【別視点】聖女ライラ様の巡礼記
今回は別視点でのお話です。
巫女や聖女とは、古き神の時代から残る神聖魔法を操ることの出来る者達の事をいう。
傷の回復、病気の治癒、汚染の浄化。
おおよそ攻撃的な力とは縁遠い、究極の癒しとも称される、その力を使うことが出来る人間はすなわち、尊ばれ、尊敬されるべき存在だ。
ライラは、そんな選ばれた人間の1人であった。
透き通るような白い肌に金茶の髪。
瞬きをする度にこぼれ落ちてしまいそうな程に大きな、薄いピンクの瞳。
唇はさくらんぼのように赤く小さく、愛らしい小動物を思い浮かべる。
白と青の修道服に身を包んだ少女ライラは、まさに「完璧」な聖女であった。
「ライラ様。もうすぐセーフゾーンに到着するかと思います」
「あぁ、予定より早く到着出来そうですね……皆が無事であると良いのですが。わたくしがもう少し早くスイートビーの襲撃を知っていれば……」
「ライラ様っ!貴女様は何も悪くございません!現に今、全てを犠牲にして彼らを助けに行こうとしているじゃないですか!」
「……ありがとう、選択を誤った私に貴女は優しいのですね」
侍従の女性が必死に励ますと、憂いに顔を伏せていたライラは涙に塗れた瞳をうっすらと細めて儚げに微笑んだ。
二頭の馬に引かれた馬車は高速で街道を走り、モンスターの襲撃に合ったセーフゾーンへ急いでいた。
巡礼の度の最中、トータの街でセーフゾーンに向かうスイートビーの群を見た彼女は傷付いた冒険者を救う為、その聖女としての覚悟と使命を胸に街を飛び出したのである。
そう、
(あぁ、どうして普段は全然早く進まない癖に、こういう時だけは仕事をするのかしら。早く到着して、まだ決着がついていなければ面倒なだけではありませんか)
巫女としての、とてもとても強い自尊心と共に。
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生まれは、マクスベルンの地方都市。
良い所も悪い所も中途半端な街が余所に誇れる所があるとするならば、わたくしの生まれ故郷ということぐらい。
選ばれた人間だけが使用を許された神聖魔法を複数種類使用できるわたくしは、まさに聖女と呼ぶに相応しい人間でした。
そんなわたくしが、地味な地方都市で貧乏人相手に無償で施しを与えてあげるなんて、勿体ないと思いませんか?
わたくしは、それこそ世界の損失だと思ったのです。だから巡礼の旅に出ることにしました。
無数の人がわたくしを褒めたたえ、時に拝み、時に愛しさえした。
なんて素晴らしい人生。
わたくしはこの神によって与えられた特別な力を使って、死ぬまで全ての人間にちやほやされ続けたい。
最終的に、わたくしは自分の名を称した教会を建てるのが夢なのです。
わたくしが死んだ後も、この土地にライラの名が残り続けるなんて、本当にうっとりとしてしまいます。
今回だって、セーフゾーンが襲撃されたと聞いて、なんて良いタイミングなんでしょうと思いました。
最近は大きな街から街へ移動していたこともあって、巫女としての力を振るう機会に恵まれていなかったけれど、戦闘後のセーフゾーンともなれば話は別。
怪我人は勿論、戦闘によって汚染された地上を神聖魔法で浄化させることが出来れば、誰もがわたくしを褒め称える。
あぁ、今からその時が待ち遠しい。
馬車を降りた瞬間、巫女様巫女様とセーフゾーンの職員が私に駆け寄ってくる。
そして、傷付き疲労する彼らにわたくしは優しい言葉を掛けてあげるのです。
「もう大丈夫ですよ。わたくしが皆様を癒してさしあげま……す」
計算され尽くした聖母スマイル。
停車した馬車からそれを携えてセーフゾーンに降り立った。
……だと言うのに、誰もわたくしを出迎えない。
そう、誰も!誰ひとり!
馬車を見て駆け寄ってくる者も、縋るような目でわたくしの姿を捉える者も、誰も……どういうことですの、もしかして、想像以上に死傷者が出ているとか
いいえ、だとしたら余計に癒しの力を持つ巫女を尊ぶはず。
いったい何が起きていますの。
「あれ、もしかして巫女様か聖女様でしょうか」
呆然と馬車の前で立ち尽くすわたくしの元に1人の職員がやってくる。
ようやく来ました!遅いにも程があります。
彼には後でお仕置きが必要です……あぁ、でも今はとりあえず、使命を果たさなければ。
「はい。わたくしは聖女ライラ。トータの街でセーフゾーンがモンスターの襲撃を受けたと聞いてやってまいりました」
「なんと!ありがとうございます、聖女様が来て頂けるなんてなんと心強いことか!」
ふふ。そうでしょうそうでしょう。
もっとわたくしを褒め称えて頂けますでしょうか。そうすればお仕置きを回避させてあげてもいいですよ。
「ですが、今回は手を煩わせることはないかと」
「……今、何と?」
「実は、Sランク冒険者であるウィルさんとAランク冒険者のリークさんが中心となってモンスターは最小限の被害で討伐することができたんです」
「まぁっ。それは神のお導きがあったのですね。なんという幸運でしょう」
まったくもって、幸運ですわ。
Sランク冒険者のウィルと言えば、わたくしの一番のお気に入り冒険者。
何と言ってもその見目麗しい容姿は人々を魅了し、宝石のように輝くエメラルドの瞳はこの世界で希少な存在。
加えてSランク冒険者という実力と、最も偉大な魔法使いクレア様との繋がりもある。
美しさと強さを兼ね備えた、わたくしに相応しい男性です。
それにAランク冒険者のリークも、界隈では有名な実力者。
連盟からの信頼も厚く人望もさることながら、意外と知略にも富んでいると聞きます。
容姿も十分合格ラインですし、何より彼が持つ黄緑の髪は聖女の横にいてこそ、更に輝きを増すに決まっています。
緑を体に持つものは尊ばれることが多く、信仰者もきっと増えることでしょう。
だからこそ2人を横に置くことで、更にわたくしが輝ける事と思い冒険者連盟を通して護衛の依頼をお願いしているのに、ずっと断り続けられていました。
でも、直接……いいえ、わたくしと出会ったのならば、自ずと自分から護衛を申し出たくなるはず。
あぁ、面倒くさがらずにセーフゾーンへ来て良かった。
「ではせめて、土地の浄化だけでも。誇り高くモンスターと戦った彼らが少しでもこの地で疲れを癒せますように」
「いえ、それも大丈夫なのです聖女様」
「え……?」
「実は、別の巫女様が先に来ておりまして。スイートビーの退治を手伝って頂いた上に、セーフゾーンの浄化を全て済ませてくださって」
他の巫女ですって?
どこの馬の骨……ゴホン、失礼。
セーフゾーンが襲撃されたのは昨晩と聞きました。
まだ次の日の昼間だというのに土地の浄化が済んでいるなんて、そんなはずありません。
わたくしでも、この広さを浄化するとなると1日は掛かります。
あぁ、では。きっと偽物ですね。
なんてこと。
巫女の名を語るなんて、何処の馬の骨かしら!!!
……あぁ、ゴホン、失礼しました。
これは、問い質さないといけませんね。
通常版の続きは明日アップ予定です。




