個数を変更致します
レジの「個数」は同じ商品を複数購入した場合、1回1回スキャンしなくてもひとつだけ通して、合計数を×で入力することで短縮出来る機能だ。
りんごを3個買ったら、×3、ってみたいに。
異世界に来てもレジの本質は変わらないから、何かを増やす機能であるとは思う。
つまり……多分……敵ではなく味方に使うスキル。
ただ、味方に使う事はもしかしたら、ウィルの時みたいになる可能性もあるわけで。
うーん、うーん、悩むけど!今使わないで、いつ使うの!
「あの、リークさん!私を信じてスキルを受けてもらえませんか!もしうっかりリークさんが2人になったら、ウィルと同じ様に、出来る限り責任をとりますから!」
「へ??オレが……2人??」
「はいっ!」
ぽかんとした表情でリークさんが私を見てくる。
まぁ、当然だよね。巨大なイカと対立している状況で、増えても大丈夫ですか?とは普通聞かれないもんね。
でも、ウィルと同じ失敗をするわけにはいかない。
個数のスキルでリークさんに何かあったら、私のせいだ。
私も覚悟を決めなければ。
「……わかった。信じるぜ。2人になったら2倍稼げそうだしな!」
ウィルが私のスキルでうっかり割引になってレベルが半額になっているのを知った上で、リークさんは私を真っ直ぐ見つめてから強く頷いてくれた。
ただそれだけなのに、ぐっと目頭が熱くなる。
リークさんの覚悟に応えなくちゃ。
ハンドスキャナーをリークさんに向ける。
ピッ
名前 リーク
年齢 26歳
性別 男性
職業 冒険者(剣士)
技術 大剣9 弓5
瞬発攻撃レベル7 絶対防御レベル7
火・水・雷・風・土・魔法レベル3
レベル70
情報 冒険者連盟Aランクの一流冒険者。
合計金額
90ゴールド
ウィルの時も凄かったけど、リークさんも負けず劣らずな、高いパラメーターだ。レベルも70だし。
最初のウィルよりかは少しだけお手頃だけど、それでも90ゴールドっていうのは表示されている通り、一流冒険者だからなんだろう。
「これを個数変更で……」
リークさんの情報を表示した状態で私は個数ボタンを押した。
『現在のレベルで可能な個数制限は×2デス。変更箇所を選択してください』
周囲に響く機械の女性アナウンス。
×2ってことは、2倍にしかならないってことか。
ううん、違う違う2倍にもなるんだ!
「変更する箇所ってことは、スキルから選べるってこと?なら決まってる」
避雷針が刺さったレベル半額のダイオウクラーケンに大ダメージを与える為に、今必要なものはただひとつ。
「魔法のレベルを×2にします!」
ポチッとボタンを押すと同時に、リークさんの身体があっという間に光の粒子に包まれていく。
その輝きが収まると同時に、今度は太陽の日差しみたいに強い黄色の光がリークさんの足下から溢れ出す。
その光は厚い氷にヒビを入れさせるぐらいに強烈だ。
「リークさん!これで!」
「いざ誓わん。雷神の裁きを愚者の元へ……」
バチバチとリークさんの手が火花を散らす。
カッと見開いた目は金色に燃えていた。
そこに鮮やかな黄緑の髪が良く映えて、強く、視線を惹かれた。
「サンダーボルト!」
強く引き絞った弓が放たれるみたいに、天へ伸ばしたリークさんの指先から雷でできた1本の矢が飛んでいく。
その矢は雲を突き抜け、水面と同じぐらい真っ青だった空を一瞬にして曇天にしてしまう。
キラリと雲間で何かが光った。
次の瞬間、ドンッ!!!!と強い衝撃派と同じタイミングで巨大な雷が避雷針へと落ちてくる。
ギャウウウウウウウ
超音波にも似たダイオウクラーケンの悲鳴。
やったーーー!!倒した!!
「すげぇ……中級魔法のサンダーボルトができたじゃねぇか」
「凄いです、リークさん!あんなに大きなモンスターなのに、魔法一発であんなにぶすぶすと焦げて……あれ、なんだか、ぐらついてません?」
ぶすぶすと黒い煙を巻き上げ、その巨体を大きく傾かせる。
そう。私とリークさんの方向へ。
「やばいぞこれは……」
ダイオウクラーケンを倒したことにほっとした表情が一瞬にして焦りに変わる。
大きく広がっていく影に冷や汗が背中を伝った。
せっかくレジもうまくいったのに、まさかの潰されて海に落とされちゃうなんて、そんなのあんまりだよ~~~!!!!
リークさんが私を自分の胸にぎゅっと引き寄せた。
私も海に落とされても溺れてしまわないように、必死になってリークさんの首に抱きつく。
ひ、ひぃー!!!!
水に飛び込もうとした時、ヒュンと、何かが空気を裂くような音がした。
こちらに向かって倒れてきていたダイオウクラーケンの身体が反対方向へ傾いていく。
大きな水しぶきを上げながら仰向けに倒れたダイオウクラーケンは、何故か自分の力で浜辺へのろのろ移動していた。
ん?違う、自分の意志で移動しているんじゃない。
だって、ダイオウクラーケンはリークさんの魔法で完全に息絶えている。
じゃあ、なんで??
「椎名君~~~おーーい」
「犬堂さん……?」
ウィルの声が聞こえる場所から割り込むようにして犬堂さんの声が聞こえてきた。
目を凝らしてみると、桟橋に立つウィルの横に犬堂さんも立っている。
のんきに手をひらひらさせているけれど、彼の手には無数の糸が絡まっているように光っていた。
そして、その糸は海を無惨にたゆたうダイオウクラーケンに繋がっていると、気付く。
「ま、まさか……」
「あっはっは。大漁大漁~なんちゃって。皆、お腹空いただろう?そろそろご飯にしよう」
漁師にはどう転んでも見えない貴族様が、片手でぐいぐいクラーケンを浜に引きずる姿はなかなか異様です。
ウィルはかなりドン引きしてるのが分かるし、私とリークさんもぽかんだよ。
まぁ……倒せたから、いいか。
いいのかな???




