俺の事どう思う
「これをこうして吹きかけたら、穢れは払えると思います。ひどいものには多めにかけてくださいね」
説明をすると、神妙な面持ちで頷くユディルさん。
「ユディルさん、今度はこのプリメロがユディルさんに変わって」
「いや、これは僕がやる。プリメロとセグンドは何かあった時の為、後ろに居ろ」
あ、またユディルさんが一人でしちゃうんだ。
こういう時って身分がある人は人任せにするイメージあるのに。
そんな風に思っていると、セグンドさんがこそっと耳打ちをしてきた。
「あの~前の時も聞きたかったんスけど、あれ、ユディルさんに害はないっスよね」
「えっ、もちろんです。私も使ったけど何ともないですし」
「それを聞いて安心したッス。まぁうまくやっときますんで」
「プリメロ、セグンド行くぞ。では巫女様、この大役、アロ家のユディルが承りました!」
ユディルさんのオーバーな態度は、皆が私という興味対象から移るには十分過ぎるぐらい迫力があった。
アロ家の人間って周囲はザワザワしていたし。
えっと……確か、エメラルド鉱山主?だっけ??
ウィルもアロ家は知っていたし、有名なお家なんだなぁ。
とにかく、なんとかその場を後にした私とウィルは、予定よりも少し早いけれど、コテージへ戻ることにした。
もちろん道すがら、自分用に精算した消臭スプレーを吹き付けながら。
ほとぼりが覚めるのを少し待って、もう一度カレーパンを買いに行こうかな。
ユディルさんに渡した消臭スプレーはその時回収しちゃえばいいや。
「ウィル、また後でカレーパン買いに付き合ってくれる?」
「いいぞ。面白いものが見れたしな」
「面白いものってユディルさんのこと?一応言っとくけど、私の世界の物を渡す人を選んでるって意味では、ちゃんとユディルさんを信頼して貸してるんだからね」
シュッシュッと空中に向かって消臭スプレーを吹き付けながら言うと、ウィルは意外そうに目を丸くしていた。
あっ、さては私が考えもなしに貸していると思ったな~。
「何も考えずに、あの場から逃げたい一心で渡したのかと思ってた」
「そ、それもちょっとあるけど。ユディルさんなら、大丈夫かなって」
ユディルさんって傲慢で我が儘だけど、一緒に居るプリメロさんとセグンドさんの様子を見ていると、完全に悪人とは思えないんだよね。
何て言うか……悪い人って言うより嫌味な人って言う感じ。
蚊取り線香だって、私が台座を渡しておけばよかったんだろうけど、全部燃えてなくなるまで手に持って、しかもそれを召使いである2人には危ないからって渡さなかったんでしょう?
何となくだけどプリメロさんもセグンドさんも、ユディルさんを大切に思ってる感じはするし。
あの3人の関係も謎だけれど、どうにも嫌いになれないというか……。
「へえ」
「……ん?」
頭上から少し冷めた声がして、私はウィルを見た。
フードの隙間から見える顔は相変わらず麗しいけれど、どことなく眉間に軽くシワが寄っているような。
「あの成金野郎を信頼している、か」
ん????
盗み見ていた横顔が不意にこっちを向いた。
その端正な顔はどことなく不機嫌を隠し切れていなくて、私をじっと見つめてくる。
もしかして、ウィル。
「拗ねてる?」
「……拗ねてない」
え~!!!絶対拗ねてる!!!!
不機嫌そうな表情なんて言うより以前に、ムスッとした顔付きに気付いてしまった。
やっぱりウィルって思っていた以上に表情がコロコロ動く。
いや、元がすごくすごーーーく良いから、黙ってても完璧なんだけど。
何だか完璧すぎる容姿にもこんなあどけない所があるんだ、と再確認できる気がして、私は顔が緩むのを止められなかった。
「拗ねてますっ!えへへ、心配しなくてもウィルにも貸しますから!」
「は?」
「ウィルも消臭スプレー貸してくれって言ってたのに、ユディルさんにだけ貸したから拗ねているんですよね?」
「……」
急にウィルが動かなくなる。
図星を突かれて驚いたのかな、完全に虚を突かれた猫みたいに固まっている。
暫くして、溜め息と同時にようやくウィルが動く。
やや煩わしげにフードを下ろすと、私と向き合うようにして立った。
おお、外でフードを外すの珍しい。
くすんだ金髪が日光で光ってて、やっぱり綺麗だって思っちゃう。
そして、きらきら光る金髪に彩られるようにして、深いエメラルドの瞳が真っすぐこちらを見た。
「おい。俺の事どう思う」
「どう思うって……えっと、凄い冒険者、とか?」
急に何?でも、なんだか真剣な様子だし、大事なことなのかな。
「そういう事じゃなくて、俺個人についてだ」
「えっ、ええ……」
顔が良いですね。
あぁ、でもウィルって自分の顔がコンプレックスって言ってたし、本人もそういうことを聞いているんじゃないよね。
じゃあ、多分……。
「信頼してます」
「……」
「まだ出会って間もないですけど、凄く迷惑を掛けちゃったのに、ずっと傍に居てくれて心強いというか。トータで助けてもらった時みたいに、ウィルと一緒なら、元の世界に戻る瞬間まで大丈夫なんだって思ってます」
少し気恥ずかしくもあるけれど、感謝の言葉は絶対に伝えるべきだってのは私の信念だ。
だから、包み隠さず今の気持ちをウィルに伝えた。
それがウィルの聞きたかった答えなのかは分からなかったけれど、僅かに表情が和らいだのを見て、間違ってはいないのかな?って感じた。
ずっと黙っていたウィルが口を開く。
「……昨夜、お前リークと何話していたんだ」
「ウィル起きてたの?えっと、リークさんのご実家が」
「茶葉農家だろ。そうじゃなくて、あの運び屋の時も」
何か言いたそうに少し俯くウィルの声が聞きたくて、私は一歩近づいた。
「俺は……」
「ウィル様っ!!」
その言葉を途中で無理矢理遮るみたいにして、女性の声が周囲に響いた。
振り返る間もなく、私をドン!と跳ね飛ばして駆け抜けていく。
そして、
「ウィル様!ようやくお会いできました……!」
凄く綺麗な美少女がウィルの身体にひしっと抱きついていた。




