ベッドは2つあるんだから別にいいだろ
「いやぁ、こんなに美味い物は初めて食べた。もう腹いっぱいだ」
「本当に沢山食べましたね」
自分のお腹を撫でながら満足そうに呟くリークさんの前には空になったカップ麺の入れ物が5つも重なっている。
勿論、沢山食べたのはリークさんだけじゃなくて、私も3つ食べたし(その内の1個はウィルが半分ぐらい食べちゃったけど)ウィルも4つ食べている。
汁まで綺麗に飲み切って、入れ物だけがトーテムポールみたいに積み重なった状態だ。
うーん、壮絶。
それにしても、いくらお腹が空いていたからって、自分がカップ麺を3つも食べられるとは思わなかった。
なんなら、まだデザートぐらいなら入りそうな気分。
私ってこんなに食欲旺盛だったっけ??
「どうした。もっと食べたいなら、俺達に遠慮して食べるのを抑えなくても良いんだぞ」
空になったカップ麺の入れ物を見ながら考え込んでいると、ウィルが相変わらずの綺麗な顔で皮肉を言ってくる。
「いや、流石にもうラーメンは入らないですけど……なんていうか、異世界に来てから異様にお腹が空くんですよね。食べる量も増えたし、病気か何かなのかなってちょっと不安になって」
「あぁ、それは多分スキルを使ったからだな」
「スキルを使ったらお腹が空くんですか?そういえばウィルもよく食べてるような……」
「ウィル、お前シーナにスキルの説明してないのかよ」
あっ、ウィルが、黙り込んでそっぽ向いた。
絶対忘れてたとかそんなんでしょ~~~!!
リークさんが突っ込みを入れてくれたけど……そういえばスキルの事ってよく知らないや。
異世界人は固有のものがあるって聞いたけど、お腹がすくのも関係があるなんて!
これはぜひ聞いておきたい!
「リークさん!教えてください!」
「良いぜ。でもそれを話すには、まずこっちを説明しとかないとな」
思わずお願いすると、リークさんが少し誇らしげに頷きながら人差し指を軽く立てる。
そして、何か呪文のようなものを呟くと指先に小さな火が灯った。
おお~!何も無い所から火が出るなんて、神秘だ。
「オレやウィルが使う魔法や技ってのは、大陸に宿る精霊や大地の力を汲み上げて使っているんだ。そして、未だ謎が多い神聖魔法やシーナ達異世界人が主に使うスキルは、かつて大陸に息づいていたと言われる神の残した力を借り受けることで使っている。分かりやすく言うと、オレやウィルは地面から、シーナは天からエネルギーを受け取って使ってるってことだな」
「へ~。神様とか精霊とか本当に居るんですね。流石異世界」
「こっちからしたら、そっちの世界の方が異世界だけどな……まぁ、精霊はギリギリまだ存在しているが、神様なんて存在は既に失われてる。信仰として概念が残ってるぐらいだ」
確か、ウィルの目やリークさんの髪が縁起物をして見られる原因が、神様が最初に作った宝石であるエメラルドで「緑」を「縁起物」として見るから……だったよね。
てっきり空想上の生き物なのかと思ったけど、こっちの世界では神様っていう存在がしっかりと生きていたんだ。ほうほう。
「技や魔法は死にものぐるいで鍛錬すれば大なり小なり何かを使えるようになるが、神聖魔法やスキルっていうのは完全に才能だ。使えない奴は一生無理だ。だからこそ巫女は尊ばれ、異世界人は唯一無二の強さと神秘さを持つんだな」
「えっ……もしかして、私って結構貴重な人だったりしますか?」
思わずリークさんに問いかけると横からウィルが口を挟んできた。
「そりゃお前、政府や冒険者連盟、そして多趣味な豪族。皆、喉から手が出る程欲しいさ」
な、何でそんなニヤリって笑いながら言うのウィル!
絶対私を脅かそうとして大げさに言ってるでしょ、そうなんでしょ!?
うわーん!こういう時に限って何も言い返してこない~~!!
「まぁ、ウィルの言う事も間違っちゃいない。だからシーナは自分の身の危険に本当に気を付けるんだぞ。
ゴホン……話は戻るが、大陸の力を借りるにしろ神の力を借りるにしろ、借りたエネルギーはオレ達の身体で再構築される。その際、身体は物凄い勢いで体力を使う。そして、身体は無くなった体力を補おうと……」
「ご飯を食べようとする!」
「そういうこと。だから、スキルを使うと腹が減る」
なるほどなるほど。スキルを使った時の、エネルギーの回復ってことなんだな。
確かに、ぐうぐうお腹が鳴る時は決まってスキルをばんばん使っていた時のような気がする。
「分かりました~ありがとうございます!」
ううん……それにしても、神様とかスキルとか、ちょっと難しい話を聞いてたら眠たくなってきちゃった。
少し目を擦ると、とろんとした目がバレてしまったのか、リークさんが仕方ないなという風に微笑みかけてくれた。
「眠そうだな。今日沢山頑張ったもんな。後の片付けはしておくから、シーナは先に寝ていいぞ。寝室は奥の個室だ」
「……うう、すみません」
「そんじゃ、俺も寝るわ」
「おう、毛布はカウチの上に……待て待て待て!!」
のろのろとした歩調で奥の部屋に向かう私を、ウィルが追いかけてくる。
それを、リークさんが慌てて止めた。
止められた当の本人は、何故呼び止められたのか理解出来ていないのか、どことなく不服そう。
ウィルも結構眠いのかもしれない。
「何だよ。まだ何か用でもあるのか」
「何だよ、じゃない。お前、今寝室に行こうとしてなかったか?」
「は?……ベッドは2つあるんだから別にいいだろ」
「そういう問題じゃない!シーナが寝るだろ!!」
「だから?」
「あのなぁ、シーナは若い女の子だぞ。一緒の部屋で寝るのは良くないだろ」
「あいつ17だぞ?何かあるわけ無いだろ。それに、経費節減で基本的にいつも部屋は同室にしている」
「はぁ!?そこは別々にしてやれよ」
「野宿は隣で寝てるのに、今更だろ」
「お前……そういう所だからな」
怒涛の攻防をぼんやりと眺めながら、もう一度私は目を擦る。
そりゃまぁ、最初は嫌でかなり動揺したけど、寝ることに関しては慣れたっていうか。
ずっと一緒だからかな。
それより、そこまで全力で何も起きないって言わないでもいいじゃないですか……。
確かにウィルはボインバインなお姉さんが好みだって言ってたけど。
私だってもう2、3年したら、きっとセクシーなお姉さまになるんだから。
その為に必要な睡眠……あ~~!!駄目だ!眠い!!!
「リークさん、もう慣れましたよ~。って事で限界なので寝ます。ウィル、パジャマに着替えたいから一緒に寝るなら5分だけ待って入ってきてね」
「おう、靴脱ぎ忘れずに寝ろよ」
「うう、分かってますよぉ。おやすみなさ~い」
あっけにとられるリークさんと、いつもの様子のウィルを尻目に、寝室のドアを閉じる。
手早くパジャマに着替え、ふかふかなお布団に喜びながら目を閉じた。
ドアの外ではまだ攻防が続いているようだけど、私はすぐに深い眠りについてしまった。
「……一緒に……寝る!?」
「一緒の部屋だって事だろ。っていうか、依頼者には手出さねぇよ。冒険者連盟にクレーム入れられたら、たまったもんじゃないからな」
「そういう問題じゃねぇ!!そもそもお前、依頼者と女性関係で揉めたってよく話してるじゃねえか!」
「向こうから誘ってくる分はノーカン」
「ぜっっっったいに、シーナと同じ部屋で寝かせねぇからな」
騒がしかった夜が静かに更けていく。
大きなモンスターを退治するっていう、ハチャメチャに大変だった戦闘を終えて、私は少しだけ度胸が身についたのだった。




