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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第三章 シレーナの海と心の波
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思い出し掛けていた寂しさ



バーベキューをする為に、色々な物を精算したけど、このソースもそのひとつ。

焼きそばやたこ焼きといった粉物に使うのも勿論美味しいけど、イカに塗って食べるのも最高に美味しい!

ってなわけで、今回ご用意したのはこちらです。


「じゃじゃーん。般若ソース、お待たせしました!」


「そうそうこれ。僕もいろんなメーカーのソースを食べたけど、結局般若印になっちゃうよね」


手持ち部分が付いたボトルに入ったソース。

側面には般若の顔と一緒に「ウマイ!般若ソース」と大きく印刷されている。


「これも焼き肉のタレって奴なのか?」


「この般若ソースも食材に付けるタレではあるんですけど、中身がちょっと違うって感じですね」


「調味料のひとつって事だよ」


「あぁ、なるほど!」


焼き肉のタレの時とは違って、何処か食い気味に般若ソースが気になるリークさんは説明を受けた後、何を思ったか、ぽんと手を叩く。


「シーナやケンドーの世界には色々な調味料があるんだな。タレひとつにしてもこんなにあるなんて、食に拘るって意味が分かった気がするぜ。いやぁ、一度シーナに異世界の料理を教えて貰うのもいいな」


「へ!?」


りょ、料理!?リークさん急に何言っちゃってくれてるの!?

私高校生だよ。放課後はバイトばっかりでご飯なんて自分で作らないし、作れたとしても、おにぎりとか炒め物とか簡単な物しか無理だよ!


「犬堂さん!犬堂さんは料理とか作れますか!?」


「え、僕?」


社会人の犬堂さんならリークさんに私達の世界の料理を、教えてあげることが出来るかもしれない。

そんな期待を胸に問いかけたのに。


「そうだなぁ。電子レンジでチンご飯の上に缶詰を乗せる晩ご飯、とかなら教えてあげられるけど」


「それ、絶対社畜飯ですよね!?」


「本当にやばい時は6枚切りの食パン焼かずに食べてたり、10秒でゼリー吸ってたりしてたから」


あーーー!!だめだったーーー!!!!

私も犬堂さんもリークさんに料理を教えてあげられるような技術力がなかったです。

いやでも、犬堂さん……ハハハなんて笑いながら喋っているけど、どんな生活していたの。


「おい、このダイオウクラーケン。食べていいのか?」


「ちょっと待ってください!ソースを塗るんです!」


私達が会話に花を咲かせている合間に、ウィルは網の上でパチパチと踊るダイオウクラーケンに興味津々らしい。

ん?そういえば、ウィルもリークさんもダイオウクラーケンを食べることに関して、さっきから何も言わないな。

あんなに、躊躇してたから、焼き始めたらもっとゴネると思っていたのに。


「ねぇ、ウィル。ダイオウクラーケン食べてもいいの?」


「何だよ。俺やリークには譲ってくれないのか」


「そういう訳じゃないけど。そこまでして食べなくていい~みたいな事言ってたからさ」


あぁー、とウィルから気の抜けた返事が返ってくる。

私の3倍は食べてたけど、全然フォーク離さないね、ウィル。


「小さく切ってあるから食えそうだなって思ったんだよ。そもそも今までダイオウクラーケンを食べようって考えに至らなかったからなんだが。シーナは食うんだろ?ダイオウクラーケンは毒がある。なら護衛対象の毒味も仕事の内だ」


ぜっっったい、自分が食べたいからでは?

いざ焼いて、いい匂いがし始めたからって食に関してウィル、手のひら返しすぎてない??


「オレも食べてみてぇな。オレはどっちかというとダイオウクラーケンより、はんにゃソース?ってやつに興味があってな」


堂々とするウィルとは反対にリークさんは少し恥ずかしそうに挙手する。

うん、正直でよろしい。ある意味、ウィルも正直だけど。


「ふふっ、心配しなくても僕達4人で食べても沢山余るぐらいあるよ。あのサイズだからね。まぁ、ゆっくり食べてよ」


焦げ目がちょっとつき始めた辺りで、犬堂さんが般若ソースをハケで塗り始めた。

端から零れて垂れるソースがジュッと焼き音を出して、周囲へ広がっていく香ばしい香り。


何だか、懐かしい。

小さい頃におばあちゃんに手を引かれて行った夏祭りの記憶が蘇る。

沢山立ち並ぶ屋台の合間をはしゃぎながら走ったっけ。

その時もソースの香りが漂ってて、世界は屋台の光でキラキラしていた。


…………おばあちゃんに会いたいなぁ。

こんな事なら、料理とかもっと教えてもらえば良かったなぁ。

教えてもらったの、筑前煮だけだよ。この世界で作れる気がしないよ。


まぁ、もうどっちみち会うことが叶わない事なのは分かっているけどね。

異世界だからそんなミラクルはないのかな、ないんだろうな。

そういえば学校の皆は元気かな、バイト先の皆シフトに穴開けて怒ってないかな。


ほんのりと湯気を上げながら焼けた、ダイオウクラーケンのイカ焼きを取り皿に乗せて貰いながら、私はちょっとだけ元の世界のことを思い出した。


「う、うめぇ!!何だこのソースってやつ!!」


一足先にかぶりついたリークさんの声に私はハッと我に返った。

焼き肉のタレで初めて肉を食べた時みたいに、ウィルも衝撃を受けている。


どうぞ、とお皿を渡してきた犬堂さんに、私は笑顔でありがとうと答える。

思い出し掛けていた寂しさは、全部忘れることにした。



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