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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第三章 シレーナの海と心の波
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水着なのです



皆さん、夏と言えば何を想像しますか?


私は基本的にバイト、バイト、バイト!でした。

夏休みはフルタイムで入れるし。

しかし、異世界に来て私の夏は大きく変わろうとしています。


「椎名君!最高だよ!そうそう、ちょっとつま先と腰に力を入れる感じで立ってくれないかな!そう!パーフェクト雫ちゃん!イエス!」


「ううっ……そんなにジロジロ見ないでくださいよぉ~!!」


「恥じらう椎名君も可愛いけれど、そうだね。推しの嫌がる事はしてはいけない。分かっているけど……ごめん、やっぱりそこのビーチチェアに座って、僕に笑いかけてもらって良いかな?」


「犬堂さん!」


「いいじゃないか。だって、水着だよ!!」


そうなのです。

水着なのです。

私は今、犬堂さんが作った水着を着て、プライベートビーチに立っています!!


赤のチェック柄に白いフリルの付いたビキニタイプの水着は、下がこれまたフリルたっぷりのスカートになってて、凄く凄く可愛い。

こんな機会でもなければ、着ることなんて一生無かったから、ちょっと嬉しくもあるんだけど、でもやっぱり、ビキニは恥ずかしい!!

お腹出てるの恥ずかしいよー!!!


「可愛いよ……雫ちゃん。ピカピカサンシャインガチャ。SSR浜崎雫/マイドロップ・サマーの名に恥じない姿だ」


「椎名です!もう!ちょっと歩いてきます!」


顔の前で合掌する犬堂さんのことから逃げるように、私は白い砂浜を歩き始めた。

サクサクと歩く度に聞こえてくる砂の軋む音。

雲ひとつ存在しない広い空。

そして、エメラルドグリーンの海!


潮の匂いを胸一杯に吸い込みながら、私は数日のバカンスに思いを馳せていた。


……


遡る事、1週間前。

セーフゾーンで2日過ごし、3日目の朝に出発した私達は学園都市ウォールを目指していた。

何日か経った野営の時、犬堂さんが笑顔で提案をしたことから、話は始まった。


「ウォールへ向かう進路の事なんだけど。ここのシレーナを通過するルートはどうかな」


リークさんが広げたマクスベルン大陸を記した地図を、指で示す犬堂さん。

上から確認すると、大陸の端っこ、学園都市ウォールの西側に小さくシレーナと書いてある。私達が今居る場所からだと、1週間ぐらい歩けば到着すると思う。

何より街だとお風呂に入れる!


でも、ウィルをちらりと見ると、表情はよろしくなかった。


「シレーナは確かに学園都市ウォールにも近くていいが……あそこが何処か知っててルートを勧めてるのか?」


「行ったらダメな所なんですか?」


思わず尋ねると、横にいたリークさんが軽く頭を振って、口を開いた。


「シレーナは高級リゾート街なんだよ。貴族や王族がバカンスを楽しむ為にやってくる別荘地って奴だな。当然、街に入れる奴は中に屋敷を持つ人間に限られる。オレ達みたいな冒険者には一生入る事の出来ないような場所って事だ」


「へー!軽井沢みたいですね!」


「いやいや椎名君、軽井沢は家持ってなくても入れるよ」


異世界にも避暑地みたいな場所があるんだなぁ。

やっぱり貴族とかのお金持ちさんも、時折俗世から離れたくなる事があるんだろうか。

リッチな生活からリッチなオフ生活ってどうも想像付かないんだけど。

私だったら、Tシャツ一枚でゴロゴロと1日過ごす事が何よりの贅沢です!


「リークの言う通り、シレーナは一般人に解放されていないリゾート街。だから冒険者は多少遠回りになるけど、休める場所や補給の為に小さな村があるルートでウォールに向かうよね。それは理解しているよ」


「じゃあ……」


「ただ、僕がシレーナに入れる権利を持っていたとしたら?」


にこっと笑いながら言う犬堂さんに、2人の動きが止まる。

シレーナって街の中に家持ってないと入れないんだよね?

え、つまり……。


「犬堂さん、家持ってるんですか!?」


「いや、流石にあんなリゾート地に家は持っていないけど」


「……仕事か」


ウィルが指摘すると、犬堂さんが頷く。


「シレーナに永住しているお得意様が居て、身分が高い方だからこちらからお伺いしないといけないんだ。ご指定を受けて、僕がオーナーに代わってドレスの手直しをする予定で、お持ちになっている館の1つに滞在の許可を頂いている。シレーナは館主がゲストを外から招く事は、手続きさえとれば出来るからね。」


「つまり、私達シレーナに入れるんですか?」


「そうだよ。そうだ椎名君、海好き?シレーナ海岸沿いの街だから、泳いだりも出来るよ」


「海っ!」


その一言で私の胸が大きく高鳴った。

何を隠そう、私は海が凄く好きだったりする。

元の世界では山側に住んでいたので、海とは無縁だった。

だから、どちらかというと憧れに近いのかもしれないけれど。


家族で海へ旅行をした記憶は無い。いや、そもそも旅行の記憶が無いけれど。

たまに学校の行事で遠くへ行く時、電車の窓から覗く、遠くまで広がる青い海を見て、綺麗だなぁと見ていたのを思い出す。

あれ……私、もしかして、きちんと海に行ったことないのでは!?


「海……行ったことないから、行ってみたいな」


ポロッと無意識に言葉がこぼれ落ちた。

途切れることなく続いていた会話が、唐突にプツンと切れて、しんと静まりかえる。

誰の声も聞こえなくなった所で、私はハッと我に返った。

もしかして、空気悪くしちゃった……。

い、いや、違うんです!別に悲観的な意味とかそういうのではなく!

単純に好奇心から言葉が自然と漏れたといいますか、なんと言うか!


「シーナ」


「はひ!?ごめんなさい、会話途切れさせて!」


ウィルに名前を呼ばれ、間髪入れずに謝罪する。

けれど、返ってきたのは思いがけない言葉だった。


「長居するつもりはないからな」


「えっ」


「たく、素直じゃねぇなぁウィル。もう少し優しく言ってやれよ」


「まぁまぁ。そこがツンデレぽくていいんじゃない?」


「だから、つんでれって何だよ」


えっと、つまり……。


「海にいけるの?」


ぱちくりと目が大きく瞬きをした。


「そうだ」


ウィルがぶっきらぼうに言い放ち、リークさんと犬堂さんが笑っているのを見た途端に実感が沸いていた。


「海、行けるんだ!」


白い砂浜、青い海、サンサンと煌めく太陽!

異世界の海は私の世界の海と違うのかな、それとも同じなのかな。

考えれば考える程、わくわくが止まらない。


道中は、明日にでも海へ到着するような高揚感が私をなかなか寝かしつけてくれなかった。

何度もウィルに海まだ?って聞いて怒られたりもした。


そして到着したら待ってましたと言わんばかりに、犬堂さんから手渡された水着。

そう、私はシレーナでも犬堂さんの洗礼を受けているのデス。うぬぬ。



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