一口で食べるなよ
結局、何とか犬堂さんを説得して、アルコールを今日飲む分だけに減らし、バーベキューで使う道具や調味料、追加の飲み物等と一緒に精算して、バックヤードを出た。
減らしたとはいえ荷物はまだ多く、一気に持ち出せないから精算だけして2回に分けていこうとしたんだけど……
「もう無理、お腹が空いて力が出ない……」
どこぞのヒーローみたいな台詞を残しつつ、私はバックヤードから出るなり、へたりと座り込んでしまった。
一気に商品を精算したからかなぁ。完全にエネルギー不足です!
「あらら。大丈夫?後は僕が外に出すから君は休んでいて。椎名君がちゃんと意識していたら、アイテムボックスは開き続けるから、意識だけは手放さないようにしてね」
「うう、すみません」
「いやいや、僕の方こそ、さっき無理しないようにって言ったばかりなのに、ごめんね。これからは気を付けるから」
「いやいや!まだ自分がどれくらい出せるか理解してないだけで……」
犬堂さんだって、あんなに大きなダイオウクラーケンをスキルで岸に引っ張ってきてるからきっと疲れているのに。
「大丈夫、後は任せておきなさい」
右手にバーベキューコンロの箱2つ、左手に木炭の段ボールを持っているというのに、重さを物ともしない爽やかな笑顔に見送られ、私は力なく頷いた。
「シーナ。ほら、つかまれ」
バックヤードから出てきたことに気付いたウィルが、犬堂さんに私が座り込んでいる理由を聞いて、肩を貸してくれた。
……もしかして心配してくれたのかな。
「ウィル、ありがとう。わ!すごいねもう準備万端だ!」
元々パラソルが突き刺さっていた場所のあたりに、バーベキューの準備は整えられていた。
クロスの敷かれた卓の広いテーブルと人数分の椅子が置かれ、その上には食材が準備されている。
一番近い椅子に座ると、ウィルが中にフルーツの入った大きなグラスピッチャーから水をコップに注いでくれた。
促されるままにグイっと飲むと、重たかった体が多少、楽になった気がする。
「もう少しで終わるから、少し待ってろ」
「はーい」
犬堂さんがてきぱきとした動きでバックヤード内にある商品を外に出している。
その様子を眺めていると、私も何か手伝いたい気持ちが湧いてきた。
だって、キャンプもバーベキューもしたことのない私が、初めて体験するレジャーなんだから。
よし!元気を出さないと!
「ウィル!何か軽くつまめる食べ物ない?」
「軽い食べ物?そうだな……」
「レピアの実が入ったパンならあるぞ?」
回復の一番の早い方法は食事を取ること!
そう思ってウィルに頼んだ瞬間、背後からにゅっとリークさんがパンの入ったかごを出してきた。
わっ、と驚くよりも先に、ぐぅー、とお腹が鳴ってしまう。
「そのうち、シーナの腹と会話が出来そうだな」
「ううっ、お恥ずかしい所をお見せしました」
リークさんが歯を見せながら笑う。
なんて正直なお腹なんだろう……いや、お腹が減るのは健康な証拠だもんね、多分!
自分に言い訳をしながら、差し出されたカゴに目をやると、ひとくちサイズに切られたパンが重なるようにして入っていた。
おまけに、レピアの実って言っていた、レーズンにも似た果実がぎゅっと詰まってて、凄く美味しそう。ごくり。
「じゃあ、ちょっとだけ、いただきますっ!」
どうぞ、と笑顔のリークさんに促され、私はパンに手を伸ばす。
そして、そのまま一口で全部口に入れる。
「ん~~!!!」
美味しい!!
パン自体は塩パンの素朴な感じなんだけど、このパンに詰まったレピアっていう実が甘くて、とてもいいバランス。
見た目も味もレーズンに似ていて、でもレーズンよりじゅわっと甘みが広がる感じ。
この世界、お菓子とかは貴重って言ってたから、手に入りやすいフルーツを使ったドライフルーツとかを作る技術が凄いのかもしれない。
「一口で食べるなよ」
「もぐぐぐ」
「……小動物か」
「もぐー!」
ひ、一口で食べきったのは、その方がパンくずとかが落ちなくていいと思ったからなんです~~!
決して食いしん坊というわけでは、ない……もん。
頬に詰め込んでいたパンを飲み込むと、そのタイミングでウィルがまた水を注いでくれた。
ぷはー!と息を吐くと、すっからかんだったエネルギーが少し回復したような気がする。
「そういえば椎名君。新しいスキルはどんな効果だったんだい?」
全ての商品をバックヤードから出し終え、早速バーベキューコンロの組み立てを始めた犬堂さんが、何気なく聞いてくる。
「いやほら、音声はウィルの魔法で聞こえていたから。二人になるとか、スキルを受けるとか、アレ、新しいスキルだったんだろう?」
「確かにスキルを使った後、リークは初級魔法しか使えないはずなのに、中級魔法が使えていたな」
ウィルも興味を持ったようで、聞いてくる。
そうだよね、自分の事もあるもんね。
ハッ!そういえば!
「リークさん!体は何とも無いですか」
「あぁ。ウィルの事を聞いていたから、一応自分でも確認したが、特に変わったところは無いぜ」
「よ、良かったぁ~。あの、えっと、リークさんに使ったのは個数っていうスキルです。自分の世界では同じ商品を増やすときに使うんですけど、こっちでは多分、個人のパラメーターを上昇させることが出来るみたいで。それで、さっきはリークさんの魔法のスキルを×2にして倍増させたんです」
「確かにオレの魔法スキルは2倍になっていたと思う。サンダーボルトの中級魔法なんて普段は使えないから興奮したぜ。ただ、暫くしたら元に戻っていたから、効果は一時的なんじゃねぇか?」
「え!そうなんですか?」
「あぁ、シーナがスキルを使う前とおんなじ状態だ。レベルが下がるとかも一応覚悟していたんだけどな」
……ということは。個数のスキルは効果が持続しないタイプってこと?
うううう~~!割引とかは一度掛かったらずっと続くのに、効果が持続して欲しいスキルに関しては一時的なものなんて、不公平だ~~!!
個数も割引と同じように、ずっと2倍の状態で良いじゃんか。
「……せっかく、ウィルを元に戻せると思ったのに」
「…………」
しゅんっと分かりやすく肩が下がる。
「まぁ、そう簡単に戻るならお前の護衛なんてしてないから気にするな」
「素直じゃないなぁ~ウィルは。焦らずに行こうよ、旅はまだ始まったばかりなんだからさ。ていうか、やっぱりウィル、レベル下がってたんだね。トータの街でいつもと様子が違うし、見えるオーラも違うし、おっかしいな~って思っていたんだよね。その原因が椎名君なのは目に見えていたから流してたんだけど」
あっ!!!!!!!
そういえば犬堂さんにはウィルがレベル下がったこと言ってなかった!!!!
ギッとウィルに睨まれる。
ひいいごめんなさい……!!!
「まぁ、殆ど分かってたし、恐らくバレるのも時間の問題だったから椎名君を責めないでよ」
「貰った手袋、おかしいくらいに付与が追加されていたしな」
「カマかけた時、覚えてる?あの時には何となく分かっていた。だから補助の手袋、かなり強化して付与しといたんだよ。君に何かあれば雫ちゃ、んん、椎名君が危険な目に合うからね。あっ、もちろん他言する気はないよ。僕だって異世界人だって秘密を伝えているしね」
「ケンドー、お前本当に良い性格してるな。オーラって何だよ、まだ何か持ってるな」
「ふふっ。さぁさぁ、そんなことよりそろそろバーベキューをしよう」
ねっ、と笑顔の犬堂さんに促されると、リークさんがウィルの背中をバンッと叩いた。
「ほらほら、シーナが気にするぞ。とりあえず今はメシだ、メシ」
「ッ……うるさいゴリラ」
緊迫していた空気が、リークさんの言葉で一気に緩くなった。
こういうところが、リークさんの凄い所だな。
……正直落ち込むし、申し訳ない気持ちでいっぱいだけど…………ずっと落ち込んでたって仕方ない。
よし、もっとレベル上げを頑張ろう。
×2倍になって旅をする上で戦闘のサポートが更に向上したし、きっといつか、治せるように。
「ウィル、あの、ごめんなさい!私、これからは気を付けるし、レベル上げも頑張るから」
「……ケンドーに俺のレベルの事、言ってなかったんだな」
「え?」
ほんの少しだけ気まずさが残る中で、不意にウィルが口を開く。
言ってる意味がすぐに理解出来なくて、考えている内に、ウィルの距離が近づいてきた。
そして、犬堂さんやリークさんに聞こえないような声でぽつりと呟く。
「お前、アイツと無駄に仲いいだろ。だから……てっきり」
一度こちらを見た視線がすいっと横に逃げていく。
何だかそれが可愛く見えて、ちょっと笑っちゃった。
「喋りませんよ。だってウィルの大切な秘密だもん」
「シーナ……」
「ま、まぁ。私が全面的に悪いんですけど…!!」
「くくっ……そうだな」
あ、今ウィルも釣られて笑った。
王子様でも、皮肉な笑顔でもない。
「シーナ、ウィル、用意するぞ~」
リークさんの呼ぶ声にウィルが私に背を向けて歩いていく。
その背中を私も追いかけた。




