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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第三章 シレーナの海と心の波
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リークさん型ウォーターアトラクション



「シーナ、しっかり掴まってろよー!」


「はいっ!」


浮き輪の内周にお尻を入れる形で上に座った私の身体を、リークさんがなんと浮き輪ごと持ち上げ、掛け声と同時に桟橋から勢いよく、海へ放り投げてくれる。

遊園地で絶叫系に乗った時みたいな興奮が胸をヒュンとさせたのもつかの間、ザブンと水面に着水した。


そう、これはリークさん型ウォーターアトラクション。


大きな浮き輪が海面を滑るのがとても楽しい。

何より、リークさんの投げ方は力任せなように見えて、その実、しっかりと着地点まで計画された安全なフォームらしい。

あと、ひっくり返ったらすぐに助けてくれる安心感もあって、私はすっかりこのアトラクションに夢中になっていた。


「よし、じゃあオレも」


私の後を追うように、リークさんが桟橋から海へ飛び込んでくる。

ぷかぷか浮かんでいた私の顔に水しぶきが掛かって、水面が大きく波打つと、私はさながら映画のワンシーンのように絵になる飛び込み方を見て興奮気味に手を叩いた。


「すごーい!水泳選手の飛び込みフォームみたい」


軽い助走に合わせて頭から海に飛び込む姿が、なんとも様になっているんだよなぁ。

おまけに、海の中から出てくるのも凄いんだよ!

ブルブルって顔を振って払う水滴が太陽に反射してきらきらしてるし、大きな掌で濡れた鮮やかな黄緑色の髪を撫でつける姿が……凄く、かっこいいというか。


見惚れていると、リークさんが私の方へ立ち泳ぎで近付いてきた。


「浮き輪での着水も上手くなったな。初めは驚いて反対にひっくり返って泣きべそかいてたのに」


「な、泣いてないです~~!!鼻に海水が入って、びっくりしちゃっただけですもんっ」


うう、思い出したくない少し前の記憶~!!

確かに、一番最初はうまくバランスがとれなくて、海に落ちると同時にひっくり返って水中にドボンってしたりしてましたけど、2回目からは、慣れましたもんね!

軽く頬を膨らまして不貞くされる私に、リークさんが豪快に笑う。


「悪い悪い、そうだったな。むしろ、1回で着水をマスターできたシーナは凄い凄い」


そう言いながら、私の頭をわしわしと撫でた。


「……なんだか、子供扱いされている気分」


「そんな事ないぞ。そうだ、なんならもっと沖の方まで泳ぎに行こうぜ」


「沖、ですか?」


私の浮き輪に付いた紐を手にしながら、リークさんが軽く引っ張った。

浮き輪に乗ったままの状態で沖に連れて行ってくれるって意味なんだろうけど……。

泳げない私は、正直な所、足の付かない場所に行くのが怖い。


でも、こんなに綺麗な海を堪能しないのは勿体ないし、浮き輪があると沈むことはないよね!

そして何より、リークさんが連れて行ってくれるという安心感もあるし。

3秒だけ考えた私は、力強く頭を縦に振った。


「じゃあ、ちょっとだけお願いします」


その反応に、リークさんの口角がにやりと上がったのを、私はしっかりこの目で見た。

……何か、嫌な予感がする。

リークさんの挑発的な表情はもちろんだけれど……。


「よーし!じゃあ、発進だな」


「わわっ!!」


ギュンと急に浮き輪が海の上を滑走していく。

いや、本当に!『滑走』って単語以外、どう表現していいか分からないぐらい、水しぶきを上げながら浮き輪が沖へ進むんだって!


「り、りりリークさん!!早い!!」


リークさんが浮き輪に付いた紐を引っ張りながら、泳いでいるからだ。

さながらモーターボートに繋がれた浮き輪のよう。

浮き輪に描かれた犬とりすも、気持ち少しだけ驚いたみたいに歪んで見えてくる。

少し怖い。だけど、


「わぁっ!珊瑚礁だ!」


水面からでも見える、海底を覆う虹色の珊瑚礁。

さっきは遠目に見た亀が、真下で泳いでいるし、魚も浅瀬より大きい。


「ここら辺で一旦止まるか。落ちてないか、シーナ」


「なんとかぁー……それにしても私を乗せた浮き輪を引っ張りながら泳ぐなんて、リークさん凄いですね」


「シーナは軽いから、それほど苦じゃないぞ」


えっ、本当?

異世界に来てから、スキルを使う為に沢山ご飯を食べているから、太ってないか凄く心配していたんだけど、リークさんがそう言ってくれるのなら少し安心かも。


「なんなら、向こうの島まで連れて行ってやろうか?」


そう言いながらリークさんが指さしたのは、今いる場所から、ゆうに200メートル以上離れている小島だった。

南国風な植物が生えているのが見えるけど、流石にそれは遠慮しておきます。

とはいえ、あの島まで私を運べるってことは、多少私の体重が増えたり減ったりしている所で、対して変わらないのかもしれない。とほほ。


「あ、大きなお魚」


リークさんの足下を真っ赤な色をした魚が泳いでいく。

体に引かれたよく目立つ青いラインさえなければ、タイみたいだ。

タイかぁー……お刺身おいしいよね。お寿司もおいしいし。

うう、生魚食べたくなってきたなぁ。


「リークさんって、お魚って手で捕まえられます?」


「うーん、素手はちょっと難しいかもな。あぁ、でも潜るのは得意だからな、銛さえあれば沢山捕まえられるぞ」


「あっ、私も息を止めるのは得意です!」


「泳げないのにか?」


うぐっ!!

そ、そうですよ!泳げないけど、潜水は得意なんです!

だって、身体は勝手に沈んじゃうからね!!

浮かんで来なくなるけど……。


「じゃあ、一緒に潜ってみるか」


「この深さを……ですか」


「まぁ、確かにちょっと深いかもしれないが、魚や珊瑚礁もよく見えるし、反射してゆらめく水面が幻想的で綺麗だから、きっとシーナは気に入ると思うけどな」


「……でも」


おいでおいでとリークさんがおもむろに手招きをする。

えっと、浮き輪の上から降りて、掴まれっていいたいのかな。

自分から命綱である浮き輪を離すのはかなり勇気がいるんだけど。


「ほら、大丈夫だぞ」


軽く小首を傾げながら腕を広げて見せるリークさんの姿は、どれだけ足場が不安定な場所であろうと、絶対に守ってくれるという安心感が溢れていた。


「一気に潜るのは怖いからやめてくださいね」


「そうだな、速すぎると怖いよな」


「急にびっくりさせて、驚かすのもダメですよ」


「肝に銘じておく」


「絶対に離さないでくださいね」


「おう、勿論だ。オレはシーナを絶対に離さない」


ニッと太陽みたいな笑顔で笑うリークさんに、毒気が抜かれていくみたいに恐怖が消えていく。

一度も躊躇することなく、私の言葉を全て受け止めてくれたリークさんは、もっと言ってくれと言わんばかりに、何故か嬉しそうだ。

それにしても「絶対に離さない」なんて言葉、漫画や小説の中ぐらいでしか聞いたことがなかったから、ちょっとドキッとしてしまった。

それが、優しくて頼りがいのあるリークさんなら尚更。


「じゃあ……いいですよ」


その一言でリークさんがヨシッと拳を作りながら笑みを浮かべる。

喜ぶ姿を見ていると、私も不思議と嬉しくなって、よじよじと浮き輪の上から水中に降りた。

溺れないように浮き輪を掴むと、私の腰をリークさんの逞しい腕が抱えるように支えてくれたので、私は反射的にリークさんの首にガシッと抱きついた。


「おわっ!?シーナ!」


怖い!かなり怖い!やっぱり、浮き輪がないの無理!!

リークさんにしがみついてないと、私本当に二度と水面に上がれなくなる!

迷惑を掛けてるのは分かるんだけど……何で嬉しそうなんですかリークさん!


「シーナ。そんなにしがみ付いてなくても、支えてるから大丈夫だぞ~」


「そ、それは分かってるんですけど!やっぱり怖くて!駄目なら浮き輪ください!」


「駄目じゃないぞ、うん。全然駄目じゃない。これは試されてるなぁ……」


「?」


最初は怖くて慌てていたけど、しっかりとした安定感に次第に混乱が溶けてくる。

ぎゅっと、しがみつくような体勢は自然と身体が密着する形になっていた。

恥ずかしいと思う余裕がなかったけど、わ、私、自分から抱き付いてしまったのでは……。


私は視線を落とし、密着するリークさんの身体を見た。

そこでスッとさらに冷静になった。なんというか……悟りの境地?

胸がお互い完璧に当たってしまっているんです。

いや、正確に言うのであれば、私の胸とリークさんの胸……あ、いや、胸筋?なんだけど。


「私より大きいのでは……」


「シーナ?」


リークさんは冒険者として鍛えてるって言っていたから、筋肉ムキムキだもんね。

これは女性の胸の概念とは違う大きさなのだ。

そう、そうに違いない。別にショックなんて受けていないんだから。



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