土俵に乗ってやる
ウィルはまさかこんなにもハッキリと言い返されるとは思っていなかったらしい。
言葉を失って、口を半開きにしたまま私を凝視していた。
まぁ、驚いていたのはウィルだけじゃなくて、リークさんやライラさんもだったんだろうけど。
一番ビックリしていたのはウィルだけど、一番最初に復活したのもウィルだった。
「開き直るなっ!」
「開き直りますっ!あったまきた!!もう我慢しませんから!!」
脳裏を犬堂さんの言葉が蘇ってくる。
『とりあえず椎名君はもっとウィルにわがままを言う所から始めようか。色々我慢している所あるだろう』
あの時、私は的確な指摘に言葉を呑んだ
我慢してた、仕方ない事だって。
人と揉めるのは面倒だから、自分が我慢すればいいって思ってた。
でも、多少の我が儘や無茶は若いうちにやっていくべきって、犬堂さんは笑って言ってくれた。
それがきっと、今なんだ。
だって、これからずっとウィルに気を使ってばかりの旅なんて、いつか限界が来る。
私がシーナとして旅を終える時、楽しかったと思える旅にする為に。
NOと言える日本人になれーー!!鏑木椎名!!!
「私はクレアさん経由ではありますが、ウィルの依頼者です。でも、旅に同行してもらう経緯は自分の所為だって理解してます。だから、私とウィルの立場は同等のはずです!」
「はぁ!?そんな訳っ……笑うなリーク!」
「どっちが偉いとかどっちが悪いとかじゃなくて、協力して一緒に楽しく旅を続けたいんです。だから、私は今からウィルに対する文句を言いますっ!」
ずんずんと、ウィルとの距離を積めるみたいにして進む。
相手の方が身体も大きいし、年齢も上である筈なのに、不思議と今なら勝てる気がした。
自分が凄く強くなってる気がしたんだ。気がするだけなんだけど。
「そもそも、ウィルは優しさが分かり難い!皮肉な言葉で隠しちゃうからすぐ気付けないんですっ。最初に宿屋に泊まったときのだって、部屋を出て行っちゃうし……あれ、私をベッドに寝させる為に出て行ったんですよね!じゃあ一言、ベッド使っていいぞって言ってくれたらいいじゃないですか。後から、もしかしてって気付くから、私ウィルになかなかありがとうを言えないんですからね!」
「傷物……同じ部屋……」
ライラさんの幽霊みたいに震える声が耳に入ってくるけど、私は止まらない。
「……何より、顔が良すぎるんですよ!!!気にしてたらどうしようって、ずっとずーっと言えなかったけど、カッコイイのはカッコイイんだから仕方ないです!!素直に褒めさせてください!」
「お前……だったら、俺だってな!そこらへんの女と違って、顔ばっかり見てこないし、俺に気を使ってこの顔面を褒めてこないんだろうってのが分かってて、気に入ってたんだからな!!」
「顔が良くて優しいのに口が悪いから誤解されるんですよ!犬堂さんもツンデレって言っていたし!少しは素直になったらどうですか!私が不快なら、何で不快かちゃんと言ってくださいよ!そうしたら直そうと努力するじゃないですか!!」
「つんでれって何だよ!別にシーナが不快だなんて言ってないだろ!!」
私に負けず劣らずな勢いでウィルが感情のままに叫ぶ。
連動して、くっきりとした目鼻立ちが細かく動く様はなんとも爽快だけれど、私は今ウィルと喧嘩をしているのだ。
負けぬ、負けぬ~~~!!!
「分かった分かった。2人の言いたいことは分かったから、ちょっと落ち着こうな」
両者一歩を譲らぬまま、顔がくっつきそうな程にウィルと睨み合ってたら、リークさんによって止められた。
大きな掌が私とウィルの肩を優しく包んでいる。
なっ?と笑うリークさんの笑顔に有無を言わせぬ雰囲気を感じて、私とウィルは顔を再度見合わせると、ぷいっと距離を取った。
何だか胸がスカッとしてる。
気持ちもどきどきしていた。
それはウィルも同じだったみたい。
ウィルは自分の胸元をマントの上からぎゅっと掴むと、浅く首を振って、一度だけ私を見た。そして
「あっ……」
微かに笑う様は、優しくて、キラキラしてて、何か特別なワンシーンを目撃したみたいな感動があった。
「あ、あの……わたくしの旅の供は……ウィル様、やはりわたくしと旅をいたしましょう。屈辱的なことを言われ続けるウィル様を見ているのがわたくしは辛いです」
場の雰囲気から完全に置き去りにされてしまっていたライラさんが、愕然とした表情のままウィルの傍へ近付いていく。
だけど、さっきみたいに寄り添おうとした身体を、ウィルは肩に手を添えながら自分から離した。
「聖女ライラ。悪いが護衛は出来ない」
「そんなっ……わたくしの旅に護衛として同行できるのですよ?きっと大きな力になります。ウィル様の目指すインフィニティセブンにも推薦してもらえるかも……」
「……そうだな。でも、もう決めた。俺はシーナと行く」
「なっ……」
「その方が、楽しめそうだからな」
呆然と立ち尽くすライラさんから離れ、次にウィルはリークさんを見た。
挑戦的で、それでいて躍動感に満ちた……そう、燃えた瞳が木漏れ日に煌めく。
「リーク。土俵に乗ってやる、後悔するなよ」
「……上等。そうこなくちゃな。こっちも奪いがいがない」
そしてそれに、リークさんも野性味のある態度で受け止めていた。
同じ土俵?もしかして私が居ない間に2人で何か喋ってたりしたんだろうか。
「シーナ。一旦コテージに戻るぞ、セーフゾーンで購入するアイテムの相談もしたいからな。心配しなくてもカレーパンは後で付き合ってやる」
「えっ!あ、分かった!」
そうこうしている間に、すたすたとウィルはコテージに向かって歩き始める。
さっきとは打って変わって上機嫌なウィルの様子を見ているだけで胸があったかい。
良かった、勇気を出して。
ぶつかるのは凄く怖いけど、でも、これで良かったって思えてくる。
私は、少し歩調が遅くなったウィルを小走りに追いかけた。
「どうして……なぜ、聖女であるわたくしよりも、あんな地味な女に……あぁ、リーク様!どうか、わたくしの護衛になっていただけませんか、そうすれば、すぐにSランクに昇級できます。それにリーク様がウィル様を説得してくだされば、きっとウィル様もわたくしの護衛になることを考え直してくださると思うのです」
「オレ?オレは悪いがパス。好きでAランクに留まってる所もあるし、聖女の護衛なんて長期の依頼は自由が無さ過ぎるからなぁ。行動範囲が狭まるのは困っちまう」
「でも先ほどシーナ様の護衛を受け持とうと……」
「あれは、それ以上に見返りがあるからだ。……あと、人を突き飛ばしたら、ちゃんと謝ろうな聖女様」
「っ……!」
「じゃあな、巡礼の旅、気を付けてくれ。おーい、シーナ、ウィル。待ってくれ!」
「……あの女と旅をした方が楽しめそうだから?わたくしとの旅以上に、あの女との旅の方が見返りがあるから……?そんな筈ありません、だってわたくしは尊ばれる聖女ですのよ!?嘘、嘘に決まっています!!こんなの、ありえませんーーー!!!」
明日の夜もアップ予定です




