ほかほかの白ご飯が欲しい
そう。焼き肉をする時に、皆お世話になっている、究極最強の調味料のひとつ。
その名も『焼き肉のタレ神殿』
噂によると、本当に本社が神殿みたいな形をしているとか言われているらしいけど、焼き肉と言ったら、このタレ。
そのまま付けてもよし、一緒に炒めてもよし、もちろん漬け込んでもよし。
しかも、今回は通常の甘辛味タレと塩ダレの2種類をご用意しました。
「これを、まず皿に出して」
「なんだか油みたいにどろどろしてないか?変な物も浮いているし……」
「大丈夫ですよリークさん。これはゴマって言って風味付けにいい食材なんです」
リークさんが自分の取り皿に出された焼き肉のタレに鼻を寄せてくんくんと匂いを嗅いでいる。
確かに見た目はちょっと地味かもしれないけど、味は保証付きだ。
是非、実食して頂きたい。
「椎名君、どうぞ」
「わーい、ありがとうございます!」
そうこうしている間に、しっかりと火の通った肉が犬堂さんによって私の取り皿の上に乗せられる。
浜辺で波の音を聞きながらバーベキュー、なんて贅沢なんだろう。
頬が緩んでにまにまする。
「はい、ウィルとリークも。皆お皿には入ったね。じゃあ頂くとしようか」
犬堂さんに促され、私は、ぱんっと胸の前で手を合わせ、元気よく宣言する。
「いただきますっ!」
ではさっそく、肉にタレをたっぷり付けて……。
「はむっ!」
んーーー!!美味しい!!
口に入れた瞬間、とろける柔らかさ。
かと言って脂っぽ過ぎず、旨みが凝縮してお肉のジューシーさが広がってくる。
食べた後も思うほど重くなく、臭みもないし、本当にモンスターの肉?って疑問に思うぐらい美味しい!
おまけに、このしっかり焼けた肉に焼き肉のタレ神殿がよくあう!
私は普通の甘辛味を付けたんだけど、辛いのが苦手な私でもたっぷりつけられて、何枚でもいけちゃいそう。
「ほかほかの白ご飯が欲しい……」
口一杯に広がる肉の味にうっとりと目を細めた。
ちょっと品のある所では出来ないけど、肉に付いたタレをご飯に軽く付けて食べると美味しいよね。
バイト先の人はビールとが最高って言ってたから、いつかその美味しさも分かるのかな。
は~、お肉美味しい。
「シーナ。このタレは多く付けた方がいいのか?」
ウィルは新しい食べ物には相変わらず貪欲で、さっそく焼けた肉をタレに付けようとしていた。
「好みの問題だから、少しずつ付けて好きな量を探っていったらいいよ。ただ、あんまり付け過ぎると、後で喉が乾くから気を付けてね」
「わかった」
私の助言を聞いて、コクリと頷いたウィルが、フォークで突き刺した肉にタレを軽く付ける。そして、王子様な見た目とはかけ離れた大口を開けて、ばくりと肉を口に運んだ。
ピシャーーーン!!
『王子様、焼き肉のタレを付けて食す』
そんなテロップがテレビ画面に出てきそうな程にウィルの表情が一瞬にして固まった。
相変わらずの宇宙をバックに背負った猫みたいな様子は勿論だけど、その後に見られる、こんなに美味しい物食べたことないって言いたげな顔が、私は大好きだ。
「美味いな、これ」
「でしょっ!」
別に私が作ったわけじゃないんだけど、私の世界の商品を誉められると単純に嬉しくなるよね。ふふん。
タレの美味しさに気づいたウィルは、焼けた肉は勿論、野菜もタレに付けて食べ始めている。
その勢いが、あまりにも清々しいから、リークさんもちょっと心が動いたみたいで、手にしたフォークをくるくると手持ちぶさたに回した後、意を決したように1枚の肉に手を伸ばした。
「……いただきます」
ウィルよりは少なめにタレを付け、リークさんも一口で肉を食べた。
もごもごと口を動かし、ガバッと目が大きく開かれる。
「う、うめぇ!こんな色してるから、もっとキツイ味なのかと思ったが、果汁のうまみもあって肉に合うな!」
「ですよね!焼き肉のタレ神殿ってこのちょっと甘い感じの風味が最高なんです!」
サッと野菜を炒めて、このタレをかけただけでもご馳走になるんだから。
ウィルもリークさんも気に入ってくれてよかった~。
「よかったね、椎名君。ほらほら、君もいっぱいお食べ」
皆を微笑ましく見ながら、わんこ蕎麦ならぬ、わんこバーベキューって勢いで皆の取り皿に焼けた肉や野菜や海鮮っぽいものを犬堂さんが次々と乗せていく。
何だか保護者みたいだけど、さっきから犬堂さん、一枚も肉を食べてないような?
「あの犬堂さん。お肉焼くの変わりますよ」
「あぁ、ありがとう椎名君。でも大丈夫だよ、僕はゆっくり食べるから」
「でも……」
「それにね。30過ぎると、焼き肉とか美味しいんだけど、後々胃が大変なことになるからね……。てことで僕には塩ダレの方くれるかい?」
フッと珍しく遠い目をした犬堂さんの横顔は、何故か哀愁たっぷりだった。




