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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第三章 シレーナの海と心の波
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スイカと浮き輪と肺活量



「おーい!」


声が聞こえて振り返ると、リークさんが砂浜を歩いて来ていた。

どうやら買い物から戻ってきたみたいだけど、何か抱えている……桶?

生きた魚でも買ってきたのかな。


「おかえりなさーい!リークさん。あれ、犬堂さんは?」


「あぁ、ただいま。ケンドーなら館の中で買ってきた食材の整理をしてるぞ」


そういいながらリークさんはパラソルへ向かい、影に桶を置く。


「ケンドーが持って行けって。こぼさずに持っていくのって意外に難しいな」


桶の中には、水がたっぷり入っていた。

おまけに大きな氷の固まりがごろごろ浮かんでいて、側に居るだけでちょっと涼しく感じる。


「リーク、氷水なんて何に使うんだ」


「すいか?っていうヤツをこれで冷やしてくれって、言ってたぞ」


「なるほどっ!」


異世界には当然だけど冷蔵庫なんて物は存在しない。

でもスイカは冷えた状態のやつをやっぱり食べたいよね!


「私、さっそくスイカ取ってきます!バックヤード入りまーす!」


砂浜にスイングドアを出すと、私はバックヤードに飛び込んだ。

迷うことなく第1倉庫に向かい、段ボールに入ったスイカを見つけた。


「あっ、そういえば、これがあれば海でも溺れないのでは」


スイカの横、棚に置かれたナイロンの袋を見つける。

中に入っているのは、そう、浮き輪!

ファンシーな絵柄で犬とリスが描かれている浮き輪は、季節商品として花火やアウトドア用品と一緒に入荷している商品だ。

サイズが一番大きい物しかないみたいだけど、うーん、まぁ大は小を兼ねるって言うしね。


あとは、飲み物何本かと、ウィルの為にマシュマロも持っていこう!

精算して、右手に飲み物とマシュマロが入ったレジ袋をひっかけて、両手でスイカを持つ。

さ……流石に重い!!

ぐぐ、でも行ける!夏場のスイカセールの時期を乗り切ったあの時を思い出せ!


よろよろする身体を踏ん張り、腰に力を入れながら、スイカを抱えてすぐ側のスイングドアから外へ出る。

と、同時に私の手からスイカは姿を消した。


「おっ、大丈夫か。これを桶に入れておけばいいのか?」


「リークさん!はい、お願いします」


スイングドアを出た瞬間、リークさんがスイカを受け取るように持ち上げてくれた。

その動きがスマートで、やっぱりリークさんって頼りになるなぁ。

スイカは無事に桶に浸かり、私は上機嫌でそれを眺めた。

掌で水を掬って上から掛けてやると、冷たくなるのが早くなる気がしない?


「それは何取ってきたんだ?」


リークさんが腰を曲げながら、手にかかったレジ袋を指さした。


「じゃーん!泳げない私でも海を楽しめるように浮き輪です!」


「浮き輪!?それが……オレが知っている浮き輪と随分違うな」


あっ、こっちの世界にも浮き輪って存在しているんだ。

ただリークさんの驚きから見て、デザインとかが全く違うのかもしれない。


「菓子もあるじゃねぇか、休憩にするか」


ウィルが横からレジ袋の中を覗きながら、絨毯に腰を下ろす。

分っているぞウィル、マシュマロが食べたいんですよね。


「そうですね……と、ウィル、マシュマロ食べたいですか」


「?ああ」


「じゃあ、これをお願いします」


ウィルの横に並ぶように座って、私は平べったく折り畳まれた浮き輪を広げた。

そして、空気口の蓋を外してウィルに手渡す。


「ここに、息を吹き込んで、膨らませてください」


「……空気を入れたらいいのか?」


お、断るかなぁって思ってたのに、意外だ。

浮き輪を文句も言わずに受け取ったウィルが、ふーふーと息を入れていく。

最初は平べったかった浮き輪が次第に膨れていくのを、私はわくわくしながら見ていた。


10分後。


「はー…はー…」


「ウィルー!!頑張れーー!!あとちょっとだーー!!」


ぜぇぜぇとウィルが浮き輪を抱き抱えるような格好で荒い呼吸を繰り返している。

最初はぺったんこだった浮き輪はウィルによって空気を入れられ、だいぶ見慣れた形に膨らみつつあった。

あったんだけど、この浮き輪、かなりのビッグサイズだったらしくて。

頑張って空気を入れてくれてはいるんだけれど、なかなか完成しない。

最初はそれなりにスピード良く膨らましてはいたんだけど、途中から速度がガクッと落ちて、今は息絶え絶えって感じ!


変わろうか?って聞いても、ウィルは「大丈夫だ」って言って断ってくるし、とりあえず、手持ちぶさたを解消する為に、さっきから部活の応援ばりにウィルを励ましていたりする。

こんなに大きいサイズだと、普通は空気入れを使うんだろうなぁ。

プールとか行くと、空気入れる機械が置いてあったりするもんね。


「ちょっと休憩する?」


「いや……」


ぐぬぬ、思ったよりも頑固だ。


「ったく、見てらんねーな。ほら、貸せよ」


バックヤードから持ってきた炭酸ジュースを美味しいそうに飲んでいたリークさんが、ぐいっと浮き輪を奪い取る。

そのままフーッと息を吹き込んでいった。


「選手交代だね、お疲れ様、ウィル」


飲み物を渡したけど、ウィルはどこか腑に落ちない表情をしている。

それでも、マシュマロのパッケージを開けて手渡すと、素直にもぐもぐと食べ始めた。

ふふ、悔しいんですよね~~わかるぞ~!


私も膨らませるのを手伝おうと思った時、リークさんが私に浮き輪を渡してきた。

掴むとしっかりとした空気の弾力が返ってくる。

あれ!?さっきまで、まだ触ったらへこんだりして柔らかかったのに。


「リークさん早い!もう完成したんですか」


「まぁな。これぐらいの膨らみで大丈夫だったか?」


「はい!完璧です!」


「さすがだな、体力ゴリラ」


「誰がゴリラだ、一言余計だっての」


パンッパンッに膨らんだ浮き輪を今一度見る。

お、恐るべし……パリピの肺活量。いや、パリピは関係ないか。


「ありがとう、ウィル、リークさん!!」


初めての海、初めて手にする大きな浮き輪。

あっという間に乾いた身体が波を感じたくてウズウズしている。


「私、海で泳いでくる!」


「俺はこれ食ったらにする……リーク頼む」


「いいぜ。正直泳ぎたくてウズウズしてたんだ。拗ねてないで早く来いよ」


「うるさい」


口喧嘩にもだいぶ慣れたなぁ、とほのぼのした目で見ちゃう。

それにしてもウィル、ご飯前にマシュマロ、そんなにいっぱい食べて大丈夫?

それお徳用特大パックだから、全部食べたらお腹いっぱいになっちゃうからね。


「よし、シーナ。行くぞ」


「はいっ!」


膨らまして貰った浮き輪を早速被って、私はリークさんと一緒にざぶんと海に入っていった。



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