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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第二章 セーフゾーンと恋心
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セーフゾーンの汚れを浄化します



「なんだか臭います」


「犬かよ」


「ち、違いますー!!なんだか変な臭いがするんですー!!」


くんくんと鼻先を動かしていた所へ向けられる鋭いウィルの指摘。

犬じゃないもん、と振り返った視線の先には、昨日の騒動で荒れた屋台通りがあった。


被害は最低限で済んだけれど、全くスイートビーが入ってこなかったって訳でもなくて。

多少の交戦はあったらしく、所々で木々が倒れたりしていた。

今朝から冒険者連盟の職員さんが慌ただしく片付けに奔走してる。


朝食後「セーフゾーンを出る前にもう一度カレーパンを食べたい」って言うと、ウィルが付いてきてくれた。

本人は外の様子を確認するって言っていたけど、ウィルが文句も言わず自主的に付いてきてくれるの、ちょっと珍しい。

リークさんは、さっきの手紙の返事があるのと、また別の用事があるとかで今は別行動。

ちなみにリークさんが作ってくれたご飯はとても美味しくて、特にハーブが入った、ぷりっぷりのソーセージが最高でした!


コテージを出て外を少し歩いてみたけれど、残念ながら屋台はまだ再開していなかった。

それよりも、この鼻の奥に直接くるような臭いの方が気になるっていうか……。


「ウィル、臭わない?なんか……牛乳を拭いた後の生乾きなぞうきんみたいな」


「例えが分かり難い。あと、その臭いはモンスターの血で土地が汚れた臭いだ」


「死んだモンスターの臭いってこと?」


「ちょっと違うな。死体は燃やしたらそこまで臭くないが、土地が汚れた場合は異臭を放つ。これは時間経過で土地が綺麗になるか、神聖魔法で浄化しないと治らない。そうだな……3日ぐらいか」


「3日!?」


そんなぁ!

3日もこの臭いが屋台通りに充満しているなんて地獄でしかないよ。

こんな臭いのキツい所でご飯なんて食べられないし、長時間滞在していたら気分すら悪くなりそう……。

うう、出る前にカレーパンを買いだめしたいって思っていたけど、3日もかかるなら先にセーフゾーンを出ちゃうよ~~。

なんとかして、この臭いを消すことができないかなぁ。


「あっ」


ぴこーん!と私の頭の中で名案が浮かんだ。

私は神聖魔法なんて力は仕えないけれど、スキルでそれに似た物を持ってくることが出来るじゃないか。

そして、その中には、この強烈な悪臭をなんとかする商品がある!


「ウィル!ちょっと見張ってて!バックヤード入りまーす!」


そうと決まれば善は急げ!

木の陰でバックヤードへのスイングドアを出した私は、さっそく中に入ってソレを精算した。


「早かったな。それ、昨日クイーンビーを倒していたアイテムか?」


「それとはちょっと違うんですよ」


レジ袋から取り出したソレを見てウィルが怪訝そうにしている。

ふふふ、これはね、別の物を撃退するスプレーなんですよ。


花柄が描かれた半透明なボトルに張られた商品ラベルには、


≪除菌・消臭スプレー 弾けるシトラスの香り≫


と大きく印字されている。


そう!

室内をいい香りにしたり、ウイルスを除菌してくれたりする消臭スプレー!

これで消臭して良い匂いで上書きしてしまえばいいのだ!


「いざ!カレーパンの為に!」


さっそく私は、近くの臭いのキツい木の幹や、緑色のシミができている地面に向かって、シュッと消臭スプレーを噴射した。

霧状になったミストが周囲に溶けるみたいにして消えていく。

同時に、さわやかなシトラスの香りが悪臭を飲み込んでいった。


「やったーー!効いた!!」


「……臭いが消えた?香水でも振ったのか……それにしては、元の汚れた臭いが全然しないな」


「ふふふ。そうでしょうそうでしょう。これ、私の世界で部屋を良い匂いにしたり、服に付いた悪臭をとるやつなんです。しかも、細菌とかも綺麗にしてくれるんですよ」


「へぇ、細菌系のモンスターにいいな。俺にも売ってくれ」


「そ、そこまで効くかどうかは、ちょっとわかんないです」


細菌系のモンスターとかいるんだ……でも流石に家庭用の消臭スプレーでモンスターを倒せるかどうかはちょっと微妙な所かも。

いや待てよ。

ハチスプレーでもしっかり退治することが可能だったんだから、その細菌系のモンスターも倒せるの、かな?


「あれ、モンスターの汚れが消えたぞ」


「どういうことだ、冒険者連盟の奴が聖水を掛けてくれたのか」


「ケチな連盟がそんなことする訳ないだろ」


「でも、これで店が出せるんじゃないか。やったぞ!」


屋台通りで店をやっていたおじさん達がぞろぞろと出てきて喋っていたかと思っていたら、その視線が一斉に私を見た。

突然の眼力にビクッと肩が跳ねる。


「もしかして……アンタが」


「えっ、あ、えーと……私……」


「そうだ。巫女様の力が注がれた神具の力だ。感謝しろよ、お布施は受け付ける」


「え!?ちょっとウィル!?」


「おおお!やはり!!」


「昨日の襲撃を救った巫女様っていうのは嬢ちゃんのことだったんだな!!」


ありがとう、と野太い声と同時に丸太みたいに太い手を祈るみたいに胸の前にやりながら、おじさん達が私とウィルを囲む。

や、屋台の店員さんなのに身体が大きいんですね!?

何だか複数枚の壁に囲まれているみたいだ。


やんややんやと盛り上がった騒ぎを聞きつけて、屋台のおじさん達以外にも冒険者や冒険者連盟の職員さん達まで集まってくる。

すぐに屋台通りは人盛りが出来てしまっていた。


「あれが噂の巫女様?」


「何でもウィルさんとリークさんが手間取ったクイーンビーを、たった1人で倒してしまったらしい」


「あの大型モンスターを1人で!?」


「聖なる力で空を飛んだそうだ」


「このセーフゾーン全体を覆う巨大な煙の結界を張っていたのを見たぞ」


あわ、あわわ……何だか、話が盛られているような気がするんですけど……。

あ、握手!?そんな握手をするような人間じゃないです。

神具は売れないです、ごめんなさい!

何ですかそれ、お布施!?大丈夫です、気持ちだけで十分です!!

ちょっとウィル受け取らないで!!


あああ、色々な人に囲まれて目がぐるぐるする。

カレーパンが食べたくて、臭いの元凶を消しただけなのに、何だかとんでもないことになってしまった。


「ほらほら、退いた退いた!アロ家のご登場だ」


ざわざわと人で作られた壁を左右にザッと割る傲慢な声。

胸の前で腕を組み、堂々とした態度で私を真っ直ぐ見つめてくる笑顔は人によっては酷く苛立つ表情なんだろうけど、私にとっては違った。

そう!この状況で、ユディルさんは最高のタイミング!


「ユディルさん!!」


天にも縋る思いで、私は笑顔で一気にユディルさんの元へ駆け寄った。

思わぬ反応の早さに、ユディルさんの表情が分かりやすく緩んでいるのが見える。

若干罪悪感が沸くけれど、ユディルさん、お願いします!!


「あぁ、よかった。ユディルさんのことを探していたのです」


「僕のことを?」


私の精一杯の演技力を持って厳かなイメージを出すべく、私は必死になって丁寧な言葉使いを意識する。


「はい。実はこのセーフゾーンの汚れを浄化する為に新たな神具を作ったのですが、私1人での力では全て回りきることが出来ず……どうかユディルさんに手伝って頂きたいのです」


「どうして僕が」


「この神具ショーウシュウスプレー……いいえ、これに限らず神具は巫女の力を込めた特別な物。信頼のおけぬ方には預けられません。ですが、カトーリセンコーウを最後まで持つことの出来たユディルさんなら!!」


「……」


「駄目でしょうか、もちろん無理にとは言いませんので」


ちょっとわざとらしすぎたかなぁ。

演技に関しては素人だし、あまりにも露骨過ぎると、流石のユディルさんも気付くのでは。

チラッ。


「……まぁ、僕程に優秀な冒険者であれば、信頼する気持ちもわからないでもないさ。だって、僕は誰よりも頼れる貴族だから!それに巫女様の切なる願いを無碍にするなんて男のすることじゃないからね」


「流石ユディルさん!!なんて立派な志なんでしょう!」


「流石ユディルさん!!こんなに完璧な人間はいないっスよ!」


「よせよ。本当のことを声高に喋るのは。照れるだろ」


ちょ、ちょろかったーーーーー!!!!!

相変わらず後ろでプリメロさんと、セグンドさんも持ち上げてくれている。

あぁ、ユディルさん本当にごめんなさい。

後で騒動が収まったら私も手伝いますから!!!!今だけは、許してください!


「では、これを」


そっと、手にしていた消臭スプレーをユディルさんに手渡す。

ただのスプレーを両手で割れ物みたいにそっと受け取るユディルさんを見たウィルが、私の後ろで笑いを噛み殺していた。


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