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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第四章 街道のくまさんと触れる想い
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性別不詳の美人さん



最初こそ、おにぎりが出来上がるのを大人しく見ていたウィルとリークさんだけど、握ったおにぎりが、お皿の上で列を作り始めると、少しそわそわし始めた。

何だか、お腹をすかせた部活帰りの高校生みたいに思えて、私よりかなり年上だけど可愛く見えちゃう。

ずっと見ていたくもあるけど、やっぱり初めてはあったかい内に食べてもらいたい。


「どうぞ、食べてください」


「まだ作ってる途中なんだろ……いいのか?」


「いいよ、次々握っていくから!こっちの列が鮭わかめ、真ん中のやつがたらこで、こっちはツナマヨだよ。食べ比べてみてね」


一応の躊躇を見せたウィルが、私の承諾を得ておにぎりをひとつ手に取る。

ほほう、ウィルは定番の鮭わかめに行くのですね。うんうん、いいチョイスですよ!

そうこうしている間に、ウィルが大きな口を開けてバクンと一気にかぶりついた。

相変わらず、フレンチとか食べそうな王子様顔なのに勢いのある食べ方だ。

一口で半分ぐらい食べちゃった。


あれ、今回はピシャーンって宇宙を背負った猫みたいにならない?

もしかして口に合わなかったのかな。


「味どう?こっちの世界のお米とちょっと違ったりする?」


もぐもぐと口を延々に動かしているウィルを見て、我慢出来ずに聞いてみる。


「うん……」


「ん?どっち??美味しいの美味しくないの?」


んーーーなんとも歯切れが悪い……なんて思っていた矢先。

あっという間におにぎりを食べ終えたウィルが、次のおにぎりに手を伸ばす。

バクッとバクッと次々おにぎりを頬張っていく様子は見ていて気持ちがいい程だ。

これはもしかして。


「シーナ、心配しなくてもウィルはこのおにぎりってやつ、すげぇ気に入ってるみたいだぜ」


「本当ですか?何も返してこないから、もしかして苦手な食べ物だったのかなぁってひやひやしちゃいました」


「ウィルって結構食に貪欲なんだねぇ。僕も椎名君が握ってくれた、SSRのおにぎり食べちゃおうっと。いただきまーす」


前から薄々気付いてはいたんだけど、ウィルってば美味しい食べ物……特に異世界の物を口にした時、動きが止まるんだよね。

美味しいって感動してくれてるんだろうなって考えていたけれど、その触れ幅みたいなのが完全に振り切っちゃうと、もしかして無言になっちゃう感じ?


と、いうことは、私のおにぎりって特別美味しいってことかな。

むふふ。それは悪い気がしないなぁ。


「米なんて、初めて食べるから緊張しちまうが。オレも頂くとするよ」


「どうぞどうぞ!お腹がはちきれるぐらい食べちゃってください!あっ、こっちに漬け物置いとくのでこちらもどうぞ」


おにぎりだけじゃ飽きると思って、添え物にたくあんの漬け物も出してたら、リークさんがとても興味を示していた。


「美味い……これは塩漬けか?いや、少し違うような……シーナ、これはどうやって作っているんだ?」


「えっと、大根を……土に埋める?」


「ふふっ、土じゃなくて糠床だよ、椎名君」


犬堂さんにそう訂正されて恥ずかしかったので、リークさんには中にたくあんを入れた少し大きめのおにぎりを握って、お詫びに渡した。

何であいつだけ、ってウィルが拗ねてたから、急遽ウィルには少し味が濃くなるように多めに混ぜたおにぎりを握って。

犬堂さんにはちゃんと食べてほしくて、しっかりと強めに握ったものを手渡す。

3人とも、喜んでくれたみたいでこっちが笑顔になっちゃう。


もちろん、お皿に並べたおにぎりも次々とみんなのお腹の中に消えていく。

こんな風に、誰かの為にご飯を作って喜んでくれるって、何だかとても素敵だなぁなんて。

私は自然と胸が温かくなるのを感じた。


そんなこんなで調子に乗って作ったから、少しバックヤードに入れて保管しておこうっと。

深夜とかにお腹がすいたら、パクッと手軽に食べられるし。

それもおにぎりの良い点のひとつだよね。

あったかいお茶をかけてお茶漬けにするのもいいな~。


おにぎりをまとめようと思った時、街道を誰かが歩いているのが見えた。

そりゃ、ここは街道だから私達以外にも人が通るだろうけど、一般人にしてはオーラが全然違っている。

例えるなら、背後に無数の百合を背負って階段を降りてくるイメージ!

そう、見間違える筈もない。


「ノアさ~~ん!」


テーブルから身を乗り出して、ぶんぶんを勢いよく手を振ると、ノアさんも私の存在に気付いてくれた。


「シーナ、よく運び屋が居るって気付いたな」


「え?あんなにオーラがある人、早々に気付きません?」


食べ終わった皿を片付けていたリークさんが、少し驚いた様子で私を見てくる。

よく気付いたなって言われても……目に付いたから声を掛けただけ、だったんだけど。


「やぁ、お姫様。誰よりも早くボクに気付いてくれるなんて、もしかして運命の赤い糸で繋がっているのかな」


「う、運命の赤い糸……!」


相変わらず性別不詳の美人さんだぁ……遠目に見ていても、キラキラしているけど、目の前に立たれると、存在感も凄い。

息を呑むような容姿は、ウィルとはまた違うジャンルの繊細さがあった。

艶やかで華やかで、中性的な美しさだ。


例えるなら、ウィルは白亜のお城でバラに囲まれた王子様って感じで。

ノアさんは百合の咲く衰退した廃墟で孤高に佇むドールって感じ!

まぁ、2人ともびっくりするぐらい容姿が整っているってことには違いないんだけど。


「運び屋の仕事中か」


私がノアさんに見惚れていると、ウィルが話しかけてきた。

ちょっと語尾が強い。むむむ、そんな攻めたような言い方しなくてもいいじゃん。

でも、ノアさん本人はそんなの全然気にしていない様子で、唐突に大きな箱を手に取りだしてきた。


ん?????箱???一体どこから出したの!?

さっきまで、ノアさん何も持っていなかったよね。


「ケンドーさんに依頼者さんからお荷物です」


「僕?あぁ、マスターかな」


もしかして、ノアさんってアイテムボックスを持っているのかなぁ。

凄く貴重なマジックアイテムだけど、存在するってウィルが言っていた。

そもそも、異世界人の部屋のような空間を作り出すアイテムボックスの方が異例中の異例だとは言ってたけど……。


「ありがとう。マスターにもよろしく伝えといて貰えるかな」


「はい、承知しました。では、またのご利用をお待ちしております」


「ノアさん、もう帰っちゃうんですか?」


「うん、次の仕事があるからね。せっかくお姫様に会えたからお茶にでも誘いたい所ではあるのだけれど、貧乏暇無しさ」


軽く肩を竦めて微笑むノアさんが、早々にその場を去ろうとする。

せっかく久しぶりに会えたのに、もうバイバイなんて何だか寂しいな。

お仕事なら仕方がないんだけど、前にクイーンビーとの戦いで私を運んでくれたことのお礼もちゃんと出来てないし……あ!


「の、ノアさん!!お腹空いてませんか!?」


「お腹……?」


「はいっ!おにぎり沢山握ったんですけど、おひとついかがでしょう」


テーブルの上に沢山並べられた、おにぎり。

せめてものお礼に、これを食べて貰って欲しいな。



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