来ちゃった☆
「さっきは当たって悪かったな」
歩き始めて暫くして、ウィルがぽつりと呟いた。
目線も何処か気難しそうに私を見ている。
「言葉が過ぎた。別にシーナが悪いとか不快な訳じゃないから安心してくれ」
「……私の方こそ、ズバズバ好き勝手言っちゃって、ごめんなさい」
改めてお互いに「ごめんなさい」をすると、少し気恥ずかしい。
いや、少しどころじゃないよ、かなりだよ!!
今考えると、リークさんやライラさんの前で大喧嘩しちゃったんだ。
うう、じわじわ私の心に羞恥心という名のシミが広がるようだよ~~!!
2人とも、早々に忘れてくれると助かるんだけど……。
そうそう、それと忘れちゃいけないのがひとつ。
「あの、リークさんとは喧嘩してるわけじゃないんですよね?」
「リーク?あれは、喧嘩っていうよりも意地の張り合いっていうか……とにかくシーナが想像しているのとはちょっと違う。……ってオイ、お前自分のことよりも俺とリークの方を心配していないか?顔が緩んでるぞ」
「え、そうですか?いや、そうなのかも?」
ウィルに指摘されて、私は思わず自分の顔をぺたぺたと触ってみた。
特別変わった所はないとは思うけど、ほっぺたが緩むぐらいには安心しているらしい。
「別にお前がそれでいいなら、俺達はいいけどな」
「??」
はぁ、と溜め息をつくウィルの横顔は、言葉とは裏腹に現状を楽しんでいるようにも見えた。
「そうそう、オレもウィルも、シーナが心配だっただけだからな」
「わっ、リークさん」
駆け足で追いついてきたリークさんに、背中から肩をガシッっと抱かれて驚いた。
リークさんの大きな体にすっぽりと収まってしまう。
ちょ、ちょっとドキドキしちゃうなぁ。
「おい、離せ。シーナが潰れる」
「んな訳ないだろ」
ウィルとの掛け合いは相変わらずだけど、さっきとは全然違う。
よ、よかったぁ~~。
「心配してくれてありがとうな、シーナ」
そう言いながらリークさんが私から離れると、私はそのたった一言で心の中がぽかぽかしてしまった。
元のリークさんとウィルに戻ったっていうか、腐れ縁とか何だとか色々言ってたけど、友達は大切にした方がいいもんね。
私、ウィルとリークさんが軽口言い合ってるの結構好きだし!
「はいっ!」
満面の笑顔でそう答えると、私を見るウィルとリークさんの顔が一瞬固まったような気がした。
「あ、あれ?どうかしました?」
「……別に」
「いやぁ、改めて自覚してから見ると威力が違うなぁ」
2人の言っている意味が分からなくて頭を傾げていると、トンッと軽くウィルに背中に手を沿うようにして押された。
コテージの扉を開けてくれたリークさんが先に中へ入りながら笑っている。
何だかよく分からないけど、仲直りしたなら問題ないです!
……
「そういえばウィル、さっきライラさんが言ってた『インフィニティセブン』って何ですか?」
コテージに戻り、リークさんに手伝ってもらいながら3人でしていたアイテム整理が一段落ついた所で、私はふと頭によぎった単語を口にした。
ライラさんの旅に同行すれば、インフィニティセブンに推薦できるとかなんとか……。
「あー……インフィニティセブンって言うのはな……リーク任せた」
「お前面倒くさがるなよ……。インフィニティセブンって言うのはな、冒険者連盟が結成した7人のSランク冒険者のことだ。この世界にある7つの大陸からそれぞれ1人が選ばれるんだが、ありとあらゆる好待遇が約束されているんだぞ。別名、この世界の最後の砦」
「へー。その7人に選ばれるのって大変なんですか?」
「多分、シーナが想像している何百倍も大変だ。大陸で一番強い奴がなるようなものだからな」
「一番強い!!それが7人!!」
そ、そんなに凄かったんだ、インフィニティセブン!!
だってインフィニティって言うぐらいだもんね!!
「ウィル、そんなの目指してるの!?」
ライラさんの言葉が本当なら、ウィルはその最強を目指してるってことだ。
驚きと好奇心の滲んだ目でウィルを見ると、ウィルはマイペースに自分のナイフを磨いていた。
「俺じゃなくても、大半の冒険者は目指している。それにシーナ、お前はそのインフィニティセブンの一人にもう会ってるぞ」
「えっ」
まだ異世界に来てから日の浅い私が出会った人となると、随分限られてくる。
しかも冒険者でしょう?ウィルやリークさんは違うし、ユディルさんもBランクって言ってたし……。
「もしかして、アネスさんですか」
「アネスのおっさんも、昔は名の知れた冒険者だったが違う。もっと最初に居ただろ」
「……あ!!」
その瞬間、私の脳裏を生クリーム増し増しイチゴソース添えな甘~い雰囲気をまとったほんわか笑顔が蘇った。
「クレアさん!?」
「正解」
「えっ!えぇ!?でもクレアさん全然ムキムキじゃないですし、巨大でもないですよ!?」
「お前の強いイメージどうなってるんだよ……クレアは7つの大陸随一の腕前を持つ偉大な魔法使いにしてインフィニティセブンのひとりだ。絶ッ対に怒らせるなよ」
絶対に、の部分を念入りに言うウィルの表情は珍しく茶化す様子も皮肉な言い回しも無かった。
ただ、どことなく苦虫を噛み潰したみたいに難しい顔をしている。
なんていうか、心の底からクレアさんのことを……尊敬している?違うな、怖がっている!!
「あんなに美人でほわほわしているのに……」
「確かに美人だが、オレとウィルが本気で勝負を仕掛けても負けるぐらい強いぞ」
「ウィルとリークさんが束になっても勝てないの!?ウィルが……割引されているからじゃなくて?」
「一言余計だ、一言」
す、すみません。怒らないでウィル。
なんていうか、異世界に落っこちた瞬間から最強の人の所に落ちてきちゃったのね、私。
うう、どうせなら私にもそれぐらいのバグがあっても良かったと思うのに。
どうひっくり返っても私のスキルは攻撃的じゃないもんなぁ。
せめて、私も魔法のひとつやふたつ使えたら良かったのに。
まぁ、レベルが上がってレジも少しずつ使いやすくなってきたのがせめてもの救いかな。
和気藹々とそんなことを喋っていると、ボーンボーンと鐘がなった。
一区切りと言わんばかりにリークさんがグッと背筋を伸ばす。
「一旦休憩にしようぜ。特製の紅茶入れてやるな」
「あ!それなら、カレーパン買ってきます!ウィル、行こ!」
「ん?あぁ……」
リークさんの入れてくれる紅茶は最高においしい。
これには焼きたてジューシーなカレーパンをあわせるしかない。
消臭スプレーのおかげで、屋台通りの悪臭は撤去できたから、カレーパン屋さんも復活しているかも。
とろけるチーズとまろやかカレーのハーモニー……思い出しただけでお腹が減っちゃう。
はぁ~ほら、もう既にカレーパンの芳しい香りがコテージの傍にまで漂っているよ。
「何個買っちゃおうかなぁ。とりあえず今食べる分とバックヤードで保管していつでも食べられる用と~」
ルンルン気分で私はスカートのポケットに手を突っ込んで巾着を取り出した。
こんなこともあろうかと!レジで1ゴールドを10シルバーに両替しておいたのだ!
「もう財布出して、気が早くないか?」
「屋台が復活するのを今か今かと待ち望んでたんで。それにほら、焼きたてカレーパンの香りがすぐ傍からするしっ」
「屋台通りからコテージまで流石に匂いは届かないだろ……ん?確かにするな」
下ろしていたフードを被り、ウィルがカウチから腰を持ち上げる。
何だかいつになく、その動作が焦れったく思えて、私はウィルのマントをむんずと掴むと、軽く引っ張った。
そして、ウィルを引きずりながら勢いよくコテージの扉を開く。
「いざ!カレーパンのもと……へ?」
若干の既視感を覚える。
早朝にも、こんな風にコテージの扉を開いて、驚きに固まったのを私は思い出した。
あの時とは違って、暖かな日差しを浴びた銀色の髪がキラキラしている。
冒険者とは思えない刺繍のされたスリーピースの服を着た美丈夫は、両手に紙袋一杯のカレーパンを抱えていた。
「け…けけ……」
にこっと落ち着いた物腰で、動揺する私を見て微笑んでいる。
「犬堂さん!?」
「やぁ、椎名君。君に会いたくて追いかけて来ちゃったよ」




