一口食べてみます?
「おお。おかえり、シーナ。本当にそこから出てきたな」
バックヤードから出てくると、さっそくリークさんがお湯を沸かしてくれていた。
ウィルの姿は無い。どこか行ったのかな?
コテージはテントと違って、建物内に水のポンプが設置してあるみたいで、わざわざ汲みに行かなくてもいいのは便利だよね。
キッチンの火も魔法で付くのかな。
私の世界が科学で進歩しているのなら、こっちの世界は魔法で進歩しているんだなぁ。
「リークさん、超、超、お手軽なご飯持ってきましたよ!」
どれどれ、とこっちにやってくるリークさんによく見えるように、私はさっそく精算してきた商品をダイニングテーブルの上にレジ袋から出した。
軽いプラスティックのボウル型の容器。でかでかと印刷された商品名。
お湯で出来る簡単なご飯と言えば……。
「カップ麺です!」
「か、ぷ……?」
「えっと、ヌードル?分からないか……あ、パスタ!」
「パスタ???この小さな入れ物に、か?」
良かった。パンがあるからパスタはあるかなぁって思ったんだけど、案の定パスタはあった。
それでも、分かりやすく怪訝な表情を浮かべるリークさん。
そうだよねそうだよね。でも、作る過程を見たらもっと驚くと思うぞ。ふふふ。
そうこうしていると、コテージのドアが開いてウィルが戻ってきた。
その手には布の袋に収納されたテントや荷物がある。
あっ、テントを片付けに行ってたんだね。
「飯、出来たか」
帰るなりそれ!?部活終わりの高校生かっての!
とはいえ、戻ると同時にダイニングテーブルに置かれたカップ麺を、しっかり目で捉えていたからなのかもしれないけど。
本当、ウィルって異世界の食べ物好きだよね。
「今から作ります。ウィルは赤いわんこのうどんで、リークさんはサッポロ3番の味噌ラーメンで。私は緑のりすのそば!」
うどんと言えば赤いわんこ。ウィルは甘いものが好きだし、何となく揚げが好きそう。
リークさんはしっかり濃い味の味噌ラーメン。
そして私は、そばの上のサクサクのかき揚げ天ぷらが食べたいの~!
という訳で、ファーストカップ麺はこの3種類に決定。
一応、もう1個ずつ買ってきてるし、足りなくなったらまた取りに行こう。
私はカップ麺の蓋を開けて、スープの粉を入れ、リークさんが沸かしてくれたお湯を注いでいった。
「ふふふ、見ててください」
チクタクチクタク。
3分待っている間に、徐々に隙間からスープの香りが漏れてきた。
ゴクリとウィルかリークさんだか、どちらか判別の付かない唾を飲み込む音がする。
驚くのはまだ早いぞー!!
「よし、そろそろいいですね。こうやって蓋を開けて、中のパスタをほぐして食べてください」
召し上がれ、と促すと、ウィルとリークさんが蓋をはぎ取って中を確認する。
「何だこれ、固まっていた物が溶けてパスタみたいになってるぞ!」
リークさんが前のめりになりながら興奮気味にカップ麺を手に取って驚いている。
容器に顔を近付けて匂いを嗅いでみたり、揺らしてみたり。
100円ちょっとのラーメンにそこまで感動してもらえると、ちょっと気恥ずかしくもあるけど。
「シーナ、このスープは飲んでいいのか?」
ウィルが淡々とした口調で問いかけてきた。
だけど、私にはわかるぞ、ウィルは今凄く夢中になっている。
さっきからカップ麺に吸い寄せられたみたいに全然視線動かさないもんね
「飲んでも大丈夫。出汁が効いてておいしいよ~!」
「へぇ……」
私は割り箸を持ってきたけど、2人には流石にお箸を渡すわけには行かないので、フォークを渡す。
フォークを受け取った2人は勢いよくカップ麺に口をつけた。
「!?」
「……」
あっーーー!!凄く驚いてる!!!
ウィルは相変わらず背中に宇宙を背負った猫みたいな顔しているし、リークさんなんてぽかんとした後、そのまま凄い勢いで食べちゃってるし……あわわ、思った以上に2人の食べるスピードが早いよ。
「うめぇ!!こんな美味いパスタは初めて食べたぜ!水っぽい薄い味を想像していたが、スープにガツンと味がついていて、疲れた体に染み渡るみたいだ」
「この黄色いやつ、噛めば噛むほど甘みが出てくるな。あと、スープは優しい味なのにパスタが平べったいからか、しっかりとした満足感がある。」
おおう、これ、カップ麺1人2つで足りるかな。
そんな心配を余所に、あっという間にサッポロ3番を食べ終えたリークさんが、爛々とした目で私を見てきた。
「シーナ!まだあったりするか!?」
「あっ、はい!次は違うものを持ってきています。すぐお湯入れますね」
案の定、空になったカップ麺をダイニングテーブルに置いたリークさんはまだまだ足りないみたいだ。
慌てて、私はもうひとつのカップ麺にお湯を注いだ。
今度はもっとボリュームのあるワンタンメンのやつ。
ウィルはリークさんと違って味を噛みしめるみたいにしてじっくり食べているみたいだから、今のうちに私も自分のカップ麺食べちゃお。
上に後入れの掻き揚げ天ぷらを投下っと。
うーん、美味しそう!
「……おい、そのパスタ腐ってるぞ」
いざ食べようと割り箸を麺に付けようとした時、ウィルが私のカップ麺を見て驚いたように言ってきた。
意味が分からなくて自分のカップ麺を見た瞬間、悟る。
「これ腐ってるんじゃなくて、こういう麺なんですよ。そばって言って元々の色がこんな色なんです」
「信じられないな。見るからに腹を壊しそうな色してるぞ」
「一口食べてみます?」
「……」
そっとウィルの方に差し出すと、暫く無言のままそばを睨んだ後、カップ麺を受け取った。
あ、食べてみるんだ。
本当、ウィルって好奇心旺盛だな。
恐る恐るフォークでそばをすくって口に運ぶ。
ピシャーーン。
雷に打たれたかのような衝撃がウィルに走った。
「どう?美味しいでしょ」
完全に固まってるウィルに確認の意味も込めて声をかける。
うーん、もしかしてそば駄目だった??
「確かに……こんなに喉越しが良いパスタは初めてだ。しかもパスタ自体に独特の風味がある。それに……」
「それに?」
「いや、もう一口食べてみないと分からないな」
「え……あっ!!ちょっと駄目!!全部食べないでくださいよーー!!食べ過ぎ!!もーー!!返してーーー!!」
勢いよくそばをずるずる食べ出したウィルに慌てて手を伸ばす。
私のそば!!あ!かき揚げ天ぷら!!
駄目!!!それだけは駄目ーーーー!!!!




