イカ焼きが食べたい
ダイオウクラーケンが犬堂さんの手によって、無事浜に引き上げられたのを見届けつつ、私はというとリークさんに抱えられて戻ってきた。
俵担ぎって言うのかな?さながら米を抱えるような体勢になっている。
リークさんが適当に担いだのではなくて、これは、私の足にあんまり力が入らないから、必然的にこうなってしまっただけなのです。
「おい、どうした」
ウィルが私の無惨な姿を見て、思わず聞いてくる。
その直後、あたりに派手な音を響かせた。
ぐーーーー(お腹が空いた)
「腹で返事するなよ」
「仕方ないじゃないですかー!!お腹が凄く減って減って、くらくらするんです!」
「新しいスキルを使ったからかな、椎名君、何か食べる?リーク、ゆっくり降ろしてあげて」
「大丈夫か?一回降ろすぞ~」
リークさんが心配しながら降ろしてくれたので、よろよろしつつも浜辺にしっかりと足を付いて、立ち直す。
「ほら、これでも食べろ」
「うう、リークさんもウィルもありがとう、もぐもぐ」
リークさんに降ろして貰ったタイミングでウィルが横からマシュマロを口に入れてくる。
海に行く前、浮き輪を膨らましてくれたお礼に渡したマシュマロなんだけど、ウィルが手に持った袋の中身…………何だか随分と減ってない!?
いち、にい……4つくらいしか、マシュマロ残ってないんですけど!?
「もぐ……んっ、ウィル、このお徳用ひとりで全部食べちゃったの!?これからご飯なのにお腹大丈夫!?」
「いや、別に。ダイオウクラーケンを倒すために補助魔法も使ったしな、むしろ減っているぐらいだが……」
「お前は桟橋で慌てていただけだろ~、ウィル君」
リークさんがちょっとだけ意地悪な表情を浮かべて笑っている。
ウィル君なんていつもなら絶対に呼ばないような言い方だけど、煽ってるっていうよりもからかってるってのが、最近分かるようになってきたぞ。
結局、2人って結構仲良しなんだよね~。
「誰のおかげでダイオウクラーケンに雷魔法を使えたと思っているんだよ。パラソル刺さなかったら海で霧散していたぞ。補助魔法有りでもあそこまで飛ばすのは大変だったんだからな」
「それに関しては助かったが、お前、遠隔聴覚の補助魔法なんて使ってデバガメなんてしてなければ、こんなに腹減ってないんじゃないか?」
「デバっ…!…………もしもの時の保険だ」
白熱しているうちに、もう一個食べちゃお。
もぐもぐ。デバガメ……
「犬堂さん。デバガメってなにですか?」
「椎名君が今後とも知らなくていい単語だよ」
ふーん。デバガメって言うぐらいだから亀さんが関係あるのかな??
亀さんいっぱい海の中に居たもんね。
仲良く喧嘩をしているウィルとリークさんを置き去りにして、私は残ったマシュマロを口につっこみながら、砂浜にごろーんと寝ているダイオウクラーケンを見た。
お、大きいなぁ。
頭部分は雷の魔法で真っ黒焦げになっているけど、触手は何だか丁度良いぐらいの焼き加減になっている気がする。
ほんのりと漂う香ばしい香りが空腹限界のお腹をぐいぐい押してきた。
じゅるり……これは、この匂いは……。
「イカ焼き……」
ぽつりと呟くと、犬堂さんがあぁ、と明るい表情で手を叩いた。
「良いねぇ。皆、戦闘で技や魔法を使ってエネルギー消費しているし、買ってきた材料だと微妙に足りない気がしてたんだ。何よりバーベキューに海鮮は付き物だしね」
「やったー!タレ付けて焼きましょう、焼きましょう!」
ぐうぐう鳴っていたお腹が、イカ焼きが食べられると分かった瞬間、準備万端待ってました、と言わんばかりになりを潜める。
これだけ大きいんだから、沢山食べられそうだし、残った分はバックヤードに入れて保管していれば、食材にもなる。
冷凍したほうが良いんだろうけど、時間停止だし問題ない!
「ちょっ、ちょっと待て!!」
そう思っていたのに、リークさんが慌てて大声で止めてきた。
リークさんだけじゃない、ウィルもひきつった顔をしている。
「今、コイツを食べるって言ったか?」
「え、はい。駄目なんですか?」
確か、この世界って牛とか鳥のお肉が凄く高価なんだよね。
だから一般的に食べる肉はモンスターの物が多い。
最初はびっくりしていたけど、味は私の世界とそんなに変わらないし、すぐに慣れてしまった。
元からこの世界の住人であるウィル達なら尚更、モンスターを食べるという行為をなんとも思ってないと思うんだけど……。
あ、もしかして生は食べない?お刺身とかないもんね。
いや、でも今のダイオウクラーケンは焼けてるしノーカンでは??
「ダイオウクラーケンはイカだ」
「はい。大きなイカですね」
リークさんが真剣な顔で私を見てくる。
「イカは悪魔だ!」
「……?????」
イカって悪魔なの?????
私にはどこからどう見ても、三角の頭をした立派なイカにしか見えないのだけれど。
困惑していると、犬堂さんが何かを思い出したみたいに頷いていた。
「そういえば、今でこそお寿司や刺身が食べられているけど、海外の人は基本的に生魚を食べないし、何ならタコやイカは悪魔の使いとして恐れられていたらしいよ。まぁ、タコと違ってイカはスペインやイタリアでは食べられたみたいだけど。もしかしてウィルやリークが反応しているのはその辺りの事が原因に近いのかな」
「ほーう、悪魔の使い」
美味しいのに。
イカ焼きも美味しいけど、カラッと揚げてイカリングにしたり、お米詰めてもっちりとしたイカ飯にしたり、里芋と煮てホクホクの煮物にしたり……駄目だ駄目だ。
もうイカ料理の事しか考えられなくなってきた。
「おい……そもそもコイツは毒持ちだろ。そんなの食べて死んだらどうするんだ」
ウィルも眉間に皺を寄せながら心配した様子で口を開く。
「大丈夫大丈夫。ダイオウクラーケンの毒は頭部に偏るから、避けて食べれば平気だよ。あ、今毒が出ないように縛っちゃお」
「そこまでして食わなくてもいいんじゃないか……」
信じられないと呟いたウィルと、納得がいかない様子のリークさんを横目に、平然と糸を操りながら長い手足を確認し、縛ったり動かしたりする犬堂さん。
そっかぁ……これがカルチャーショックというやつか。
美味しいかもしれないけど、そこまでして悪魔を食べたくないって考えがあるのかもしれないなぁ。
でも、そういう意味で考えると日本人って食に関して貪欲だよね。
毒があるフグとか、蒟蒻とか、どうにかして食べちゃうもん。
毒があってもなんとかして食べたい!っていう強い意志を感じるちゃう。
ふむ。ならば、ここは食に関して謎のこだわりを持つ日本人代表として、2人に美味しいを知って貰わないとね。
「ウィルもリークさんも美味しいダイオウクラーケンを食べたことないから、そんな事が言えるんですっ!」
「お前も食ったことないだろ」
「と、とにかく!私が2人に美味しいイカ焼きを作って、タコやイカが悪魔じゃないってこと教えてあげます!」
ふんすっと強く意気込んで、私はアイテムボックスへの掛け声を叫ぶ。
いざ、バーベキューとイカ焼きの為に!




