬉しくなって、私は勢いよく何度も頷いた。
「勿論です!すぐにノアさんの為におにぎり作ります!」
私が作った物を、誰かに「食べたい」って言われるの、こんなに嬉しいんだ。
こんな気持ち、元の世界に居たら、きっと気付けなかった。
丁度、ボウル一杯分残っていた白米を、新しい味のおにぎりちゃん山と混ぜ合わせる。
はっきり味が分かるよう、少しピリ辛の明太子です!
ノアさんは、口が小さいから食べやすいように少し小さく握る。
綺麗な三角にしよう、そんなことを考えながら握っていると、あっという間におにぎりは完成した。
「ノアさん、出来ましたよ。毒なんて入ってないですし、なんなら私が毒味もしますっ!」
ふんすっと胸を張りながら言うと、ノアさんがクスクスと笑った。
そして、私に少し近付くと、頬に掛かる髪を耳にかけながら見つめてきた。
「仕事で色んな物を触ってるから、できれば紙が欲しいんだけど……そうだね。お姫様の手でボクに食べさせて欲しいな」
え……えっ!?
えっと、そのつまり、これは、あーんをしてあげるってこと!?
私が、ノアさんに!?
「運び屋……仕事で急いでるんじゃなかったのかよ」
「可愛い女性に待ってと言われて、立ち止まらないなんて最低な人間のやる事さ。お姫様を守る騎士様には随分と良い顔がされていないようだけれどね」
さっきまで黙っていたウィルが威圧的な態度で言い放つ。
ノアさんはそれに関して全然気にしていない様子ではあるけど、だ、駄目だ、喧嘩は駄目ですよ~~~!!
うう、このまま長引かせると、せっかく作ったおにぎりも冷めちゃうし、ちょっと恥ずかしいけど、言い出しっぺは私だ。
「あ、あの!」
「ん?」
私の呼びかけに、ノアさんはにっこりと微笑む。
そして真っ直ぐに私を見つめてくるアメジストの瞳にドキドキするけれど、私はそーっと両手でおにぎりをノアさんの口元に寄せた。
「どうぞ!!」
はい、あーん。なんて可愛い掛け声なんて!私には!出来ない!!
むしろ、ヘイラッシャイ!ってぐらい強気な勢いだけれど、これで勘弁してください、ノアさん!
「うん、いただきます」
恥ずかしさからぎゅっと目を閉じている私の耳に、優しい声色のいただきますが聞こえた。
盗み見るように、そっと薄く瞼を開けると、ノアさんがおにぎりをぱくっとひと口食べている所だった。
あっ。
ノアさんの瞳が少しだけ驚いて、目尻を垂らすように笑う。
軽く動く口元が、まるで「おいしい」って言っているように見えて、私は少しくすぐったく感じた。
「……美味しいですか?」
自然と出た言葉に、ノアさんがふた口目を口にする。
もぐもぐと控えめに動いていた口が、あっという間におにぎりを食べきってしまって、私の手はからっぽだ。
「凄く美味しいよ」
ごくんと飲み込んでから、ノアさんが深く頷く。
よかった!満足して貰えたのなら何よりだ。
気に入って貰えたのなら、おみやげに何個か渡そうかな。
そう思って、次のおにぎりを握ろうとした時、不意にノアさんが私の手を取った。
「もっと食べちゃいたいぐらい」
「ほえっ?」
もうおにぎりないですよ??なんて呑気に捉えていた私は、ノアさんが私の指をぱくっと咥えたことに頭が完全にフリーズしてしまった。
指の腹を舐める感触は、例えるなら猫や犬が愛情表現として舐めてくる感じに近いんだけど……だけどっ!!!
羞恥心とくすぐったさが同時にきて、顔から湯気が出てきそう!
「おいっ!」
「ひゃっ!?」
完全にキャパオーバーだった頭がウィルの声によって呼び戻される。
ハッと我に返ってきた瞬間、ぐいっと肩を掴まれて、ウィルの後ろに連れて行かれた。
リークさんがやれやれと言った様子でため息を吐いている。
けど、何だかちょっと目元が笑ってないような……?
「こんなに高価な食材なんだ。粒ひとつ残すのも勿体ないと思わないかい?」
ノアさんの言葉に、あっと納得する。
「あ、米粒食べてたんだ。なーんだ」
「椎名君。たまにびっくりするぐらい天然だね」
「??」
私もおばあちゃんから、お米一粒に神様が宿るから残さず食べなさいって言われてたしね。
「お姫様、美味しい料理をありがとう。また食べに来てもいいかな」
「もちろ……」
「もう、来るな」
「ウィル!!」
「ふふ。次は騎士様の目を盗んでくる事にするよ」
乾いた唇を舐めるように、ノアさんが笑う。
その妖艶な笑みに目を奪われた直後、ノアさんはもう既に街道を歩いていた。
上着のポケットに手を入れて歩く様子はいつもと変わらない筈なんだけど、気持ち足取りが軽く見えたのは、私だけかも。
「おい、手を洗え」
「えっ」
ノアさんを見つめていた私だったが、急にウィルに手を取られ、水をじゃぶじゃぶかけられた。
ううう~~もうウィルの分は握り終わってるんだから大丈夫だって!
「俺にも作れ」
「え?作れって……おにぎり?ウィル、あんなに食べたのに?」
リークさんに手渡された布で手を拭いていると、唐突にウィルがボウルを私に突き出しながら言った。
確かにボウルの中にはノアさんの為に明太子のおにぎりちゃん山を混ぜたお米が少し残ってるけど……お腹大丈夫?
「シーナ、じゃあオレにも作ってくれ」
「僕も、僕も」
「は、はぁ……この量なら小さめになりますよ」
3人とも急にどうしちゃったんだろう?
新しい味がやっぱり気になるのかな~明太子味、美味しいもんね。
「はい、どうぞ」
小さなおにぎりが3つ、お皿の上に完成した……けど、何故か3人とも全く手を着けない。
やっぱりお腹一杯になった??
「シーナ。あ」
ウィルが軽く口を開けて私に顔を寄せる。
はーイケメンって口を開けてもかっこいいんだな……いや、そうじゃなくて、急にウィルどうしちゃったの。
……ハッ!ま、まさか!!!
「しませんよ!!」
「あいつには食べさせてやってたじゃねぇかよ」
「ノアさんは手が使えなかったからで……そもそもウィルは自分で食べられるでしょ!?」
私の意見なんて聞く耳持たなくて、早くしろと急かしてくるウィル。
どうにかしてくださいよ、2人とも!
「いやぁ、雫ちゃんの、あーんなんてそう容易く見られるイベントじゃないからね、乗っかからない手はないよ!」
「そうだなぁ。何ならオレがシーナに食べさせてやっても良いぜ?」
「だから、やりませんってばーーー!!」
もう!3人ともいい年した大人なんだから、我が儘言わないでくださいっ!
絶対にまたからかってるんですよね!
結局、羞恥心を押し殺して三人の口におにぎりを詰め込んだ。
ノアさんの時のような恥ずかしさになんか耐えられなくて、今度こそヘイラッシャイ!って勢いで。
う~~一気に疲れた!
そろそろ私もおにぎりを食べたいぞ!
次回よりイベント発生です。




