胸の痛みと聖女の企み
感動の再会って言葉がよく似合うワンシーンだった。
突き飛ばされて地面に尻餅を付いている私が見た景色は、キラキラとエフェクトが掛かっているぐらい眩しい。
「お前っ……いや、聖女ライラ」
「覚えていらしてくださったのですね。ウィル様。あぁ、こうやってまたお会い出来るなんて夢にも思いませんでした」
完全に意識が外へ向いていなかったのか、突然抱きつかれた方のウィルは最初こそ驚きに身体を強ばらせていたけれど、すぐに我に返って何か喋ってる。
それにしても、す……凄い、美男美女だ。
まさに守ってあげたくなるぐらい清楚で可愛い美少女と欠点が無いんじゃないかってぐらい整った顔をした王子様が一緒に居ると、完璧+完璧??超スーパー完璧???
なんて言うんだろうか、あぁそうそう!理想のカップル!!
ずきっ
あれ、今何だか胸が痛んだような。
ぶつかった拍子に何処か痛めたのかな。
「ウィル様、こちらの方は?」
「……シーナだ。俺の依頼者で護衛対象だ」
「まぁ……」
急に話題を振られ、私は慌てて立ち上がる。
お尻を叩きながら土を払っていると、ぴっとりとウィルの身体に寄り添うみたいにして抱きついていた美少女が、おもむろに天使みたいな笑顔で私の前までやってきた。
「初めましてシーナ様。わたくし、ライラと申します。助けを求める人の為に聖女として巡礼の旅に出ております。どうぞ、よろしくお願い致します」
「はわわ……」
スッと両手でスカートの裾を軽く持ち上げ、軽く会釈をする姿に私は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
カーテシーって言うんだっけ?
そのお辞儀をする姿はもう童話に出てくるお姫様そのものって感じ!!
ううう、平民には眩しすぎます、聖女様!
ん?聖女様ってことは……。
「本物!?」
「え?」
「ゴホン!!あー……こんな所で合うなんて奇遇だな。1年ぶりか」
ウィルが咄嗟に話題を変えてくれて本当に助かった。
あのまま会話が続いていて、私の言葉の意味を問われたら、変にごまかしようがなかったし。
それにしても……聖女様。うわわああ本物だ。
確か、巫女と同じように神聖魔法を使うことの出来る選ばれた人でしょう?
それにライラさんって何処からどう見ても綺麗だし、聖女様じゃん!
異世界人だってバレないように、その場しのぎで巫女を偽った私と全然違うっていうか、本家本元だ!
「もっとです、ウィル様。2年半年ぶりです。たった一週間でしたが、貴方程優秀な冒険者は居ませんでした。セーフゾーンがモンスターに襲われていると聞いて駆けつけたのですが、貴方やリーク様が居たと聞いて、とても安心しました。お二人ならば、皆を救ってくださると信じていたのです。やはりウィル様はわたくしの見込んだ方ですね」
胸の前で手を重ね、祈るように言葉を紡ぐライラさんを見て、私は感動した。
危険を冒してまで誰かを救う為に常に行動し続けるなんて、とても凄い人なんだな。
同時に、旅の意味にちょっとだけ、本当にちょっとだけど、差を感じてしまった。
だって、人を救う為の巡礼の旅と、物見遊山気分で首都へ向かっている私の旅とでは全然重みが違うんだもん。
キラキラが眩しい……ちょっとだけ下を向いててもいいよね。
大切な話の邪魔はしたくないし。
「……ウィル様。どうか、再びわたくしの旅の護衛をして頂けないでしょうか。巡礼の旅は危険です、わたくしも細心の注意をしながら進んでおりますが、先日わたくしを守る為に冒険者の方が怪我を……怪我をしてでも護衛を続けようとする彼をなんとか説得してトータで療養させているのですが……やはりひとりは不安で」
「それは災難だったな。だが、俺は別件で任務中だ。ライラの依頼は受けられない、冒険者連盟に言って新しいSランク冒険者を派遣してもらって……」
「あぁ!そうでしたね……わたくしとしたことが。シーナ様を守るという大切な使命がウィル様にはあったというのに……自分の事だけを考えて」
「えっ」
「シーナ様、ごめんなさい。わたくし巡礼の旅なんてものに出ているのに何時までたっても外の世界が恐ろしいのです。だから、ウィル様が傍に居てくれたら、どれだけ安心かと思って、つい。本当にごめんなさい、恥ずかしいわ」
ウィルの言葉を遮るようにして、ライラさんが沈痛な面もちのまま震えた声を漏らす。
華奢な肩が釣られるように小刻みに揺れていた。
彼女にはきっとウィルのような強い人が必要なのかもしれない。
私と違って、それに相応しい旅の理由があるんだし。
ウィルと知り合いみたいだし、やっぱりそういった人を頼りたくなるよね。
「……ねぇウィル、ライラさんの護衛をしてあげてよ」
「急に何言ってるんだ」
「だって、巡礼なんていう凄く重要な旅をしているのに、護衛の人が居ないなんて大変だよ!それに凄く怖いのも私わかるもん」
「聖女には冒険者連盟から無償で護衛が就く。別に俺じゃなくても安全なんだよ」
「でもライラさんはウィルを信頼して頼んでるんでしょ?ここで出会えたのも何かの運命だよ」
にこっと笑顔でウィルに言うと、ウィルは露骨に眉を潜めた。
な、何で怒るの!?あ、半額の件か!
「半額……あ、いや。例の件は私が首都に向かいながらレベルをあげて、直す方法を見つけたら連絡を入れるから安心して……」
「……俺がお前の護衛から離れるとして、お前はどうするんだよ」
ゾッとするぐらい冷たい声で問われて、私は思わず身が竦む。
ウィルは凄く、凄く怒っていた。
それなのに声は氷みたいに冷ややかで、そのギャップに感化されて指先がぎゅうと冷たくなった気がする。
ごくりと喉を唾が通った。
「私は……」
全然考えてなかった。
ウィルが居なくなったら、見知らぬ土地で1人ぼっちになってしまう。
不安だけれど、でも。
私はただの旅なんだよ、ウィル。
世界を救う旅に居た方が、絶対にウィルはお似合いだよ。
「わ、私はリークさんに護衛をお願いしてみるから。大丈夫っ!」
精一杯の明るい声で私はウィルに向かって言った。
その瞬間、
「っ!絶対に駄目だ!!!!!」
ズイッと延びてきたウィルの腕が、私の腕を痛いぐらいの力で掴んできた。




